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始まりの島
鉄で船を作ってしまう
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-鉄の島・ガンム―
かつては狩猟や漁業が盛んだった、あまり農耕に力を入れて来なかった島。
ところが噴火が起こり、島は吹き出したマグマによって、ついでに鉄も吹き出してしまう。
それが、今ではこの島の特産物となり、多くの交易船が島にやって来るようになった。
…が。
元々大きな船が入れるような立派な港は無く、しかも特産物が重い鉄となると、一日に荷揚げ・荷下ろしできる船も量も限られてくる。
なので、自ずと船員たちの島での滞在日数は多くなる…。
「キンキンに冷えているぜぇー」
酒焼けした顔を、さらに赤く染めながら、船乗りたちが鉄のジョッキに注がれたエール酒を喉を鳴らしながら飲み干してゆく。
地下水に浸しておくだけで、鉄のジョッキはキンキンに冷える。
安いものだ。
17歳を迎えたウルも、酒場に顔を出すようになっていた。
でも、もっぱら食事にありつくだけで、お酒の方はせいぜいジョッキに1杯。人と会話なんて、避けてはいないけど、取り立てて話題が無いので、進んで話しかける事もしない。…実は話し掛けられないというのが正直なところ。
彼ができるのは、他人の話に聞き耳を立てる事くらい。
「剣聖が打ち負かされた話、聞いた事があるか?」
ウルの耳が、男たちの方へと向けられた。
大抵の商戦の船乗りの噂と言えば、何がどこの街で売れているか、もしくは戦争などによって通貨のレートが変動したなどの商売に関わる話ばかり。
時々、海獣が暴れて困っているという話も聞くが、それはほとんどが嵐に巻き込まれた船の残骸を目にした船乗りたちの与太話に過ぎない。
そんな中。
きな臭い戦争の話は大嫌いだが、やはり男の子、剣豪たちの武勇伝はウルの大好物である。
男たちが続ける。
「何でも、剣聖様相手に“剣”ではなく、船の櫂で戦いを挑んで勝ったそうだ」
にわかに信じられない。
それは、相手の男も同じリアクションを取っている「本当かぁ?」
「まあ、得物の長さがモノを言ったのだろうな。しかも、木製の櫂だと同じ長さの剣よりも遥かに軽いからな」
直接見たわけでもないのに、自らの見解のオマケ付き。
得物が長ければ戦いを有利に進められるものなのか。
さらに軽いと、より強いのか。
実戦どころか、チャンバラすらやった事の無いウルにとっては、男たちの会話は戦術書に匹敵する情報であった。
ただし、それは彼らの見解であって、セオリーでは無い事などド素人のウルには判断できないが。
日々の天候や海の荒れ模様だけを気にする漁師町に育ったウルにとって、戦争事は、まさに他人事の極みだった。
島の男たちが戦に駆り出されたという話など聞いた事も無い。
耳にするのは伝承として語り継がれる神話の中の戦争だけ。
しかも相手は、ドラゴンやトロルといった人外なので、とうてい人の力では太刀打ちできない。
なので、自ずと島の住民たちにとって戦争とは無縁のものと成り果てていた。
島から剣士を目指す者など、誰一人いなかった。
だが。
それは今日までの話。
ウルは決めた。
“長くて軽い剣を使えば、オレでも剣豪になれるんじゃね?”
実に単純な発想で、剣士を目指す事となった。
しかし、世の中、彼と同じ発想に至り行動に移した者たちの、何とも多い事か…。
大陸全土から、剣士となるべるバラカン皇国を目指して旅立った老若男女を問わず多くの者たち。
それぞれが皆、同じように船の櫂、もしくはもした武器を携えて皇都へ向かう。
だけど、その前に。
ウルには、先立つものがない。
路銀はというと。
せいぜい大陸に渡って2日しのげる程度。
旅立つにしては、雀の涙といった具合。トホホ。
うーん…。しかし、ここは頭の使いどころ。
大陸に上がって、持ち合わせがなく、いきなり泥棒を働いて牢屋送りになる事だけは何としてでも避けねばならない。
ここで考えねばならないのが、“いかに節約するか?”だ。
取り敢えず、何に一番費用が掛かるかを検討してみる。
船代だ。
どうにかならないか?散々思案した挙句に出た答えは。
泳いで渡るか?しかし、船でまる2日の距離。身軽に裸で渡る訳にもいかず、サメに襲われる危険性だってある。泳ぎはダメだ。即却下。
顔見知りの漁師に船で送ってもらうか?
それもきっと、その日の収穫量と同じくらいのお金を請求されるのがオチだ。顔見知りだとしても、彼らはきっと、足元を見て吹っかけて来るに違いない。これも却下。
夜通し考えた挙句導き出した答えが、朝にはカタチとなって、ウルの前に完成した。
“鉄の小舟”だ。
完成したのは良いが…。
材料の木が高かったので、取り敢えず手に入り易い鉄の板を薄く延ばして張り合わせて作ってはみたけれど。
果たして、こんな船で海を渡れるのか?
それ以前に海に浮かぶのか?
