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[19]悪魔の王
-192-:もう再戦は無いんだよ
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「で、では。き、君!審判を頼めるかい?」
想いも寄らないヒューゴの申し出に、信じられないと首を振りながらも、プロデューサーはミサキに審判を願い出た。が。
「彼がやっているのは、実戦剣道です。審判も無ければ、“始め”の挨拶もありませんよ」
口調は穏やかに、だけど、笑みをたたえる彼女の目は、ザマミロと言っている。
「ミスターサムライ!」
危機を悟って、彼は大男に向かって叫んだ。
名刺を貰っておきながら、ハッキリ目を通していなかったので、彼の名前がミスターサムライだと、今知った。
プロデューサーの心配は取り越し苦労に終わり、未だお互い剣を構えて見合ったまま。
ミスターサムライは声を発しながら、構えを正眼から上段へと変えた。
対するヒューゴは、ただ静かに、2振りの木刀を切っ先だけ交差させて、そのまま下段の構えへと移った。
「イアーッ!!」
声を発し続けながら、にじり寄り、間合いを詰める。
ドンッ!
先に踏み込んだのはヒューゴ!
先ほどの踏み込みよりもまた一つ、より一層大きな踏込み音が道場内に木霊する。
「ぬぉッ!」
ミスターサムライの呻き声が、壁に叩きつけられた衝撃によって刀掛けから落ちた木刀の音によってかき消されてしまった。
撮影スタッフ一同、何が起きたのか?唖然と壁に背を預けてへたり込むスターサムライを見つめていた。
「な、何が起きたのだね?」
足元に転がってきた木刀を目にすると、プロデューサーが声を震わせながらミサキに訊ねる。
「あれが、彼の二天一流二天撃です。防具を着用していなかったから手加減したのかしら?普段は、あんなものじゃないんですよ」
説明を終え、ニッコリ笑顔を添える。
プロデューサーは慌ててスタッフに指示。
「い、今の、カメラは回っていたか?」
確認を取るも、スタッフが首を横に振ると。
「ならば、仕切り直しと行こう。あんな不意打ちでは試合とは認められないよ」
諦めが悪く、ジャスチャーでミスターサムライに早く立ち上がるよう指示を送る。
ミスターサムライが、頭を振りながらゆっくりと立ち上がった。
だが、子供たちからは凄まじいブーイングが浴びせられる。
「だから、試合とは認められないと」
ブーイングを抑えるべく、説明をするも。
「斬られて死んだのだから、もう再戦は無いんだよ」
少年の説明に、「そういうコトだ」ヒューゴも再戦を認めようとしない。
撮影スタッフの誰もが、彼らの言っている事が理解できない。
「ゾンビ行為は禁止」
分かり易く説明しても彼らは理解してくれない。
「だから、オッサンも大人しく帰ってくれないか」
気だるそうにミスターサムライに告げると、彼の様子がおかしい。
グルルルゥと犬が喉を鳴らすような声を発して、涎を床に垂れこぼす。
まるで。
正気を失っているようだ。と、突然!
「うがぁーッ!」
唸り声を上げて刀を上限に構えたではないか!
「や、止めて下さい!ミスターサムライ!」
スタッフが止めに入る。
シュッ!軽い音が鳴った瞬間。
止めに入ったスタッフの腕から血が噴き出た。
自らが流した血を目の当たりにし、スタッフは悲鳴を上げて逃げ惑う。
幸いな事に、腕を斬り落とされる事は無かったが、それでも切創には違わない。
血走る眼をヒューゴに向けると、ミスターサムライは再び彼に襲い掛かる。
「ヤケを起こすな、オッサン」
ヒューゴは下がりつつも、子供たちの近くにいるリョーマに避難を呼びかける。そして撮影スタッフたちにも。
だけど、リョーマはヒューゴの指示になど耳を貸さずに、持ってきた丈長の木刀を袋から取り出している。「お前も聞けよ!」再度ヒューゴからの指示が飛ぶ。
一瞬リョーマへと目をやったばかりに、ヒューゴの眼前には正気を失ったミスターサムライが刀の間合いにまで迫っていた。
真剣相手に受けは無理!退けば子供たちに被害が及ぶ。躱すには、もはや遅すぎる。
「ハァッ!シャァーッ!!」
上段からの斬撃!ヒューゴに縦の一閃が放たれる。
ポンッ。
ヒューゴの胸が押され、彼の体が後ろへと倒れ込んでゆく。
倒れ行くヒューゴの目に、ミサキの横顔が映った。
「ミ、ミサキ先輩ィーッ!」
手を伸ばすも、彼女の姿はゆっくりと遠退いて。
無情にも振り下ろされる真剣が、冷たい光の弧を描く。
その向こうに、ミサキの横顔が。
―!?
