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ダンスパーティ②
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練習した時のように、手を合わせ体を密着させる。日本で生きてきた私には体を密着するのは慣れない。今まで誰かと付き合ったこともなかったから、余計にドキドキしてしまう。
ステップが分からなくても、一歩踏み出すと流れるようにミュゼァが次の一歩を示してくれる。そして知らぬ間に体が動いていく。
流れる音楽が頭に入ってこない。周囲の人が何か言っている気がするけど、今まで見たことのないくらい柔和な笑顔のミュゼァにドキドキしないようにする方が難しい。
「そんなに緊張した顔をしないでくれ。周囲の人間は関係ない。ダンスを楽しんで」
「そんなに、余裕ないですよ」
足を踏まないように一歩出るのがやっとだった。
「オズワルド様、これでは聖女様がかわいそうです」
オリビアの声が聞こえる。楽しそうな声。
それが合図だったのオズワルドがその場にひざまづく。
「私の姫様、一曲踊ってくれませんか?」
オズワルドとオリビアも踊り出す。ミュゼァがそれをみると、ダンスフォールの中央からはじの方に自然に誘導してくれる。
壁際までくるとそっと踊りを終わらす。
「ハァァ」
大きな息を吸い、ダンスフォールの中央で踊る二人をみる。幸せそうに踊っている二人。お似合いに見えるんだけど、なぜかオズワルドが悲しげにオリビアを見つめている様に見えてしまう。
「そんなに大きなため息をついて。俺のリードでは不服でしたかな、お姫様?」
ミュゼァの視線はオズワルドとオリビアに向いている。いや、会場にいる誰もが二人に視線が釘ずけだ。私のダンスがミュゼァの魅力を落としている気がしてならなかった。所詮私は付け焼き刃で踊りを覚えた。足を踏まないようにするのがやっとで、今踊っている二人は息がぴったりだった。
「王妃教育も終えているオリビア様はいつ嫁がれるのでしょうか」
「オズワルド殿下は邪気などの問題が解決してから婚姻を結びたいとお話しされたのを聞いたことがありますわ」
私がちゃんと仕事を進めないと二人は結婚ができないのか。噂話をする人たちの言葉にグッとやられてしまう。
「オズワルド殿下は責任感が強いですからね」
「でも、お二人の年齢を考えたらそろそろ結婚しないと……」
私がダメダメ聖女だからこそ、オリビアは私のことに協力的だったのかもしれない。自分が結婚するために、早く私に聖女としての仕事を終わらせて欲しいと思っているのかな。
「美麗様、気にしないでください。オリビア様のお節介は昔からです。むしろ美麗様のことを妹のように可愛がっていますよ。オズワルドに関しては、あいつがはっきりさせないのがいけない。文句を言いたいのであれば後で時間を作らせますが」
ミュゼァが近くで噂をしていた女性たちを睨みつける。視線に気がついた女性たちは気まずそうにその場から動く。
流れている音楽も佳境に入っている感じがして、クルクルと回されたオリビアがオズワルドに支えられてフィニッシュとなる。
激しい動きに見えたけど二人の息は全く上がっている様子はなかった。
オリビアが一歩後ろに下がると、オズワルドがその場にいる全員に宣言するかのようにいう。
「それではみなさまもダンスを楽しんでください。食事も用意しております」
その言葉が終わると数名の男女がダンスを始める。近くで私に対する文句を行っていた人たちも他の人と踊っている。
中には私やミュゼァに視線を送ってくる人たちがいた。
「美麗様さえよければ他の人たちと踊ってきてもいいんですよ」
壁に寄りかかっているミュゼァの横顔に私は頬を膨らませた。
「私に知り合いが少ないの、分かっていっていますか?さっきだって悪口言われてましたし」
それを庇ってくれたのはミュゼァなんだけどなと思いつつ、わざとらしく私に耳打ちをしてくる。
