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誇りある仕事
7:思い返せば、人それぞれに
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美浜・慎一の身辺を探るとはいえ、彼の経営するイベントプランニング会社のオフィスに侵入する必要など、果たしてあったのだろうか・・・?
アリエス社長(本名、本名・飛鳥)が用意してくれたAP”黒影”は、外見は市販の物に一切該当しない特殊なものだった。
ゼッタイに足が付かない、つまり警察が調べたところで決して出処には辿り着けない完全ハンドメイド機なのだ。
若干強度には問題を抱えているものの、ほとんどのパーツを3Dプリンターによって作成されているため、足が付く心配はほとんど無い。
「これなら確かに俺には辿り着けないな」
明らかにスパイ用に作られたと思われるこのAP。とにかくカメラの性能が良すぎる。
通気口からオフィス内を覗き見しているが、書類やディスプレイ画面に映し出されている画像の文字さえもしっかりと読み取れる。
あまりの高性能さに、ついつい欲しくてたまらなくなる。
いやいや、コイツの性能に惚れ込んでいる場合じゃない。
肝心の”首相襲撃計画”の情報とやらは何処かな?
見渡すも、オフィス内では普通にイベント関連の仕事に取り組んでいる。
こんな事ならば、直接美浜・慎一の自宅に侵入した方が情報を掴めるのではないか?
そもそも、裏稼業の資料を表稼業のオフィスに持ち込むとは、到底思えないのだが。
しかし、アリエス社長は。
「木を隠すなら森と言うでしょう。私の勘では、美浜・慎一はゼッタイに首相襲撃の資料を会社のオフィスに隠しているはずなのよね」
女の勘というものは侮り難いものだけど、アレは年期を重ねてこそのものではないか?と、伶桜の持論はアリエスの勘を疑ってかかっている。
それにしても。
相変わらずバルゴ(峠・縁)はハジけていたなと、今日の仕事を振り返った。
回転ノコギリを振り回す彼女のAP"流血は群がるスズメバチを片っ端から二分していた。
間違い無く、彼女がタイラントホースのエースだろう。
集団で向かってくるスズメバチが、さもゾンビ映画のゾンビみたいで高揚するとかアホな発言を繰り返しては次々と撃墜スコアを稼いでゆく。
そんな頭のネジが外れているように見えても、彼女は立派にアリエスの家庭教師の役割を務めている。
結果、アリエス(本名・飛鳥)は引きこもりなれど、学校の成績だけは上位をキープしている。
もう、何が何だか。
家庭教師なら、もう少しアリエスに社会的モラルを教えてやれよ・・・思うも、縁本人にモラルが欠如していては教育にならないと諦めるしかない。
「レオさん、後は頼んだよ!」
向かい来るスズメバチを一身に受けて道を切り開いてくれたタウロスこと森下・令治。
今日のアイツはいつも以上に気の毒に思える。
本人は匿名でタイラントホースの仕事を請け負っているが、その実、本名からPCデータの内容に至るまで、素性に始まり全ての個人情報をアリエスにハッキングされ知れ渡っているというのに・・・。
タウロス名義で頑張っている姿を見ると、憐れでならない。
「ウワッッシャァァ!」
雄叫びを上げてキャンサーこと杉田・浩輔の駆るAP“帽子屋”の右手が、掴んだスズメバチを細切れにしてゆく。
マッドハッターの一際大きな右手は5指全てが刃物になっており、"斬る”のではなく”掴んで切り刻む”残酷極まりない戦い方をする。
彼を見ていると・・・。
妻子持ちの会社員が、土日だけにタイラントホースの仕事を請け負って日頃のストレスを発散しているように見えなくもない。
彼と以前に話をしたときに、「自由になる金が欲しい」との理由で副業のOKサインを会社から貰っていると言っていたが、何かと色々と抱え込んでいるようにうかがえる。
「さぁ、さっさと終わらせるわよ!」
アリエスのAPアシュラはスズメバチの体液と言う名の返り血を浴びても洗浄し易いように、死神のマントのようなビニール製の雨合羽を着込んでいる。
直接本人を見て、引きこもりだけあって見た目をそんなに気にしていない女子高生なのは分ったが、一応APが汚れるのは気にするようだ。
本来ならば、女の子らしく、その逆であって欲しいものだけど。
* * * *
思いにふけっている最中に、操作画面のバッテリー警告サインが表示された。
黒影の稼働時間に限界が迫っている。
予め使っていないフロアに設置されている、非接触型スマホ用充電器を拝借してAPの電力をチャージする事にした。
グローバル規格というものは、何かと有り難い。
今ではどのオフィスにも常置されていて、本当に助かる。
使われていない部屋の充電器が使われていたら、疑われるのでは無いか?アリエスに訊ねてみたが。
「どこの会社にだって、会社の備品を無断で拝借している社員の1人や2人はいるものよ」
その一言で、ふと抱いた心配は吹き飛ばされてしまった。
これで安心して、また美浜・慎一の周囲を探る事ができる。
と、その前に。
食事とトイレ休憩が入れられる安全地帯にAPを隠さないと。
伶桜は、黒影を机の下に潜り込ませた。
これで、当分は誰に見つかる心配も無いだろう。
安心してPCを離れようと席を立った、その時。
PCスピーカーから、何やら走行音が聞こえてきた。
咄嗟に振り返り、ディスプレイに目を移した伶桜は思わず目を見開いた。
ロボット掃除機が、机の下を掃除し始めたのだ。
伶桜は思わぬ危機に直面した。
アリエス社長(本名、本名・飛鳥)が用意してくれたAP”黒影”は、外見は市販の物に一切該当しない特殊なものだった。
ゼッタイに足が付かない、つまり警察が調べたところで決して出処には辿り着けない完全ハンドメイド機なのだ。
若干強度には問題を抱えているものの、ほとんどのパーツを3Dプリンターによって作成されているため、足が付く心配はほとんど無い。
「これなら確かに俺には辿り着けないな」
明らかにスパイ用に作られたと思われるこのAP。とにかくカメラの性能が良すぎる。
通気口からオフィス内を覗き見しているが、書類やディスプレイ画面に映し出されている画像の文字さえもしっかりと読み取れる。
あまりの高性能さに、ついつい欲しくてたまらなくなる。
いやいや、コイツの性能に惚れ込んでいる場合じゃない。
肝心の”首相襲撃計画”の情報とやらは何処かな?
