盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

文字の大きさ
45 / 351
[4]主と従

-43-:俺の本分は学生だ。戦う事じゃない

しおりを挟む
「う、うん。可愛い…と、お、思うよ」
 あからさまにぎこちない褒め言葉。


「マスター。先ほどから気になっていたのですが、私は貴方に仕えている身です。私ごときに敬語は不要です。私が充填モードに入った時のように話して頂いて結構です」
 その言葉を聞くなり、しまったと思った。あの時は半分ヤケクソになってどうでも良いと感じていたからで彼女を、もとい!彼を邪険に扱ってしまった。

「そ、そうだな。以後気を付けるよ。それとベルタ。傍目もあるし、俺の事は“ヒューゴ”で頼む」

「了解しました。ヒューゴ」



 教会に到着し、さっそく勝手口へと回りインターホンを鳴らす。
 誰も出ない。こんな夜遅くに当然といえば当然だが。

「ヒューゴ。やはりご迷惑ではないでしょうか?朝になってから出直しましょう」
 ベルタの助言にも耳を貸さずにヒューゴは再度インターホンを鳴らした。

「はい。こんな夜中にどちら様ですか?」
 年老いた男性の声。ヒューゴは教会とはまるで縁の無い生活を送っているが、ここの神父様は年老いた男性だということは知っていた。
 出たのはこの教会の神父様だ。
「高砂と申します。夜分遅くに申し訳ありません。火急の用事がありまして、ここにいらっしゃるココミさんにお取次ぎ願いたいのですが?」

「しばしお待ちを」
 最初と違って声のトーンが低くなっている。明らかに無礼な訪問に怒っている様子だ。


 しばらくして、ドアが開いた。
「何です?ヒューゴさん。二度と顔を見せるなと私に言っておきながら、ノコノコと顔を出したりなんかして」
 眠気眼で文句を垂れている。その事に苛立ちを覚えるも。

「彼女を見て、何か言う事は無いか?」
 道を開けてベルタの姿を拝ませた。

「わざわざ、こんな夜中にカノジョを見せびらかしに来たのですか?一体、何の嫌がらせです?」

「誰がそんなヒマな事するかよ。彼女はベルタだ」

「そうでしたか。それは良かった。それにしても、随分と可愛らしいお姿になられたものですね」
 果たしてそれは中年男性として現れた人物に対して失礼に当たらないのだろうか?たぶんココミは微塵も気にしていないのだろう。言われた相手は苦笑いを返すだけ。

「それにしても、無事に現化されて何よりです。私はてっきり・・いや何でも無いです。では」
 と、そそくさとドアを閉めようとしたその時、ドアに何かが挟まった。
 ヒューゴがスニーカーのつま先を滑り込ませたのだ。

「ヒューゴ。そんな事をしたら足に怪我を負ってしまいますよ」

「大丈夫だ。足の甲に強化プラスチックの入った防災用の安全スニーカーだ。で、ココミ。どうしてベルタが現化するって事を俺に言わなかった?」
 ヒューゴの質問に対してココミは欠伸をひとつ入れて。

「アンデスィデが終わった、あの時に“ベルタさんが現化”できていない事をライクに知られてはならなかったからです。もしも知られてしまうと、あの時点で貴方は彼の執事ウォーフィールドによって抹殺されていました」

「なかなかもっともらしい言い訳だが、戦闘中でも教える機会は十分あっただろ?」
 指摘されると、ココミは舌打ちひとつ入れてからドアを閉めようとスニーカーのつま先を蹴った。が、負けまいと、またも爪先を押し込んできた。

「ヒューゴさん。こんな夜中に押しかけて、ご近所様の迷惑になると自覚が無いのですか?」

「お前こそ。こっちは夜中にベルタが現れてビックリしたぞ」
 ドアを隔てた醜い攻防戦が繰り広げられる。
 見ていられなくなったベルタがドアを掴んで二人を止めた。

「ヒューゴ。こんな下らない事をするために、ここへやって来たのですか?」

「あ、いや。肝心な用件を忘れていた」
 ドアから手を放して足も引っ込めた。するとドアは閉められて中から鍵を掛けられた。

「ったく。もう!ココミ。俺からはもう用は無いので、彼女は、ベルタはここに置いて行くからな。彼女も同意の上だから問題無い。と、いう訳で、あとは頼むぞ」
 告げて背を向けると、背後からゆっくりとドアの開かれる音が聞こえてきた。

「ヒューゴさん・・もしかして、これで私たちとは縁を切るという事ですか・・?」
 ドアの隙間から覗かせたココミの眼には涙が浮かんでいた。

「そうだ。俺の本分は学生だ。戦う事じゃない」

「あなたはそのつもりで私と共にここへやって来たのですか?」
 事情の変化に戸惑いを隠せず、ベルタが訊ねた。

「そういう事だ。すまないな、ベルタ。昨日の勝利はまさに奇跡だった。正直怖かったし、もしも俺がいなくなったら家族や周囲の人たちの生活に影を落とすかもと考えると、どうしても次の戦いには臨めない。臆病者だと笑ってもらっても構わない。でも、お前たちとの約束と天秤に掛けたら、やはり自分の事に傾いてしまってな」

 謝るヒューゴにベルタは首を振り。
「謝らないで下さい、ヒューゴ。それは致し方の無い事です。あなたは十分立派に約束分働いて下さいました。私は感謝しています。共に戦ってくれた事。そして昔の気持ちを思い出させてくれた事を」

「そっか。でも、途中で役目を投げ出してゴメンな。ベルタ、ココミ」
 それだけ告げるとヒューゴは教会を後にした。

「覚えておいて下さい、ヒューゴ。私はこれからも貴方を護る兵士だという事を」
 立ち去るヒューゴの背中にベルタが言葉を投げかけるも、彼は振り向くことはしなかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

処理中です...