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[11]迫撃!トリプルポーン

-110-:今現在も“出来る限りの努力”して見せています

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「助かったよ、アルルカン。だけど、彼女を丁重に扱えよ」

 クレハから解放されたライクの表情は、彼を救ったアルルカンなる人物に対して、とても厳しいものだった。

 アルルカンは「仰せのままに」クレハの痴態とも言えるその体勢を変える事はしなかったが、彼女の身体を引き裂く事は止めた。

 ライクが掲げ上げられたクレハを見上げた。

「部外者の君が安易に“殺す”なんて物騒な言葉を使うのは止めなよ。“殺す”って言葉を使って良いのは殺されても良い覚悟のある者だけだよ」

「もっともらしいコトを言わないで!私には覚悟があ『ライク!彼女には手を出さないで!』―」
 ライクは話の途中に割り込んできたココミを手で制して見せた。

「ココミ。大事な事を思い出したのなら、それを高砂・飛遊午に伝えなくても良いのかい?今はお転婆クレハに付き合っている場合じゃないだろ?」

 ライクの言葉に、ココミはそうだったと、魔導書を通じてヒューゴに通信を送った。



「ヒューゴさん!」
 ココミから通信が入った。

「何だ、ココミ」

「今、カムロが口にした“ヴォルト”は我々の世界にかつて実在した人物で、それも合戦において格闘技だけで多大な戦果を挙げた、世に名を轟かせた人物でした」

「でしたって、それがウォーフィールドの正体とでも?」

「はい。ですが、正確には“正体のひとつ”と考えるべきです」

「べき?あのね、お嬢さん??」
 また突飛な事を言い出したものだ。あまりの発想に戸惑う。

「先ほど出た“ヴォルト”という人物は“イスルハティヤ”と呼ばれる幾度となく合戦が繰り広げられた高原で命を落としました。私はウォーフィールドが、彼のように合戦で命を落とした戦士たちの魂の寄り集まりに思えてなりません。こう見えても私は武術に関して素人ですが、先程からウォ-フィールドの戦いぶりを拝見していると、とても一人が扱える種類の武術ではないと解釈しています」

 うーん。

 彼女の話の内容よりも、どうも“こう見えても”という冠詞が気になって仕方が無い。

 どこからどう見てもココミからは剣や格闘技といった血生臭いモノは連想できないし、武術の類いに精通しているとは思えない。

「と、言うことは、ウォーフィールドは達人の集合体という訳ですか」
 ベルタはツッコミ所を全くスルーして彼女の話に耳を傾けていたようだ。

 それが分かったところで戦局が変わる訳でも無いだろうに。
 そう思った自身を即座に否定した。

 ウォーフィールドの先程からの対応ぶりには驚かされる事が多かった。
 それは彼の戦歴が、トータルすれば、とてつもなく多い事が要因とされるからではないだろうか?

 膨大な経験を持つ相手を打ち破る方法はただ一つ。

 『未だ経験した事の無い攻撃』を仕掛けることだけ。


 幾十、幾百、幾千、トータルすれば幾万それ以上の戦績を重ねてきた相手が、未だ経験した事の無い攻撃とは?

 コイツは将棋の何手先を読むとかのレベルでは無いぞ。

 プロ棋士の父でも、このような戦いは経験していないだろう。
 ヒューゴはあらゆる手段を講じて考え頭を巡らせた。

 そこに、たった一つの光明が見えた。


「ウォーフィールド。世の中、アンタみたいに“出来る”ヤツばかりじゃないんだよ。出来ないヤツだって、出来る限りの努力をしている事を頭に入れてやって欲しいのさ」
 諭すカムロの声に。

「ええ。たった今、貴方の仰る事が正しいと身を持って知りました。見て下さい。高砂・飛遊午は今現在も“出来る限りの努力”して見せています」
 告げた先には。

 ベルタが、右のキバを前へと突き出し、左のキバは持ち手を頬の辺りまで引き下げて両方の双刀の刃を水平に構える。

「ああ、そうだね。アイツは良いお手本になる。アイツとまみえてアタイは嬉しいよ」
 カムロの6つ目がディープブルーへと変わった。
 三又槍トライデントによる突撃チャージの構えに入った。

「いくよ、マサノリ!ウォーフィールド!」
 背負いモノが前へと倒れて、再びクロックアップ発動!

 速力そのままに突進を仕掛けてきた。

 片やベルタは、身を低くしながらの突進。

 先手はカムロ!槍を突き出して刺突攻撃を仕掛けてきた。

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