盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

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[28]白の中の者たち

-312-:彼女は盤上戦騎の魔性に取り込まれているんだ

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 ダナのつま先を貫く影から突き出てきた漆黒の剣。

 まさに釘づけ。

 リョーマは回避する手段を失った。

 そして、風を切り、今まさにダナを真っ二つに切断しようと、ギロチンのごとく死神の鎌デスサイズの刃が迫りくる。

 ドスッ!!


 デスサイズの切っ先が地面に突き刺さった。



 斬り落とされた妲己の両腕を添えて。


 リョーマは妲己の攻撃から回避の手立ては失ったが、攻撃の手段は失っていなかった。

 野太刀の一閃は妲己の両肘関節を見事に切断したのだ。

「踏み込みが甘いおかげで、関節しか狙えなかった」

 スラスターを噴射して足から黒の剣を引き抜く。

 ひとまずはコントラストと同じ高度へと退避した。

「よくぞ冷静に上空で待機していてくれたね。おかげで影からの攻撃もこの程度のダメージで済んだよ。ありがとう。鈴木さん」
 ダメージそのものは小さく損傷回復リペアを施すまでも無い。

「ジェレミーアを倒してくれた借りを返しただけ。御礼を言われる筋合いは無いわ」
 まさか、この男から礼を言われるとは思いもしなかった。

 クレハはそっぽを向きながらリョーマに告げた。


 視点を妲己へと戻す。


 今は妲己相手に近接戦は控えた方が良さそうだ。

 斬り落とした両腕は効果魔法エフェクトマジックのカードを使うまでもなく自力で回復を果たしている。

 傷口から伸ばした配線のようなものが、切り落とされた腕を捕えて引き寄せると、切断面同士を合わせてたとたんに何事も無かったように動かしている。

「これからは、切断した箇所を破壊しないとな」
 生憎痛み分けとは行かず、ダナの受けたダメージは、一つの教訓として胸に刻み込んでおこう。

 加えて、霊力を大量に消費する攻撃魔法は多用できない。

 ダナの幻影ゲンエイも然り。数による劣勢をも逆転できるミルメート・ダートも、そうそう使う訳にはいかない。

 とはいえ、合体魔人は出力そのものは強大でも、火器は貧弱だ。

 何か手立てを考えないと。

「オトギさん。聞こえる?」
 そんな中、タツローがオープン回線でオトギに呼びかけているではないか。

「な、何やってるの?タツローくん」「黙っていて下さい」
 横から口を挟む事も許さない。いつもの弱々しさは感じられない。

 真剣に説得するつもりでオトギに呼びかけているのだ。

「どうしたの?タツローくん。まさか、これで止めにしようなんて、言うんじゃないでしょうね?」
 オトギが通信に応えた。

「とても残念だわ。この戦いをネットで流そうとしても、盤上戦騎ディザスターの特性上、映像に撮る事はできないし、人の集まる所で戦っても誰の記憶にも残らない」
 突然何を言い出しているのか?タツローたちには理解できなかった。

「まあ、いいわ。観客は魔導書でこの戦いを眺めているココミ・コロネ・ドラコットとライク・スティール・ドラコーンたちだけで十分」
 妲己が再びデスサイズを振りかざす。

「ここで貴方たちを残酷なまでにいたぶって、彼らにこの地に赴いた事を後悔させてやるわ」
 何か、目的が変わっていないか??

 オトギの目的は、このまま東欧へと出向いてクレイモアを殲滅するものだと思っていたのだが。

 クレハはオトギの言っている事が、まるで理解できないでいた。

「彼女は盤上戦騎の魔性に取り込まれているんだ」
 リョーマが皆に伝えた。

「魔性?盤上戦騎の?」
 この男の言っている意味もまるで理解できない。

「みんな聞いてくれ。盤上戦騎ディザスターには、人が心の片隅に追いやっている破壊衝動を駆り立てる恐ろしい能力が秘められているんだ」
 戦慄!今まで戦ってきて、そのような能力が秘められているという事を始めて知った。

「アルルカン3のマスター、建前・静夏たてまえ・しずかは、実はあんな凶暴な人間じゃないんだ。本当の彼女は気弱で大人しい女の子なんだ」
 リョーマの言っている事を一概に信じる事は出来なかった。

 シズカのキャラは、明らかに凶戦士。あれのどこが気弱で大人しいのか?

 とはいえ、元からあんな性格では一般社会で生きていくには危険過ぎて、誰も手が付けられないだろう。あながち彼の言っている事は正しいのかも。でも素直に受け入れられない。

「鈴木さん、タツローくん。キミたちにも心当たりがあるはずだ。どうしても気持ちを抑え切れずに、引き金を引いてしまった事は無いかい?」
 叫霊バンシーのツウラを仕留めてしまったのは、実は盤上戦騎の、この隠された能力によるものだったのだろうか?

 いやいや、あれは無謀にも立ち向かって来たイエヤスにお灸をすえてやろうと引鉄を引いてしまっただけで、彼らを破壊してやりたい衝動に駆られたものでは断じて無い。

 あの時のイエヤスは、リョーマの言うとおり盤上戦騎の魔性に取り込まれたものかもしれないけれど。

「そういえば…」
 タツローが口を開いた。

「オトギさんと一緒だった時、彼女、シンジュさんを殺しても構わないと言っていましたね」
 殺るか殺られるかの瀬戸際のような事を言っていたが、あれも盤上戦騎の魔性に取り込まれての事?

 たった今、オトギの事を口にしたタツローの後頭部を眺める。

(タツローくん自身には心当たりは無いのかな?)
 思う一方、彼が破壊を楽しんでいるような光景など一度も見たことが無い。

 どうしてオトギは取り込まれて、タツローは取り込まれていないのだろう?

 そもそも、最もアンデスィデを経験しているはずの高砂・飛遊午は、そのような魔性に取り込まれていたようには見受けれない。

 最後はブチ切れてブン殴って終わりのアンデスィデもあったけれど、いずれも理由はハッキリしている。とても魔性に取り込まれていたとは思えない。

「ベルタは戦っているタカサゴを見てどう思った?」
 ここは一番近くで彼の戦いを見ていたベルタに訊ねてみる事にした。
 
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