見渡すも、オフィス内では普通にイベント関連の仕事に取り組んでいる。
こんな事ならば、直接美浜・慎一の自宅に侵入した方が情報を掴めるのではないか?
そもそも、裏稼業の資料を表稼業のオフィスに持ち込むとは、到底思えないのだが。
しかし、アリエス社長は。
「木を隠すなら森と言うでしょう。私の勘では、美浜・慎一はゼッタイに首相襲撃の資料を会社のオフィスに隠しているはずなのよね」
女の勘というものは侮り難いものだけど、アレは年期を重ねてこそのものではないか?と、伶桜の持論はアリエスの勘を疑ってかかっている。
それにしても。
相変わらずバルゴ(峠・縁)はハジけていたなと、今日の仕事を振り返った。
回転ノコギリを振り回す彼女のAP"流血は群がるスズメバチを片っ端から二分していた。
間違い無く、彼女がタイラントホースのエースだろう。
集団で向かってくるスズメバチが、さもゾンビ映画のゾンビみたいで高揚するとかアホな発言を繰り返しては次々と撃墜スコアを稼いでゆく。
そんな頭のネジが外れているように見えても、彼女は立派にアリエスの家庭教師の役割を務めている。
結果、アリエス(本名・飛鳥)は引きこもりなれど、学校の成績だけは上位をキープしている。
もう、何が何だか。
家庭教師なら、もう少しアリエスに社会的モラルを教えてやれよ・・・思うも、縁本人にモラルが欠如していては教育にならないと諦めるしかない。
「レオさん、後は頼んだよ!」
向かい来るスズメバチを一身に受けて道を切り開いてくれたタウロスこと森下・令治。
今日のアイツはいつも以上に気の毒に思える。
本人は匿名でタイラントホースの仕事を請け負っているが、その実、本名からPCデータの内容に至るまで、素性に始まり全ての個人情報をアリエスにハッキングされ知れ渡っているというのに・・・。
タウロス名義で頑張っている姿を見ると、憐れでならない。
「ウワッッシャァァ!」
雄叫びを上げてキャンサーこと杉田・浩輔の駆るAP“帽子屋”の右手が、掴んだスズメバチを細切れにしてゆく。
マッドハッターの一際大きな右手は5指全てが刃物になっており、"斬る”のではなく”掴んで切り刻む”残酷極まりない戦い方をする。
彼を見ていると・・・。
妻子持ちの会社員が、土日だけにタイラントホースの仕事を請け負って日頃のストレスを発散しているように見えなくもない。
彼と以前に話をしたときに、「自由になる金が欲しい」との理由で副業のOKサインを会社から貰っていると言っていたが、何かと色々と抱え込んでいるようにうかがえる。
「さぁ、さっさと終わらせるわよ!」
アリエスのAPアシュラはスズメバチの体液と言う名の返り血を浴びても洗浄し易いように、死神のマントのようなビニール製の雨合羽を着込んでいる。
直接本人を見て、引きこもりだけあって見た目をそんなに気にしていない女子高生なのは分ったが、一応APが汚れるのは気にするようだ。
本来ならば、女の子らしく、その逆であって欲しいものだけど。
* * * *
思いにふけっている最中に、操作画面のバッテリー警告サインが表示された。
黒影の稼働時間に限界が迫っている。
予め使っていないフロアに設置されている、非接触型スマホ用充電器を拝借してAPの電力をチャージする事にした。
グローバル規格というものは、何かと有り難い。
今ではどのオフィスにも常置されていて、本当に助かる。
使われていない部屋の充電器が使われていたら、疑われるのでは無いか?アリエスに訊ねてみたが。
「どこの会社にだって、会社の備品を無断で拝借している社員の1人や2人はいるものよ」
その一言で、ふと抱いた心配は吹き飛ばされてしまった。
これで安心して、また美浜・慎一の周囲を探る事ができる。
と、その前に。
食事とトイレ休憩が入れられる安全地帯にAPを隠さないと。
伶桜は、黒影を机の下に潜り込ませた。
これで、当分は誰に見つかる心配も無いだろう。
安心してPCを離れようと席を立った、その時。
PCスピーカーから、何やら走行音が聞こえてきた。
咄嗟に振り返り、ディスプレイに目を移した伶桜は思わず目を見開いた。
ロボット掃除機が、机の下を掃除し始めたのだ。
伶桜は思わぬ危機に直面した。
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