「聖女様と仲良くなりたい人はいるんだ。力を使いこなせるようになれば病だって治せる。そうなると皆君との縁を繋いでおきたいって考えるんだよ。それに……」
離れてからミュゼァは後れ毛にそっと触れる。
「オリビア様に負けず劣らず美麗様も綺麗なんだ。みんな見惚れてる」
そんな甘い言葉を今まで直球で言われたことがないから、私は用意してあった立食コーナーに歩き始める。
「いきなりそんなことを言われても知らないよ‼︎」
そう、純日本人として生きてきて、彼氏彼女も分からない私には刺激が強すぎる。誰が見たってオリビアの方が美しいのに、ミュゼァが私も美しいというと本当のことのように聞こえてくる。
「待って」
スクスク笑いながらミュゼァが後ろからついてくるのを無視しながら、私はどんなものが並べられているのか眺めてしまった。これ以上イケメンと話していると自分の心臓が持たない。
用意されている料理の多くは一口で食べられるサイズの物が多かった。ケーキにマカロンなど、それ以外はチーズやハムまであった。
地球にある食べ物に似ているものもあれば、そうでないものもあるので、幅広い。しかし日本食が恋しくなっている私は「お米」が食べたい。いつか見つけられたらいいなと考えている。
「お腹いっぱい」
ダンスに誘ってくる人に対して「ダンスある分からなくて」と断りを入れつつ、用意してある料理の大半を食べ尽くしていた。基本的にミュゼァが私の側にいて、誰かに挨拶に行く時などはミークが側にいてくれた。
アルコール度数の低いシャンパンのようなものを何杯か飲んだ私はほろ酔いだ。
お酒を飲んだせいもあるのか私の体は熱っていた。
「ミュゼァ、様ちょっと外に……」
周囲を見ても姿が見えず、私は歩いていたスタッフにお皿を渡し涼もうと中庭に出る扉から外に出た。
渡しが出たことに誰も気がついている様子がない。ふわぁとあくびも出てきたから今日のパーティーはそろそろお暇しようかしら。
パーティーが開かれている場所は時折、何かしら催しが行われているらしい。中庭には立派な噴水と、庭師が丹精込めて作ったと思われる花壇があった。咲いている花はまだないが、緑が生い茂っていた。迷路のような作りになっていて私は気の向くままに歩き始める。パーティー会場の上から見た時に、中央に噴水があり、そこにベンチがあったように見えた。
植えてある花壇の草木の背は高く、私よりも背が高かった。先が見えない道を歩いているとボソボソとした話し声が聞こえてきた。
「今回の聖女使えない人間らしいぞ」
私はその場に足を止めてしまった。低めの男性の呟きに私の背は寒くなる。私が使えないのは、自分が一番知っている。
その場に根が生えてしまったかのように立ち止まってしまう。立ち聞きしたくない、むしろこの場からすぐに離れたいのに。
私の気配に気がついていないのか、違う男の声が聞こえた。こちらの声の方が少し高く感じる。
「本当か、異世界から召喚したんだろう?それなのに使えないってどうするんだ」
「オズワルド殿下とミュゼァ様がそれを隠してるんだ。この間の魔物の討伐の時も足手纏いだったって聞いているぞ。聖女が心配で聖龍が着いて来たって話だ」
低めの声の男が言っていることは事実だ。聖龍に乗って帰ってきた時に街の人たちに歓迎されていたのが心苦しかった。
私は何もできずにただ怯えていただけで、聖女としての力を果たせていない。
高めの方の声の男はムムムと唸り始める。
「新しい聖女様この国の人間じゃないって聞いているけど、半年はもう経つだろう。そんな使えない聖女に国の未来を託すしかないってリュー国の未来は大丈夫なのかい?」
「俺もそれは心配しているんだ。このまま国に居ても良いものかって」
それは一番自分が分かっている。私が聖女じゃない方がいいんじゃないかって。もしかしたら私が居なくなって他の聖女を新しく召喚した方が国のためなんじゃないかって。間違えて私は召喚されてしまったのではとずっと考えている。
