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[14]騎士と兵士

-141-:これよりマスターへのインストール作業に入ります

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「これは一体、どういう事なんだ!?」
 懸念していた問題が、現実のものとなってしまった。

 ダナはココミたちに最初に条件を出した。

 彼女自身が認める者をマスターに迎えると。

 たった数回ほどしかリョーマとは会話していなかったものの、彼の高慢な態度は、いささか鼻についていた。

 きっとダナは魔導書を通して彼の人間性を観察していたに違いない。

「も、もう一度電話を掛け直しては…」

「すでに掛けている!」
 イライラしながら、電話に出てくれるのを待つ。

「寝ているのか!?ダナというドラゴンは!」
 また掛け直す。

「アンタ、嫌われているんじゃないの?」
 クレハがジト目でイラつくリョーマを見やる。

「バカな!まだ逢ってもいない相手をかい?それよりもココミ・コロネ・ドラコット。他に彼女と連絡を取る手段は無いのか?」
 次の手を考えていた。

「そ、そうでした」
 言われて、慌てて魔導書のページを開いた。

 そこには何も描かれていなかったが、ココミは人差し指で文字を書いてゆく。

 こちらの世界に来たせいか、ココミは日本語でメッセージを書いていた。

  □ □ □ ダナさん、お願いですから、リョーマさんの電話に応えてあげて下さい。 □ □ □

 入力、送信した。

「僕からもメールを打っておこう」
 リョーマもダナ宛に送信。

「どうしてなんだ…。何故、彼女は僕に応えてくれない」
 プライドを打ち砕かれ自信喪失しているリョーマに、ココミは「まだ、メールを送ったばかりではありませんか。もうしばらく待ってみましょう」

 慰められても、落ち着かない様子で学園へと向き直る。

「こうしている間に、誰かが傷ついてしまうかも知れない。医者を目指している僕の目の前で、死者、イヤ!負傷者が出るのを、ただ見ているだけしかできないなんて、僕には堪えられない」

 すると、着信音が鳴った。

「誰か電話が鳴ってるよ」
 自分のスマホの着信音でない事は理解しているクレハが皆に訊ねた。

「き、来た…」
 リョーマは、驚いた様子で手にするスマホを見つめいている。

「だったら、早く出てあげなさいよ」
 優しさの欠片もなく、クレハはリョーマに電話に出るよう指図する。

 恐る恐るリョーマはスマホを耳にあてがい「もしもし?草間・涼馬ですが」

「初めまして、超音速飛龍スーパーソニックドラゴンのダナと申します。問いましょう。貴方は私のマスターですか?」
 とても冷たい印象を受ける、感情の起伏を感じさせない女性の声。

「そうだ。君と共に災害をもたらす者たちを排除する君のマスターだ」

 ……しばし間を置いて…。

「了解しました」
 ダナが答えると、リョーマの足元に青色の魔方陣が現れグルグルと回転。

 ダナがリョーマをマスターとして認めてくれたのだ。

「あっ」
 クレハの声に、リョーマは「ん?」彼女へと向き直る。

「タカサゴの事、お願い!」
 すがるようにリョーマへ訴えかける。も。

「何度も言っているが、僕は高砂・飛遊午の事は-」

 一気に彼の頭上へと上って、彼の姿はたちまちの間に消え去ってしまった。最後まで言い切る前に。

 ココミの魔導書にメールが届いた。

 ダナからだ。


 □ □ これよりマスターへのインストール作業に入ります。 □ □


 横から魔導書を覗きこむクレハが首を傾げている。

 そんな彼女に気付いたココミは慌てて。

騎士ナイト兵士ポーンよりも騎体情報量が多いので、少し時間が掛かってしまうのです」
 捕捉事項を述べてくれた。

「まぁ、別にいいんだけどね。それよりも、ダナはちゃんとした騎体なの?ベルタやアレみたいに偏った騎体構成なんて、していないよね」
 念を押すクレハに魔導書からクレームが入った。

「アレとは何だ?小娘!私の名はクィックフォワードだ!」

「分かったから、静かにしてくれ」
 声を荒げるクィックフォワードをヒューゴがなだめていた。

 今はそんな状況でもないだろうに…。

 アルルカン、ウッズェの間を何度も忙しそうに行ったり来たりしている。

 どちらか目を離そうものなら、すぐさま学園へ危害を加えようとする。

 忙しい限りだ。

 校舎に体当たりをしたウッズェにクィックフォワードの飛び蹴りが炸裂!しかし、質量の差は大きく、弾き飛ばされたのは、またもやクィックフォワードの方。

 体勢を立て直しがてらに、アルルカンに向けてライフルを発射。しかし、案の定盾で防御されてしまう。

 アルルカンの放つアクティブバンテージの猛攻を、地に左手を付いてバック転で回避。

「あんな腕で器用な」
 盾から剣先が突き出た、腕で器用に曲芸を見せている。

 そんな最中。

 クィックフォワードの膝裏から煙が立ち上った。

「どうした?クィックフォワード。何か攻撃でも受けたのか?」

 ヒューゴの問いに、クィックフォワードは悔しそうな声で。
「いや。連中から一切攻撃は食らってなどいない…」

「まさか!?」
 何かに気付いたココミは、急いで騎体モニターのページを開いた。

「やっぱり…」
 回答を得たココミの表情は愕然としていた。

「何かあったの?」
 横から開かれたページを覗きこんでも、クレハには何が起きているのか?まるで理解できなかった。


 クィックフォワードが答えた。

「無理な機動が祟って、関節が悲鳴をあげているのだ」
 騎体はヒューゴの無茶な操作によって、自壊を始めていた。
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