ミサキは体を斜に構えて、縦一閃に振り下ろされる真剣による斬撃を躱していた!
さらに。
「トォゥ!」
右手の木刀による刺突で、ミスターサムライの鼻頭を粉砕!
竜崎流剣術奥義・蜜蜂を炸裂させた。
それはフェンシングの構えを取り入れた、刺突特化の剣技で、極力投影面積を小さくして相手の攻撃をかわし、なおかつ、カウンターの一撃で相手の戦意を挫く捨て身の必殺剣。
おびただしいまでの鮮血が宙を舞う中―。
突き飛ばされたヒューゴの元へとリョーマが駆け寄るなり手を貸して、すぐさま彼を立ち上がらせた。
「スゴイな。君のところの先輩は」
真剣相手に臆さないミサキに驚いている。それだけに留まらず、彼の驚きはさらに。
「だろ?先輩はな。あの技を使う為に日々努力を怠らないんだ」
日々の鍛錬がいざという時に役に立つと告げる一方で。
「しかも、あんなにスレスレに真剣を避けられるなんて…ダナだと半分は削ぎ落とされていたな」「半分!も?」
二人して、それぞれ脱線した驚きを見せる傍ら。
「そこ!何気にセクハラ発言しない!」
ミサキの地獄耳は健在、思いっきり叱られてしまった。
想いも寄らないヒューゴの申し出に、信じられないと首を振りながらも、プロデューサーはミサキに審判を願い出た。が。
「彼がやっているのは、実戦剣道です。審判も無ければ、“始め”の挨拶もありませんよ」
口調は穏やかに、だけど、笑みをたたえる彼女の目は、ザマミロと言っている。
「ミスターサムライ!」
危機を悟って、彼は大男に向かって叫んだ。
名刺を貰っておきながら、ハッキリ目を通していなかったので、彼の名前がミスターサムライだと、今知った。
プロデューサーの心配は取り越し苦労に終わり、未だお互い剣を構えて見合ったまま。
ミスターサムライは声を発しながら、構えを正眼から上段へと変えた。
対するヒューゴは、ただ静かに、2振りの木刀を切っ先だけ交差させて、そのまま下段の構えへと移った。
「イアーッ!!」
声を発し続けながら、にじり寄り、間合いを詰める。
ドンッ!
先に踏み込んだのはヒューゴ!