塩水は真水よりも浮きやすいとは言うけれど…。
ともあれ、前途多難の旅が始まる。
かつては狩猟や漁業が盛んだった、あまり農耕に力を入れて来なかった島。
ところが噴火が起こり、島は吹き出したマグマによって、ついでに鉄も吹き出してしまう。
それが、今ではこの島の特産物となり、多くの交易船が島にやって来るようになった。
…が。
元々大きな船が入れるような立派な港は無く、しかも特産物が重い鉄となると、一日に荷揚げ・荷下ろしできる船も量も限られてくる。
なので、自ずと船員たちの島での滞在日数は多くなる…。
「キンキンに冷えているぜぇー」
酒焼けした顔を、さらに赤く染めながら、船乗りたちが鉄のジョッキに注がれたエール酒を喉を鳴らしながら飲み干してゆく。
地下水に浸しておくだけで、鉄のジョッキはキンキンに冷える。
安いものだ。
17歳を迎えたウルも、酒場に顔を出すようになっていた。
でも、もっぱら食事にありつくだけで、お酒の方はせいぜいジョッキに1杯。人と会話なんて、避けてはいないけど、取り立てて話題が無いので、進んで話しかける事もしない。…実は話し掛けられないというのが正直なところ。
彼ができるのは、他人の話に聞き耳を立てる事くらい。
「剣聖が打ち負かされた話、聞いた事があるか?」
ウルの耳が、男たちの方へと向けられた。
大抵の商戦の船乗りの噂と言えば、何がどこの街で売れているか、もしくは戦争などによって通貨のレートが変動したなどの商売に関わる話ばかり。
時々、海獣が暴れて困っているという話も聞くが、それはほとんどが嵐に巻き込まれた船の残骸を目にした船乗りたちの与太話に過ぎない。
そんな中。
きな臭い戦争の話は大嫌いだが、やはり男の子、剣豪たちの武勇伝はウルの大好物である。
男たちが続ける。
「何でも、剣聖様相手に“剣”ではなく、船の櫂で戦いを挑んで勝ったそうだ」
にわかに信じられない。
それは、相手の男も同じリアクションを取っている「本当かぁ?」
「まあ、得物の長さがモノを言ったのだろうな。しかも、木製の櫂だと同じ長さの剣よりも遥かに軽いからな」
直接見たわけでもないのに、自らの見解のオマケ付き。
得物が長ければ戦いを有利に進められるものなのか。
さらに軽いと、より強いのか。
実戦どころか、チャンバラすらやった事の無いウルにとっては、男たちの会話は戦術書に匹敵する情報であった。
ただし、それは彼らの見解であって、セオリーでは無い事などド素人のウルには判断できないが。
日々の天候や海の荒れ模様だけを気にする漁師町に育ったウルにとって、戦争事は、まさに他人事の極みだった。
島の男たちが戦に駆り出されたという話など聞いた事も無い。
耳にするのは伝承として語り継がれる神話の中の戦争だけ。
しかも相手は、ドラゴンやトロルといった人外なので、とうてい人の力では太刀打ちできない。
なので、自ずと島の住民たちにとって戦争とは無縁のものと成り果てていた。
島から剣士を目指す者など、誰一人いなかった。
だが。
それは今日までの話。
ウルは決めた。
“長くて軽い剣を使えば、オレでも剣豪になれるんじゃね?”
実に単純な発想で、剣士を目指す事となった。
しかし、世の中、彼と同じ発想に至り行動に移した者たちの、何とも多い事か…。
大陸全土から、剣士となるべるバラカン皇国を目指して旅立った老若男女を問わず多くの者たち。
それぞれが皆、同じように船の櫂、もしくはもした武器を携えて皇都へ向かう。
だけど、その前に。
ウルには、先立つものがない。
路銀はというと。
せいぜい大陸に渡って2日しのげる程度。
旅立つにしては、雀の涙といった具合。トホホ。
うーん…。しかし、ここは頭の使いどころ。
大陸に上がって、持ち合わせがなく、いきなり泥棒を働いて牢屋送りになる事だけは何としてでも避けねばならない。
ここで考えねばならないのが、“いかに節約するか?”だ。
取り敢えず、何に一番費用が掛かるかを検討してみる。
船代だ。
どうにかならないか?散々思案した挙句に出た答えは。
泳いで渡るか?しかし、船でまる2日の距離。身軽に裸で渡る訳にもいかず、サメに襲われる危険性だってある。泳ぎはダメだ。即却下。
顔見知りの漁師に船で送ってもらうか?
それもきっと、その日の収穫量と同じくらいのお金を請求されるのがオチだ。顔見知りだとしても、彼らはきっと、足元を見て吹っかけて来るに違いない。これも却下。
夜通し考えた挙句導き出した答えが、朝にはカタチとなって、ウルの前に完成した。
“鉄の小舟”だ。
完成したのは良いが…。
材料の木が高かったので、取り敢えず手に入り易い鉄の板を薄く延ばして張り合わせて作ってはみたけれど。
果たして、こんな船で海を渡れるのか?
それ以前に海に浮かぶのか?
塩水は真水よりも浮きやすいとは言うけれど…。
ともあれ、前途多難の旅が始まる。
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