男二人は私の存在に気が付かぬままその場を離れていく。私も家に帰ろう。
そしてミュゼァにちゃんと話して聖女から降りるように手続きしてもらおう。
ステップが分からなくても、一歩踏み出すと流れるようにミュゼァが次の一歩を示してくれる。そして知らぬ間に体が動いていく。
流れる音楽が頭に入ってこない。周囲の人が何か言っている気がするけど、今まで見たことのないくらい柔和な笑顔のミュゼァにドキドキしないようにする方が難しい。
「そんなに緊張した顔をしないでくれ。周囲の人間は関係ない。ダンスを楽しんで」
「そんなに、余裕ないですよ」
足を踏まないように一歩出るのがやっとだった。
「オズワルド様、これでは聖女様がかわいそうです」
オリビアの声が聞こえる。楽しそうな声。
それが合図だったのオズワルドがその場にひざまづく。
「私の姫様、一曲踊ってくれませんか?」
オズワルドとオリビアも踊り出す。ミュゼァがそれをみると、ダンスフォールの中央からはじの方に自然に誘導してくれる。
壁際までくるとそっと踊りを終わらす。
「ハァァ」
大きな息を吸い、ダンスフォールの中央で踊る二人をみる。幸せそうに踊っている二人。お似合いに見えるんだけど、なぜかオズワルドが悲しげにオリビアを見つめている様に見えてしまう。
「そんなに大きなため息をついて。俺のリードでは不服でしたかな、お姫様?」
ミュゼァの視線はオズワルドとオリビアに向いている。いや、会場にいる誰もが二人に視線が釘ずけだ。私のダンスがミュゼァの魅力を落としている気がしてならなかった。所詮私は付け焼き刃で踊りを覚えた。足を踏まないようにするのがやっとで、今踊っている二人は息がぴったりだった。
「王妃教育も終えているオリビア様はいつ嫁がれるのでしょうか」
「オズワルド殿下は邪気などの問題が解決してから婚姻を結びたいとお話しされたのを聞いたことがありますわ」
私がちゃんと仕事を進めないと二人は結婚ができないのか。噂話をする人たちの言葉にグッとやられてしまう。
「オズワルド殿下は責任感が強いですからね」
「でも、お二人の年齢を考えたらそろそろ結婚しないと……」
私がダメダメ聖女だからこそ、オリビアは私のことに協力的だったのかもしれない。自分が結婚するために、早く私に聖女としての仕事を終わらせて欲しいと思っているのかな。
「美麗様、気にしないでください。オリビア様のお節介は昔からです。むしろ美麗様のことを妹のように可愛がっていますよ。オズワルドに関しては、あいつがはっきりさせないのがいけない。文句を言いたいのであれば後で時間を作らせますが」
ミュゼァが近くで噂をしていた女性たちを睨みつける。視線に気がついた女性たちは気まずそうにその場から動く。
流れている音楽も佳境に入っている感じがして、クルクルと回されたオリビアがオズワルドに支えられてフィニッシュとなる。
激しい動きに見えたけど二人の息は全く上がっている様子はなかった。
オリビアが一歩後ろに下がると、オズワルドがその場にいる全員に宣言するかのようにいう。
「それではみなさまもダンスを楽しんでください。食事も用意しております」
その言葉が終わると数名の男女がダンスを始める。近くで私に対する文句を行っていた人たちも他の人と踊っている。
中には私やミュゼァに視線を送ってくる人たちがいた。
「美麗様さえよければ他の人たちと踊ってきてもいいんですよ」
壁に寄りかかっているミュゼァの横顔に私は頬を膨らませた。
「私に知り合いが少ないの、分かっていっていますか?さっきだって悪口言われてましたし」
それを庇ってくれたのはミュゼァなんだけどなと思いつつ、わざとらしく私に耳打ちをしてくる。
「聖女様と仲良くなりたい人はいるんだ。力を使いこなせるようになれば病だって治せる。そうなると皆君との縁を繋いでおきたいって考えるんだよ。それに……」
離れてからミュゼァは後れ毛にそっと触れる。
「オリビア様に負けず劣らず美麗様も綺麗なんだ。みんな見惚れてる」
