レオにいさん!

ひるま(マテチ)

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小さなヒーロー

12:猫の目、鷹の目

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 いやいやダメでしょう。

「社長、相手は何人いるのかわからないし、皆に協力を求めるべきです」
 堪らず伶桜は、飛鳥に、皆に協力を求めるよう進言した。

「相手だって?」
 森下の険しい眼差しが飛鳥へと向けらる。

「日頃の労をねぎらって、皆さんに社員旅行を楽しんで欲しいのは事実よ。最悪、私と縁さん、それに伶桜さんの3人だけで何とかする」
 そんな森下に一瞥も送る事無く、伶桜の進言に答える。

「オイ!アンタたちが何をしようとしているのか知らないけど、こんな所まで呼びつけておいて、ミッションだの協力を得るだの、ちゃんと説明しろよ!」
 森下が飛鳥に、キチンと話を進めるよう求めた。

 話の置いてけぼりはイヤみたい。

 すると、飛鳥は腕時計を確認するなり。

「名古屋市内にある国際会議場で環境シンポジウムが開催されるのが今日の午後3時。あと5時間以内に、とあるEU圏の新興国の首相が暗殺されるかもしれないの。私たちは、それを何としてでも阻止したい。だから強制はしないけど、手伝ってくれたらギャラははずむわ」
 おおまかな説明はくれたけど、傍で聞いていて、今ひとつ緊迫感に欠ける説明だと伶桜は感じた。

「もしかしたら、爆弾テロですか?」
 杉田が訊ねた。

「かもね。でも、どんな手段を用いてくるのか?正直予測できていないのよ。ただ、襲撃となると、暗殺目的としか考えられないくらいかな」
 場所を特定したと言っても、あくまでも予測でしかなく、今さらながら国際会議場なのかも怪しい。

「それは、わざわざ僕たちがやらなきゃならないコトなの?」
 森下が気だるそうに訊ねた。

「義理は無いけど、計画が存在している以上、私は阻止したいと思っている。計画を事前に知っておきながら何の手も打たずに後で大惨事にでもなったら、一生後悔すると断言できるわ」
 寝覚めが悪い思いはしたくないとの事。

「警察に―」
 言いかけた後藤を飛鳥は手で制した。

「もちろん警察が厳重に警備を配備しているけど、映画でもマンガでも、警備ってものは大体破られるじゃない」
 吐き捨てるように、半笑いの前置き。

 明らかに飛鳥が警察組織を信用していない証拠だ。

 飛鳥が続ける。

「だから、確実に警察組織が責任を負わされる国際会議場内を除いて、それ以外の、何かが起これば必ず警察組織が言い訳するであろう他の場所を私たちが監視する。新興国の首相が国際会議場に入れば、後は警察ヤツラの管轄内だから、テロが起きても一切言い逃れはできない」

 やたらと警察組織の責任にこだわるが、過去に何か責任逃れでもされたのかな?

「社長、いま”監視”とおっしゃいましたね?私たちは監視をするだけで良いのですか?」
 後藤が訊ねた。

「私たち一般市民には犯罪者を逮捕する権限なんて与えられていないわ。もちろん例え凶悪犯であろうとも怪我を負わせてしまえば、傷害罪で逮捕されてしまう。だから、私たちが行うのは、あくまでも監視のみ」

 飛鳥の説明に、監視だけなら安心と、後藤と杉田が協力を申し出てくれた。

「監視だけなら安心だと思っていませんか?杉田さん」
 そんな杉田を呼び止めるように、背後から森下が声を掛けてきた。

「もしも爆弾テロだったら、会議場に近づくだけでも危険だと思いませんか?僕はイヤだね。わざわざ危険な場所に赴くなんて」
 この人を見下したような態度。

 普段から学校内でも浮いているのだろうと想像に難しくない。

 そんなのだから、土日にオンラインのタイラントホースのバイトに勤しんでいるのだろう。

 この手の人間は、面と向かって人と接する仕事には向いていない。

 誰もが憐れむ眼差しを彼に送った。

「イヤならイヤで結構よ」
 縁が手だけで森下を追い払う。

 そんな縁の傍ら。

「私は社員の身を危険には晒さない。タイラントホースらしくAPで周囲の監視を行ってもらいます」
 森下の言葉で堅くなっていた皆の表情が、幾分か柔らかくなった。

「社員旅行に連れて行ってもらって、おまけに臨時ボーナスまで頂けるなんて、タイラントホースは今時珍しいくらいの超ホワイト企業だわぁ。ちょっとした残業が付いちゃったけどね」
 縁が札束を数えるような仕草を入れつつ、これ見よがしに森下に聞こえるように呟いた。

「で、このミッションの報酬は?」
 せっつくように飛鳥に訊ねた。

「基本給3ヶ月分」
 飛鳥に背を向けていた森下が、思わず彼女を2度見した。

 安全かつ、おまけに高報酬ときたら乗らない手は無い。

「ひ、人手が足りないって言うのなら、協力しない事もないけど」
 飛鳥に背を向けたまま協力を匂わす発言をし始めた。

 すると飛鳥は、柔らかい笑みを見せて。

「助かるわ。監視の目が多いほど襲撃阻止の可能性は高くなるもの」

「猫の手も借りたいって言うくらいだからね。ホント。あっ、この場合は猫の目が妥当かな」
 縁のつまらない冗談など耳にはしないと、森下は彼女から顔を背けた。

 では、早速、飛鳥が皆にAPを配り始めた。

 APは、美浜・慎一のオフィスに侵入するときに使った"黒影”だ。

 あんな高性能カメラを搭載したAPを6機も所有していたなんて・・・。

 コイツ1機でもなかなかお高い(あくまでも予想)はずなのに。

 伶桜は思わず飛鳥を見やった。

 すると。

「一応は赤外線カメラに映らないステルス使用だけど、人間の目にはしっかり見られてしまうので、扱いは慎重に。それと、操作をしているところを他人に見られたらマズいので、近くのホテルに移りましょう」
 喫茶店でPCを開いている人はあちこちで見かけるが、万が一にでもAPそのものが目撃されてしまうと、警察は必ずPCを開いている人物を捜索するはずである。

 ここは費用もかさばってしまうが、ホテルの一室から操作したほうが無難と見るべきだろう。

 と、いう事で、国際会議場から直線距離で100メートルも離れていないホテルの部屋を2部屋借りて、監視の準備に取り掛かった。

 監視場所は、国際会議場の東西南北に各1機ずつAPを配備。

 飛鳥は4機のAPから送られてくる画像をチェック。

 北側に縁、表玄関に当たる東側に杉田、搬入口に当たる西側を森下、そして非常口が設けられている南側に伶桜がそれぞれ着く。

 AP配送はさすがに無理なので、レンタルサイクルを借りた後藤に各持ち場まで移送してもらう事に。

 そのため、彼だけはAPの操作は行わない。あくまでも予備として待機。それは社長の飛鳥も同じ。

 国際会議場の周りに配備するため、各機を持ち場まで配送を終えるまで予想以上に時間を費やしたものの。


 全機、とりあえずは問題無く持ち場に配備された。いよいよ。

 タイラントホースによる監視が開始された。

 何が何でも、首相襲撃だけは阻止してみせる。

 そして何よりも、不審者を見つけ出してみせる。
 
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