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始まりの島
やっぱりダメでした
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鉄の小舟は…。
まあ、何とか浮力が働いているようで、浮くには浮くのだが。
よくよく考えてみれば、薄く延ばした鉄の板を張り合わせて作っている代物。
鉄は海水に含まれる塩分によって腐食もするし、どこからか浸水して沈没してしまうのは火を見るよりも明らか。
発想は決して悪くなかったと自身に言い聞かせる。
ただ、それをしっかりとしたカタチにする技術が追い付いていなかったのだと、誰に言い訳する訳でもなく。
素直に無能なのを認めたくないだけ。
剣士になって皇都で名を上げる。
明確な目的があるのに、未だスタートラインに立つことすらできない。
皇都に行きたい、皇都に行きたい、皇都に行きたい!
思いは募るばかり。
そうして数日が過ぎ、停泊していた商船は発ってしまった。
そして、次の商船が沖に停泊。
商船といえば。
本来ならば、えっちらおっちらと回数を分けての荷下ろしと荷揚げを繰り返しているはずなのに、水と食料を積み込んではいるものの、一切荷下ろしをしていない。
その船は初めて見る船で、掲げている旗も知らないものだった。
あの旗印は、どこぞの国家なのか?海運業者なのか?所属すらハッキリしない。
他の商船の船乗りたちも、どこの船なのか?皆知らないと首を横に振る。
船長らしき男性が、数人の船乗りたちを引きつれて酒場へとやってきた。
どこの国の商船なのか気になってしょうがないウルは、いつものごとく、少し離れたテーブルで、彼らの話に聞き耳を立てていた。
やはり、自分から声を掛ける勇気は無い。
男たちの会話を、所々ではあるが、聞き取る事に成功。
とはいえ、やたらと難しい単語を使うわ、訛りも激しいわで非常に聞き取り辛い。
男たちの会話を要約すれば。
どうやら○○の人数が予定を満たしていないらしく、この島では空振りに終わりそうだとの事。
(コイツら人手不足なのかな…)
これは運が巡ってきた。
人手が足りないのなら、短期でも船に乗せてもらえるはず。
交渉のカードは、こちらの方が断然強い!
「あの、おじさんたち」
勇気を振り絞って声を掛けてみた。
「何だ?小僧」
威嚇するような目で睨んでくる。足がガクガクと震えてはいるものの、ここは怯えていると悟られてはいけない。
気丈に振る舞うなど、到底できるはずもなく、何とか笑顔を作って会話を繋ぐ。だけど、ひと目で引きつり笑いと分かってしまう。
「お、おじさんたち・・ひ、人手が足りないようだね」
男たちは威圧するように身を乗り出してきた。
ウルは思わず体を仰け反らせながらも、実際のところは膝がガクガクと震えてしまい後ろへと退く事すらできないだけ。
「何なら、このオレが手を貸そうか?」
思い切って言ってみた。
こういう事は、勢いがモノを言う。何とか噛まずに言えたので、心の中で胸を撫で下ろす。
すると男たちの態度が急変。
威嚇するような態度から一変して、「そうかい、そうかい」寒気が走りそうな撫で声て初対面のウルを迎えてくれた。
「で、お前の名前は?」
訊ねられたので、すぐに「ウルだ」名乗って見せた。
「船で大陸に渡るのかい?」
和やかに話し込む中、ウルが訊ねると、男たちは景気よくジョッキを傾け。
「そうさ。大陸の港という港を渡り回っているんだぜ」
自慢げに話してくれた。
港という港か…。
正直、船乗りを目指している訳ではないので、バラカン皇国の皇都ソレイユにさえ行けたら、それだけでいいのだが。
タダで乗せてもらうのだから、多少の遠回りも仕方が無いと、妥協してしまうウルだった。
~~~~~~~~~~~~
そして、小舟に乗って、沖に停泊している男たちの船に乗り込んだ。
深夜になってからの乗船。
よほど人手不足らしく、見張りの船乗りの姿の少ない事。
さらにその数少ない見張りでさえ、酒に酔って寝入っている始末。
この商船、大丈夫か?船荷を誰かに盗まれたりしないか?
あまりの無防備ぶりに、子供ながら心配してしまう。
「お前の部屋はここだ」
宛がわれたのは、やけにだだっ広い船室。
船室というよりも船底に近い貨物室みたい。
だけど、天井近くと、足元の壁際に小さな窓というより隙間が設けてあるだけで、やたらと冷えるし、とても暗い。
今は真夜中だから、まだ外から入る光が明るく感じられるけれど、これが日中でも、とても暗い部屋になってしまう。
!?
ウルは気付いた。
足元にある壁際の小さな隙間は窓では無い。
これは便所だ。
後ろでドアが閉まる音がした。
さらに外からカギが掛けられる音も。
これは!
まさか牢屋?