そんな甘い言葉を今まで直球で言われたことがないから、私は用意してあった立食コーナーに歩き始める。
「いきなりそんなことを言われても知らないよ‼︎」
そう、純日本人として生きてきて、彼氏彼女も分からない私には刺激が強すぎる。誰が見たってオリビアの方が美しいのに、ミュゼァが私も美しいというと本当のことのように聞こえてくる。
「待って」
スクスク笑いながらミュゼァが後ろからついてくるのを無視しながら、私はどんなものが並べられているのか眺めてしまった。これ以上イケメンと話していると自分の心臓が持たない。
用意されている料理の多くは一口で食べられるサイズの物が多かった。ケーキにマカロンなど、それ以外はチーズやハムまであった。
地球にある食べ物に似ているものもあれば、そうでないものもあるので、幅広い。しかし日本食が恋しくなっている私は「お米」が食べたい。いつか見つけられたらいいなと考えている。
「お腹いっぱい」
ダンスに誘ってくる人に対して「ダンスある分からなくて」と断りを入れつつ、用意してある料理の大半を食べ尽くしていた。基本的にミュゼァが私の側にいて、誰かに挨拶に行く時などはミークが側にいてくれた。
アルコール度数の低いシャンパンのようなものを何杯か飲んだ私はほろ酔いだ。
お酒を飲んだせいもあるのか私の体は熱っていた。
「ミュゼァ、様ちょっと外に……」
周囲を見ても姿が見えず、私は歩いていたスタッフにお皿を渡し涼もうと中庭に出る扉から外に出た。
渡しが出たことに誰も気がついている様子がない。ふわぁとあくびも出てきたから今日のパーティーはそろそろお暇しようかしら。
パーティーが開かれている場所は時折、何かしら催しが行われているらしい。中庭には立派な噴水と、庭師が丹精込めて作ったと思われる花壇があった。咲いている花はまだないが、緑が生い茂っていた。迷路のような作りになっていて私は気の向くままに歩き始める。パーティー会場の上から見た時に、中央に噴水があり、そこにベンチがあったように見えた。
植えてある花壇の草木の背は高く、私よりも背が高かった。先が見えない道を歩いているとボソボソとした話し声が聞こえてきた。
「今回の聖女使えない人間らしいぞ」
私はその場に足を止めてしまった。低めの男性の呟きに私の背は寒くなる。私が使えないのは、自分が一番知っている。
その場に根が生えてしまったかのように立ち止まってしまう。立ち聞きしたくない、むしろこの場からすぐに離れたいのに。
私の気配に気がついていないのか、違う男の声が聞こえた。こちらの声の方が少し高く感じる。
「本当か、異世界から召喚したんだろう?それなのに使えないってどうするんだ」
「オズワルド殿下とミュゼァ様がそれを隠してるんだ。この間の魔物の討伐の時も足手纏いだったって聞いているぞ。聖女が心配で聖龍が着いて来たって話だ」
低めの声の男が言っていることは事実だ。聖龍に乗って帰ってきた時に街の人たちに歓迎されていたのが心苦しかった。
私は何もできずにただ怯えていただけで、聖女としての力を果たせていない。
高めの方の声の男はムムムと唸り始める。
「新しい聖女様この国の人間じゃないって聞いているけど、半年はもう経つだろう。そんな使えない聖女に国の未来を託すしかないってリュー国の未来は大丈夫なのかい?」
「俺もそれは心配しているんだ。このまま国に居ても良いものかって」
それは一番自分が分かっている。私が聖女じゃない方がいいんじゃないかって。もしかしたら私が居なくなって他の聖女を新しく召喚した方が国のためなんじゃないかって。間違えて私は召喚されてしまったのではとずっと考えている。
男二人は私の存在に気が付かぬままその場を離れていく。私も家に帰ろう。
そしてミュゼァにちゃんと話して聖女から降りるように手続きしてもらおう。
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