古代兵器ミカエル

真綾

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「ハァ、ハァ」

 人ではない悪魔と呼ばれる生命体から流れ出る体液は人の血よりも赤く透明度の高いものだった。

 匂いはせずただのっぺりとした感触だけがいつまでも掌にこびりついて離れない。

《何をやっているの、早く逃げなさい》

 血により反応する古代兵器を扱えるのは十六歳以下の子どものみ。

 適合者と判明し、兵器と共鳴すれば十六歳の誕生日を迎えた日に命を落とす。

 しかし人類が生み出した兵器では太刀打ちできない悪魔達と戦うにはこれを使うしかないのだ。

 何体の悪魔を倒したのか覚えていない。

 記憶に残るのは初めて倒した悪魔の悲痛な叫び声だけ。

 生きる場所を探してここに辿り着いた。人類が話し合いの場を設けずに先に仕掛けてきた、とその悪魔は口にしていた。

《丞太郎、早く引きなさい。貴女が死んでしまえば世界が終わるのよ》

 見たことのない巨大な体格の悪魔。

 今までは大きくとも全長五百メートルほど。

 姿形はその時により変わるが、今目の前にいるのは人型だった。

 背中には羽根が生え、とがった耳と尻尾を持っている。

 目は闇のように深い黒。吸い込まれてしまいそうだ。

「貴様ガ、ミカエル。オ前ヲ倒セバ世界ハ我物」

 違う。

 世界の王は僕みたいな子どもじゃない。

 どうしてミカエルが僕を選んだかは分からない。

 許嫁の弥生がハーツの組員で僕の両親が弥生を心配して僕を組員としてハーツにいれただけ。

初めて発見された時よりミカエルの操縦者は現れず、人類は滅亡と紙一重で悪魔と交戦していた。

 解明されていることは何一つない、古代兵器。

 何を基準として選ばれるのかも分からない。

 自身の命があるにせよ世界が滅んでしまえば生きる場所が無くなってしまうため、国民の努力義務として適合者かどうかの判定を受けることとなっている。

 世界各国を見ても日本だけが努力義務という形で強制ではない。

 海外だと生後直ぐに適合者かどうかの試験を受け、適合者だと分かれば軍に入れられ五歳までに戦闘訓令を受けるところもあると聞く。

 その中で僕は見出され、来年十六になる。

 一般人としてそれまで普通に生活をしていた僕が戦えるはずがない。

 サポートとして適合者になれずとも戦う意思のある者の補助があったから僕は戦えたんだ。

 両親が弥生を心配して僕をハーツの組員に入れなければ僕は戦いの場に居ることなんてなかった。

 戦うよりも大切なことが沢山ある世界だけど、悪魔達の侵略があるため、滅亡しないように人々は“明日”を勝ち取る為に力を振るっている。

僕が十六になるまでに倒さなければ、世界は終わってしまうと誰かが言った。

初代適合者以降ミカエル、古代兵器の最強たる兵器が動く姿を残した文献は存在しない。

 強いが故に修復までに時間がかかると言われている説もあれば、簡単に扱えないから最強と呼ばれているとも言われている。

 真実は分からない。

 僕が目の前にいる悪魔を倒さなければ明日を迎えられるか分からないことしか、分からない。
 
 今日の悪魔は今まで遭遇してきた奴らと一味違う。

 世界を手に入れると言っていた。

僕が死んで直ぐに、新しいミカエルの適合者が現れるとは限らない。

 子どももために未来があり、大人が世界を守らなければ次世代に繋げられないと言っていたけど、じゃぁ、戦っている僕は一体誰が守ってくれるって言うのさ。
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