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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現十五時
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ふたりの目の前には道など無く、真っ暗な谷底がどこまでも広がっていた……。
それは絶望的な光景だった。
谷底というよりも、まるで街自体が真っ黒な空間に浮かんでいるかのような感覚だった。
巨大な壁の、崩れかけた塀の上で、
ナイトとミュウは手を繋いだまま、言葉なく立ちつくしてしまった。
だが、ふたりにはのんびりとしている時間はなかった。
いつの間にか背後には、機械人形たちが迫ってきていた。
蜘蛛のような姿を模った人形の、脚だろうか腕だろうか。
振りかざすと地面が大きく割れた。
足場が崩れて、ふたりの体が宙に投げ出されてしまう。
ナイトは急いで崖の岩肌を掴み、もう片方の手でミュウの腕を掴んだ。
左腕に装着していた杖が衝撃で飛ばされて、
暗く暗く終わりのないような深い谷底に落ちて行った。
ふたりは崖の途中で、宙吊りの状態になってしまう。
「うう……っ」
ナイトの体に亀裂が走る。顔にもヒビが入りだす。
それを見たミュウは哀しそうに声を上げた。
「ナイト! ミュウの手をはなして!
このままじゃふたりとも――」
けれど、ナイトは手を離さなかった。
「……ワタクシと共に来ることを選んだのでしょう?
ワタクシ、とても嬉しかったのデスよ?
それとも、あの言葉は嘘だったのデスか?」
「ち、がう……。
嘘なんかじゃないよっ!」
「――っだったら黙って付いて来なさい!」
絶対に手を離さなかった。
その瞳は、ミュウの大好きな自信に満ちた、いつものナイトだった。
だが、ナイトの体力はもう限界だった。
崖を掴んでいるその手が、ゆっくりと力尽きていく。
指が離れた。
ふたり共に谷底に落ちそうになる。
が……。
「ナイト! ミュウ!」
――その時、どこからともなくメアリの声がした。
背中に黒い翼を生やしたメアリが、空を翔けて颯爽と現れた。
ふたりをしっかりと抱きかかえて、空中へと救い上げる。
「無事か!? 危ない所だったな!」
「ふ……、やっと来ましたか。 糞下僕が」
メアリの背中の翼を見て、少しだけ驚いたような様子を見せた。
「助けてもらった礼とかはないのか?」
引きつるメアリ。
ミュウを横抱きにして、ナイトは背中を掴ませる。
「ミュウ様は大丈夫ですか?」
転落しそうになったショックで、ミュウは気絶をしてしまっていた。
「気を失ってるだけだ。 命に別状はないぞ」
「そう、デスか……」
ナイトは肩をなでおろした。
「メアリ……。
貴方が来てくれて本当に良かった……」
「おい。気持ち悪いなぁ。 今更、礼を言うのか?」
メアリの耳元で呟いた。
「ミュウ様をお願いします」
……。
言うとナイトは、メアリの背中に掛けていた手を離した。
――。
「ナイト!?」
メアリは急いでナイトに手を伸ばす。
が、間に合わない。
ナイトの体は一瞬にして奈落の底へと消えていった。
――っっ。
メアリはかぶりを振って叫んだ。
「馬っ鹿野郎ーーーーーーッッ!!」
メアリの叫び声だけが暗闇の中で、どこまでも響いていた。
それは絶望的な光景だった。
谷底というよりも、まるで街自体が真っ黒な空間に浮かんでいるかのような感覚だった。
巨大な壁の、崩れかけた塀の上で、
ナイトとミュウは手を繋いだまま、言葉なく立ちつくしてしまった。
だが、ふたりにはのんびりとしている時間はなかった。
いつの間にか背後には、機械人形たちが迫ってきていた。
蜘蛛のような姿を模った人形の、脚だろうか腕だろうか。
振りかざすと地面が大きく割れた。
足場が崩れて、ふたりの体が宙に投げ出されてしまう。
ナイトは急いで崖の岩肌を掴み、もう片方の手でミュウの腕を掴んだ。
左腕に装着していた杖が衝撃で飛ばされて、
暗く暗く終わりのないような深い谷底に落ちて行った。
ふたりは崖の途中で、宙吊りの状態になってしまう。
「うう……っ」
ナイトの体に亀裂が走る。顔にもヒビが入りだす。
それを見たミュウは哀しそうに声を上げた。
「ナイト! ミュウの手をはなして!
このままじゃふたりとも――」
けれど、ナイトは手を離さなかった。
「……ワタクシと共に来ることを選んだのでしょう?
ワタクシ、とても嬉しかったのデスよ?
それとも、あの言葉は嘘だったのデスか?」
「ち、がう……。
嘘なんかじゃないよっ!」
「――っだったら黙って付いて来なさい!」
絶対に手を離さなかった。
その瞳は、ミュウの大好きな自信に満ちた、いつものナイトだった。
だが、ナイトの体力はもう限界だった。
崖を掴んでいるその手が、ゆっくりと力尽きていく。
指が離れた。
ふたり共に谷底に落ちそうになる。
が……。
「ナイト! ミュウ!」
――その時、どこからともなくメアリの声がした。
背中に黒い翼を生やしたメアリが、空を翔けて颯爽と現れた。
ふたりをしっかりと抱きかかえて、空中へと救い上げる。
「無事か!? 危ない所だったな!」
「ふ……、やっと来ましたか。 糞下僕が」
メアリの背中の翼を見て、少しだけ驚いたような様子を見せた。
「助けてもらった礼とかはないのか?」
引きつるメアリ。
ミュウを横抱きにして、ナイトは背中を掴ませる。
「ミュウ様は大丈夫ですか?」
転落しそうになったショックで、ミュウは気絶をしてしまっていた。
「気を失ってるだけだ。 命に別状はないぞ」
「そう、デスか……」
ナイトは肩をなでおろした。
「メアリ……。
貴方が来てくれて本当に良かった……」
「おい。気持ち悪いなぁ。 今更、礼を言うのか?」
メアリの耳元で呟いた。
「ミュウ様をお願いします」
……。
言うとナイトは、メアリの背中に掛けていた手を離した。
――。
「ナイト!?」
メアリは急いでナイトに手を伸ばす。
が、間に合わない。
ナイトの体は一瞬にして奈落の底へと消えていった。
――っっ。
メアリはかぶりを振って叫んだ。
「馬っ鹿野郎ーーーーーーッッ!!」
メアリの叫び声だけが暗闇の中で、どこまでも響いていた。
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