俺と妹が異世界で生活することになったんだが、正直帰りたい

まぐろ定食

文字の大きさ
3 / 17

1日目

しおりを挟む
異世界生活1日目。


「なんだ……なにが起こったんだ?」

眩い光を放ったPCは目の前に無く、あるのは人、家、人、家。
レンガ作りの家が立ち並び、赤い屋根や青い屋根を眺めることができる。
どうやらここは街の大通りらしかった。
気づくと隣には妹のセリカが立っていた。

「ちょっと……なんなの一体……」

セリカの姿を見ると、あることに気づいた。
薄着なのは変わらないが、さっきまで来ていた部屋着ではなく、
ゲームによく出てくる女盗賊のような、上下に分かれた動きやすい軽装に変わっていた。
するとセリカが俺に気づき、

「ちょっとお兄ちゃん……何その恰好……ぷっあははっ」

吹き出すのをこらえきれないといった風に俺を見るので、俺は自分の体を見てみると
これまたファンタジー世界に出てきそうなかけだしの勇者か剣士といった姿に服装が変わっていた。

「なんだよこれ……ゲームみたいな服になってる……」
「それより見て、あの看板」

セリカが指した方向を見ると、並ぶ家の看板には"武器取り扱ってます"や"回復薬はこちらでどうぞ"
などの看板が掲げられていて、現実世界ではあまり見ない文言が書いてあるらしかった。

「ちょっと待ってくれ……頭が混乱してる
俺たちは確か家でゲームのディスクを起動して……」
「それでパソコンが光り出したんだよね」

セリカが相槌を打つ、確かにそうだ。
俺たちは確かに家にいたはず……なのに今は中世風ファンタジー世界の大地を踏みしめている。
石で舗装された道路、並んでいるのはビルではなくレンガの家、果物や雑貨を売るバザール。
今ここにいる俺たち兄妹が違和感なく溶け込めているのは服装のおかげで、
俺とセリカの意識はむしろこの世界に驚きを隠せないままだった。
セリカはおもむろに呟く、

「ここって……ゲームの中なのかな?」
「そんな馬鹿な、こんな技術聞いたことないぞ」

確かに近年ヴァーチャル・リアリティ(VR)の技術が向上し
最近ではあるメーカーがVR用の端末を開発したが、それは疑似的に視界に投影するもので
ここまで精密に世界を描く技術があるなどとは聞いたことがない。

「だって……じゃあどうしてあたしたちはここにいるのよ?」
「それは……分からない」

黒髪ロングの盗賊衣装という不釣り合いな恰好でありながら、
赤のへそ出しタンクトップ短パン装備がよく似合う妹は腕を組みながら不満を表現した。

「ゲームの中だとしたら、戻る方法があるんじゃない?」
「そうだよな、えーと説明書…そんなものどこにあるんだ」
「知らないわよ……」

セリカは一人ノリツッコミにあきれ顔だ。
俺は最悪の想定をしてしまった。

「まさか俺たち、異世界に飛ばされたんじゃ……」
「異世界?」

疑問形の質問を投げかけるセリカに、俺は説明した。
俺の読んでいる小説では、ある日突然異世界に召喚される展開があること、
そこで主人公はなんやかんやチート的な能力を手に入れて、異世界で無双するのだ。
俺はまるで自分がそうなるかのように、熱弁した。

「つまり、あたしたちは異世界っていう中世ファンタジー的な世界に飛ばされて、
これから魔王を倒しちゃったりするわけなの?」
「お、おう……」
「でも何も起こらないよ?日も暮れてきたし……」
「おう……」

青い軽鎧を身に着けた俺は肩を落としうなだれた。
どうするんだよ、これ……元の世界に帰る方法も分からないし
お腹もすいてきたし……

「ねえ、お兄ちゃん……やっぱあのディスクが原因だよね」
「そうとしか考えられないもんな……」
「とりあえず休める所探そうよ」
「そうだな……」

どうやら妹もこの不可解な現象に心労気味のようだった。
"宿屋"と書いてある一軒家に入ることにした。

「いらっしゃい!宿泊かい?」

エプロンと頭巾をかけて、いかにもおばちゃんといった感じの恰幅のいい女主人が受付から出てきた。

「あ、2名で……ってこの世界って円は使えるのか?そもそも金持ってきてたっけ……」
「あたしもないわ、その軽鎧売ればいいじゃない」

ひどいことを言う妹だ。

「なんだい、金がないのかい?しょうがないね、ツケにしておいてあげるよ」

異世界で初めて触れたおばちゃんの優しさに涙しながら、俺はなんとか宿を確保することができた。

「あんた!名前はなんて言うんだい、宿帳に書いておくよ」
「妹尾セナです」
「ここいらじゃあんまり見ない名前だね……あいよ!」

受付を済ませ、俺はセリカとともに宿屋2階の個室へと入った。
ベッドは2つあるので安心した。

「ねえ……お兄ちゃん、これからどうするの?」
「どうするも、何も情報が無いからな……明日は一緒に酒場にでも行くか」
「うん、そうだね……なんだか疲れちゃった、お母さんたち心配してるかな……」

現実世界はどうなっているのだろうか、俺たちが急にいなくなって心配しているだろうか。
それより先に解決しなくてはいけないのは俺たちが元の世界に帰る方法だ。
妹尾セナは、なんでこんなことになってしまったんだと思いつつも、
今はまどろみに身を任せるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...