先ほどの踏み込みよりもまた一つ、より一層大きな踏込み音が道場内に木霊する。
「ぬぉッ!」
ミスターサムライの呻き声が、壁に叩きつけられた衝撃によって刀掛けから落ちた木刀の音によってかき消されてしまった。
撮影スタッフ一同、何が起きたのか?唖然と壁に背を預けてへたり込むスターサムライを見つめていた。
「な、何が起きたのだね?」
足元に転がってきた木刀を目にすると、プロデューサーが声を震わせながらミサキに訊ねる。
「あれが、彼の二天一流二天撃です。防具を着用していなかったから手加減したのかしら?普段は、あんなものじゃないんですよ」
説明を終え、ニッコリ笑顔を添える。
プロデューサーは慌ててスタッフに指示。
「い、今の、カメラは回っていたか?」
確認を取るも、スタッフが首を横に振ると。
「ならば、仕切り直しと行こう。あんな不意打ちでは試合とは認められないよ」
諦めが悪く、ジャスチャーでミスターサムライに早く立ち上がるよう指示を送る。
ミスターサムライが、頭を振りながらゆっくりと立ち上がった。
だが、子供たちからは凄まじいブーイングが浴びせられる。
「だから、試合とは認められないと」
ブーイングを抑えるべく、説明をするも。
「斬られて死んだのだから、もう再戦は無いんだよ」
少年の説明に、「そういうコトだ」ヒューゴも再戦を認めようとしない。
撮影スタッフの誰もが、彼らの言っている事が理解できない。
「ゾンビ行為は禁止」
分かり易く説明しても彼らは理解してくれない。
「だから、オッサンも大人しく帰ってくれないか」
気だるそうにミスターサムライに告げると、彼の様子がおかしい。
グルルルゥと犬が喉を鳴らすような声を発して、涎を床に垂れこぼす。
まるで。
正気を失っているようだ。と、突然!
「うがぁーッ!」
唸り声を上げて刀を上限に構えたではないか!
「や、止めて下さい!ミスターサムライ!」
スタッフが止めに入る。
シュッ!軽い音が鳴った瞬間。
止めに入ったスタッフの腕から血が噴き出た。
自らが流した血を目の当たりにし、スタッフは悲鳴を上げて逃げ惑う。
幸いな事に、腕を斬り落とされる事は無かったが、それでも切創には違わない。
血走る眼をヒューゴに向けると、ミスターサムライは再び彼に襲い掛かる。
「ヤケを起こすな、オッサン」
ヒューゴは下がりつつも、子供たちの近くにいるリョーマに避難を呼びかける。そして撮影スタッフたちにも。
だけど、リョーマはヒューゴの指示になど耳を貸さずに、持ってきた丈長の木刀を袋から取り出している。「お前も聞けよ!」再度ヒューゴからの指示が飛ぶ。
一瞬リョーマへと目をやったばかりに、ヒューゴの眼前には正気を失ったミスターサムライが刀の間合いにまで迫っていた。
真剣相手に受けは無理!退けば子供たちに被害が及ぶ。躱すには、もはや遅すぎる。
「ハァッ!シャァーッ!!」
上段からの斬撃!ヒューゴに縦の一閃が放たれる。
ポンッ。
ヒューゴの胸が押され、彼の体が後ろへと倒れ込んでゆく。
倒れ行くヒューゴの目に、ミサキの横顔が映った。
「ミ、ミサキ先輩ィーッ!」
手を伸ばすも、彼女の姿はゆっくりと遠退いて。
無情にも振り下ろされる真剣が、冷たい光の弧を描く。
その向こうに、ミサキの横顔が。
―!?
ミサキは体を斜に構えて、縦一閃に振り下ろされる真剣による斬撃を躱していた!
さらに。
「トォゥ!」
右手の木刀による刺突で、ミスターサムライの鼻頭を粉砕!
竜崎流剣術奥義・蜜蜂を炸裂させた。
それはフェンシングの構えを取り入れた、刺突特化の剣技で、極力投影面積を小さくして相手の攻撃をかわし、なおかつ、カウンターの一撃で相手の戦意を挫く捨て身の必殺剣。
おびただしいまでの鮮血が宙を舞う中―。
突き飛ばされたヒューゴの元へとリョーマが駆け寄るなり手を貸して、すぐさま彼を立ち上がらせた。
「スゴイな。君のところの先輩は」
真剣相手に臆さないミサキに驚いている。それだけに留まらず、彼の驚きはさらに。
「だろ?先輩はな。あの技を使う為に日々努力を怠らないんだ」
日々の鍛錬がいざという時に役に立つと告げる一方で。
「しかも、あんなにスレスレに真剣を避けられるなんて…ダナだと半分は削ぎ落とされていたな」「半分!も?」
二人して、それぞれ脱線した驚きを見せる傍ら。
「そこ!何気にセクハラ発言しない!」
ミサキの地獄耳は健在、思いっきり叱られてしまった。
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