盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

文字の大きさ
194 / 351
[18]女王の掌の上で

-189-:どんな人なのかな~

しおりを挟む
「丁度良い機会だから、皆に話しておくぜ」
 ぬいぐるみ姿のグラムが話し始めた。

 と、タツローがコールブラントへと向いて。

「彼が話すけど、構わないね?」
 了承を得る。

 意外と大人しく、コールブラントは頷いて見せた。

「じゃあ、話すぜ。俺たちは元々同じ種のドラゴン。受ける光によって体色が変化する蒼輝龍ブルードラゴンだったんだ。だけど、俺は生まれてすぐに魔界樹の森へと住処を移して、ほとんど地表に光の届かない場所をねぐらにしていたので、あっという間に体中真っ黒よ」
 カメレオンみたいな龍がクレハの印象。

 そもそも、RPGゲームのブルードラゴンだって、住む場所は定かではない。レッドドラゴンが火山だったり、グリーンドラゴンが森の奥深くだったりするのに対して。

 いつも適当な設定が組まれている不憫な龍だ。 

「そちらのグリッタードラゴン様は、白夜のある地域で野晒しで暮らしていたので、全身が光を反射する真珠のような体表をしている」
 こちらはこちらで、また適当な生活を送っていた模様。野晒しで生活って、知性のある生物から遠ざかっているようにも思える。

「そして、俺達がこれほどまでに仲が悪い理由は―」
 ココミが頭を悩ませている中、他の者の注意が、ぬいぐるみグラムへと向く。

「お互いに本来の姿から変わり過ぎていて、同族なのを認識できずに、捕食行動に移ってしまったの」
 いきなりコールブラントが理由を述べてくれた。

 つまり、互いをエサだと勘違いして襲ってしまったという事。

「もはや住んでいた地域が離れ過ぎていたせいで、お互いに言葉が通じず、俺の左翼をコイツが食いちぎりやがったのさ」

「で、このアホは、仕返しに私の両脚を、口から炎を吐いて骨まで焼いたのよ!」
 怪獣映画も真っ青な、壮絶極まる戦い。

 話を聞くに。

 クレハは、ココミへと向いて。

 もうちょっとマシな龍はいなかったのか?と問いたい思いに駆られた。

 人間の世界でも、文化や風習の違いで争いが生じる事が多々あるが、これほどまでにマヌケな争いは聞いたことがない。

「ココミちゃん…」
 クレハの訴えるような眼差し。

「で、でも、彼らは能力的にはとても優れた、何と言っても、僧正ビショップとして登録された龍たちなんですから」
 もはや言い訳にしか聞こえない。

 オトギはいぶかしむ目をグラムに向けてしまう。

 タツローも、この地雷女の早とちりが、今に始まったものではないと認識した。

 各々ガックリと肩を落として、4手に分かれると、それぞれの帰路に着いた。




 独り夜道を歩いていると、クレハは突然不安になり、周囲をうかがった。


 以前、TVで夜道を歩く時に、電話をしているフリをしたら犯罪に巻き込まれにくいと放送していたのを思い出した。

 さて。

 誰に電話をしたものか…。

 ヒューゴは今、バイトでまかないを作っている頃だろうし、キョウコやフラウとは学校で話すものの、電話やメールのやり取りをしたことが無い。

 トラミは…止めておこう。

 やはり、“フリ”だけして帰ろうか。

 そう思った矢先。

 電話帳に追加された“ボンバートン”の名前が目に入った。

 試しに掛けてみよう。発信音がなり…………相手が電話に出た。

 だけど、無言。

「もしもし?」
 声を掛けてみる。

「もしもし」相手の声。名前から想像しなかった女性の声。しかも声の与える印象は、とてもおしとやか。

「もしもし、私、鈴木・クレハと申します。夜分に申し訳ありません」

「ああ、私のマスターを引き受けて下さった方ですね。よろしくお願いします」
 やけに丁寧な口調の人だ。だけど、何を話そうか?

「ごめんなさい。すでに盤上戦騎ディザスターとライフの姿を失ってしまったので、何のお役にも立てずに」
 いきなり謝ってきたボンバートンに恐縮してしまう。

「いえいえ、こちらこそ、よろしくです」
 すでに形を失った相手に、頭を下げる。自身でも、それは滑稽だと認識していても。

「で、ご用件は何でしょう?」
 やはりと言うか、用件を聞いてきた。

 考えるも、結局何も答えられない。そもそも、用事を考えることも無く、ただ確認のために電話を掛けただけなのだから。

「い、いえ、大した用事じゃないんです。ただ、どんな人なのかな~って思って」
 ここは下手に取り繕うとせずに、素直に答えた方が印象が良い。

「そうでしたか。では、長話しは電話代が高くつきますので、これで」
 クレハは思わぬ事実を突き付けらえた。

 これって電話代が発生しているの!?

 何て事だろう…。

 盤上戦騎ディザスターを召喚するのに、電話代が発生するのか。

 大した額ではないと想像に難しくないけど、それはそれで思わぬ負担だ。

「あっ、そうでした」
 電話の向こうでボンバートンが何かを思い出した模様。

「弟のクィックフォワードに、よろしくと伝えて下さい」「え?」
 驚く最中、向こうから電話を切られてしまった。

 同郷同士に、遠い種族同士と来て、今度は姉弟かよ…。

 ココミの召喚した龍たちとは、何て世間の狭い参戦者たちなのだろう。




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

処理中です...