気付くも時すでに遅し。
ウルは男たちによって閉じ込められてしまった。
「出せ!俺をここから出せ!」
叫ぶも、誰も応えてはくれなかった。
この船は商船などでは無い。“奴隷商船”だったのだ。
囚われの少年ウル。
果たして彼を待ち受ける運命は。
まあ、何とか浮力が働いているようで、浮くには浮くのだが。
よくよく考えてみれば、薄く延ばした鉄の板を張り合わせて作っている代物。
鉄は海水に含まれる塩分によって腐食もするし、どこからか浸水して沈没してしまうのは火を見るよりも明らか。
発想は決して悪くなかったと自身に言い聞かせる。
ただ、それをしっかりとしたカタチにする技術が追い付いていなかったのだと、誰に言い訳する訳でもなく。
素直に無能なのを認めたくないだけ。
剣士になって皇都で名を上げる。
明確な目的があるのに、未だスタートラインに立つことすらできない。
皇都に行きたい、皇都に行きたい、皇都に行きたい!
思いは募るばかり。
そうして数日が過ぎ、停泊していた商船は発ってしまった。
そして、次の商船が沖に停泊。
商船といえば。
本来ならば、えっちらおっちらと回数を分けての荷下ろしと荷揚げを繰り返しているはずなのに、水と食料を積み込んではいるものの、一切荷下ろしをしていない。
その船は初めて見る船で、掲げている旗も知らないものだった。
あの旗印は、どこぞの国家なのか?海運業者なのか?所属すらハッキリしない。
他の商船の船乗りたちも、どこの船なのか?皆知らないと首を横に振る。
船長らしき男性が、数人の船乗りたちを引きつれて酒場へとやってきた。
どこの国の商船なのか気になってしょうがないウルは、いつものごとく、少し離れたテーブルで、彼らの話に聞き耳を立てていた。
やはり、自分から声を掛ける勇気は無い。
男たちの会話を、所々ではあるが、聞き取る事に成功。
とはいえ、やたらと難しい単語を使うわ、訛りも激しいわで非常に聞き取り辛い。
男たちの会話を要約すれば。
どうやら○○の人数が予定を満たしていないらしく、この島では空振りに終わりそうだとの事。
(コイツら人手不足なのかな…)
これは運が巡ってきた。
人手が足りないのなら、短期でも船に乗せてもらえるはず。
交渉のカードは、こちらの方が断然強い!
「あの、おじさんたち」
勇気を振り絞って声を掛けてみた。
「何だ?小僧」
威嚇するような目で睨んでくる。足がガクガクと震えてはいるものの、ここは怯えていると悟られてはいけない。
気丈に振る舞うなど、到底できるはずもなく、何とか笑顔を作って会話を繋ぐ。だけど、ひと目で引きつり笑いと分かってしまう。
「お、おじさんたち・・ひ、人手が足りないようだね」
男たちは威圧するように身を乗り出してきた。
ウルは思わず体を仰け反らせながらも、実際のところは膝がガクガクと震えてしまい後ろへと退く事すらできないだけ。
「何なら、このオレが手を貸そうか?」
思い切って言ってみた。
こういう事は、勢いがモノを言う。何とか噛まずに言えたので、心の中で胸を撫で下ろす。
すると男たちの態度が急変。
威嚇するような態度から一変して、「そうかい、そうかい」寒気が走りそうな撫で声て初対面のウルを迎えてくれた。
「で、お前の名前は?」
訊ねられたので、すぐに「ウルだ」名乗って見せた。
「船で大陸に渡るのかい?」
和やかに話し込む中、ウルが訊ねると、男たちは景気よくジョッキを傾け。
「そうさ。大陸の港という港を渡り回っているんだぜ」
自慢げに話してくれた。
港という港か…。
正直、船乗りを目指している訳ではないので、バラカン皇国の皇都ソレイユにさえ行けたら、それだけでいいのだが。
タダで乗せてもらうのだから、多少の遠回りも仕方が無いと、妥協してしまうウルだった。
~~~~~~~~~~~~
そして、小舟に乗って、沖に停泊している男たちの船に乗り込んだ。
深夜になってからの乗船。
よほど人手不足らしく、見張りの船乗りの姿の少ない事。
さらにその数少ない見張りでさえ、酒に酔って寝入っている始末。
この商船、大丈夫か?船荷を誰かに盗まれたりしないか?
あまりの無防備ぶりに、子供ながら心配してしまう。
「お前の部屋はここだ」
宛がわれたのは、やけにだだっ広い船室。
船室というよりも船底に近い貨物室みたい。
だけど、天井近くと、足元の壁際に小さな窓というより隙間が設けてあるだけで、やたらと冷えるし、とても暗い。
今は真夜中だから、まだ外から入る光が明るく感じられるけれど、これが日中でも、とても暗い部屋になってしまう。
!?
ウルは気付いた。
足元にある壁際の小さな隙間は窓では無い。
これは便所だ。
後ろでドアが閉まる音がした。
さらに外からカギが掛けられる音も。
これは!
まさか牢屋?
気付くも時すでに遅し。
ウルは男たちによって閉じ込められてしまった。
「出せ!俺をここから出せ!」
叫ぶも、誰も応えてはくれなかった。
この船は商船などでは無い。“奴隷商船”だったのだ。
囚われの少年ウル。
果たして彼を待ち受ける運命は。
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