異世界で妖精に生まれ変わった薄幸JC、勇者にフラれて魔王の嫁になる。

その後の話

天に愛された祭事

　教会の鐘が町中に響く。
　アトラルの首都、華やかな城下町から離れた場所にある白亜の神々しい建物。上部の尖頭せんとうアーチに設置された青鈍あおにび色の鐘が荘厳な音を奏でている。
　その鐘の音に誘われるように集まる敬虔けいけんな信者たち。聖職者たちがにこやかに釣鐘の形をした白い花を配っている。
　今日は一年に一度行われる教会の祭り。魔王を討伐した勇者一行の修道女が神託を受けた記念の日だ。自然に感謝をし、平和を祝う。町外れの教会で行われるから、ささやかなもの。祭りといっても出し物はなく、司祭が読経し、信者たちが祈りを捧げるくらいだ。
　この半年前に城下町で行われる「平和記念日」に比べると天と地ほどの差がある。勇者が魔王を討伐した日に行われる国を挙げての賑やかな祭り。花火が上がり、楽器団による演奏が町中に響き、数えきれないほどの屋台が並ぶ。他にも大道芸やら芝居やら、多種多様の見世物もある。それが一週間も続くのだから、国外でも有名だ。
　それとは比べ物にならないが、この教会の祭りは平和を願う者たちが絶えず、地域住民に愛されている。今日まで細々と続いてきた。
　この日は始まってから十年間、まるで自然から祝福されているように毎年晴天になる。集まる者たちは、それがなんだか誇らしく思っている。
　記念日に配られる愛らしい白い花は、魔王討伐隊に加わった妖精と同じ名前のものだ。世界が平和になると何処かへ消えてしまった小さな少女。討伐隊の修道女は少女を想い今も祈り続けている。教会では今も妖精の少女が見守っているに違いないと信者たちに伝えている。
　晴れ渡る青空の下で白い花々が点々と咲く。人々に手渡された花が町中に広がっていく様が清廉せいれんで美しい。鳥が歌うように囀さえずり、平和を喜ぶ人々の笑みが自然と溢れている。