◆闇騎士◆(ナイトメシア)~兎王子と人形姫の不思議な鏡迷宮~

卯月美羽(うさぎ・みゅう)

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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)

夢現十三時

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ミュウの目の前に、自分とよく似た姿の少女が佇んでいた。

ゴシック調の黒い服に身を包み、
濃いピンク色のツインテールの長い髪は、どこかウサギの耳を思わせるような束ね方をしている。

「だれ……?」

姿形はよく似てはいるが、凛とした美しさを感じる。
だがその瞳は、どこか物悲しさに染まっていた。

「わたしは、あなた……」

「えっ……?」

驚くミュウを見つめて、少し寂し気に口元に笑顔を浮かべる少女。

「お願い……。
あなたにはわたしと同じになってほしくないの。

王子様を手放したりしないで」

その言葉に驚きながらも、ミュウは静かに少女を見つめ返した。

王子様……。

自然とナイトのことを思い出し、瞳が揺れてしまう。
今にも涙がこぼれ落ちそうになるほどに。

この少女は本当に自分なのだろうか。

今は心に考える余裕すらなかった。
俯いたまま言葉を返した。

「もうナイトと一緒にはいられないよ……。
あんなに傷つけちゃったんだもん……」

「どうして傷つけたって思うの?」

ミュウはビクッとして瞳を大きくした。

「だって。
……だって、ミュウは……」

足元が震える。
立っているのがやっとなくらいに。

「ミュウは、ずっとナイトのことが怖かったんだもん!!」

それはナイトにも誰にも、打ち明けたことのない秘密だった。

「ちょっとしたことだったら見ないふりできてたのに……。
アンジェラさんを殺そうとした時、思ったの。

ナイトはミュウのためだったら、どんなに仲良くなったひとでも簡単に殺しちゃうんだって!!」

瞳からぼろぼろと涙が溢れた。

「だけど、離れ離れになってしまってもいいの?」

ぎゅっと瞳を閉じて震えをこらえた。

「やだ……いやだよ……。
でもナイトとはもう一緒にいられない……」

「あなたの覚悟はその程度のものだったの?」

ミュウはビクッとして、もう一度瞳を見開く。

「どんなに許されないことだとわかっていても、
傍にいると誓ったのじゃないの?」

真っすぐに見つめてくるその瞳から、目がそらせない。

「彼のことを愛しているから」

――少女のその言葉に、瞬間、辺りが静寂に包まれた気がした。

……ああ。そうか。
それはきっと、とても簡単なことだったんだ――。

どんなに許されない想いだったとしても、ミュウが願えばナイトは傍にいてくれる。

ミュウが危険な目に合えば、絶対に守ってくれる。

ふたりを邪魔する者が現れたら、必ず殺してくれる。

それがミュウは嬉しかったのだ――。

ミュウの心を、恐ろしい何かに変えてしまう、ナイトの歪んだ愛こそが怖かったのだ……。

あの時、拒絶したのはアンジェラを殺そうとしたナイトに対してではない。

”貴女にはワタクシだけが居ればそれでよい”

……そう言われて喜びを感じてしまっていた、悪魔のような自分自身の心に対してだったのだ。

認めてしまったら、もう後戻りはできない。
だから一瞬、躊躇してしまった。

けれどこの気持ちは、もう隠すことなど出来ない所まで来てしまっている……。

ナイトを放したくない。
誰にも渡さない。
ナイトはミュウだけの王子様。

きっとミュウのほうが、ナイトよりもずっとエゴイストだ。

「……うん。 そうだよ。
ミュウはナイトのことを愛してる」

ミュウは涙を流したまま笑ってしまっていた。

「ナイトとずっと一緒にいたい」

その瞳からはもう、迷いは消えていた。

「王子様とずっと仲良くね」

少女もそれが分かったように、優しく微笑んでくれた。

「うん。 ありがとう……」



「わたしも……」

少女が恥ずかしそうに急に話しだす。

「わたしも、この世界のどこかにいる王子様をさがしているの」

少しビックリして、真剣な瞳で見つめるミュウ。
少女は続ける。

「約束したの……ずっと一緒にいようねって……。
でも、離れ離れになってしまった。 絶対に諦めたくない……」

自分の気持ちに気付かせてくれた恩人に、感謝を伝えるように真剣な瞳で言葉を返すミュウ。

「みつかるよ、絶対に」

瞳を閉じて少女は答える。

「うん。 がんばる」

ふたりは手を取り合った。

「また逢える?」

尋ねるミュウ。

「うん! また逢おうね!」

ふたりは笑顔になり、どちらともなく指切りを交わした。

ミュウはナイトの元へと走り出した。
少女が優しく手を振り、その背中をいつまでも見送ってくれた。
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