10 / 11
10.
しおりを挟む
肉の塊と化した弥生様をアタシはそっと寝転がらせる。
足の力が抜け、座り込む。
聡明な弥生様ならばいつかは自分の欠点に気が付いてやり直してくれると信じていたけど、いつから弥生様は壊れていたのかな。
アタシは弥生様の髪にそっと触れる。
あまり似ていない容姿。
どちらかと言えば丞太郎にアタシは似ている。
巻き戻した記憶は弥生様と同じく保持しているが、弥生様がアタシの存在を生み出そうと思ったのはいつくらいからか。
助ける方法を試行錯誤していた中で生み出されたアタシ。
成功するまで時間がかかっていたことしか分からない。
視たくない過去をアタシはわざわざ開くことはしない。
弥生様は助ける為ならと無理をした。
丞太郎のことを忘れて前に進むという選択肢が彼女の中には無かったのだ。
目もかすむ。
口の中に血の味が広がる。
ミカエルが過去に戻り正しい選択を選んだ。
時は動き始める。
アタシが母さんとなる人を殺して父さんは自らの手で己の運命にピリオドを刺した。
アタシが生れたのは二人の遺伝子を継いでいたから。
幸か不幸か丞太郎は弥生が本当に愛していたからこそ、ミカエルの手で殺すことをしなかった。
丞太郎が殺せば彼女は罪を犯すことは無い。
歩むべき時間へと進むために自ら悪魔を倒しに行く。
生かされた弥生様は何度も丞太郎を救おうとし、壊れて逝った。
向けられる眼差しが、アタシと弥生様を重ねていることを本人は気が付いていなかった。
親の決めた許嫁ということに丞太郎は少し不満そうにしていたのは、何処か自信のない己が彼女の隣に立つことが躊躇われていたからだと二人とも気づいていなかった。
二人には幸せになって欲しかった。
娘としてなのか、そういう風に作られたからかは、分からないけど。
「また、助けられなかった」
アタシは知っているよ。
弥生様は親同士が決めた相手だったけど本当に大好きだった。
時が操れるせいため未来で丞太郎が死ぬのを耐えられなかった。
時の天使の力は貴重で、しかし人類が前に進むのを阻止する恐れがあるから秘密裏に殺されている。
アタシは弥生様が間違っていることをしていると気が付けると信じてたから、今日まで言われるままに行動をしていた。
アタシが代わりに死ねば丞太郎は必ず過去に遡る。
何度試しても繰り返される。
ミカエルの力がある者が死ぬのではない。
あの場所では丞太郎が命を落とさなければ世界を救ううことが出来ないのだ。
助けられるまで何度だって挑戦しようとしていて、その中でアタシという存在を作ることを思いついたことも。
アタシが生きる理由はそれだったことも。
「でも、父さん、母さんって呼べないじゃない」
未来から来たことを口にすることは出来ないし、母さんは丞太郎さえ生きてくれていればそれでよかったんだもんね。
父さんの運命を変えられなくて何度も看取ってきた。
そのたびに弥生様は壊れていった。
魂の削れない範囲までの巻き戻しで何度も何度も試行錯誤して記憶に残してタイムラグを作らないよう綿密な計画を立てていたのに。
時の天使の使い手は大切な人のためにいつも壊れて逝くってミカエルが教えてくれた。
戦いのために生まれたアタシは二人の幸せを願うことくらいしか出来なくて。
生きる時間を共にするたびに母さんには強くなってほしくて、諦めてもらいたくて。
己の犯した罪に気が付いてもらいたかったの。
丞太郎がアタシのことを優しい瞳で見てきたのは弥生様の子だったからだと言ったら信じてもらえたかな。
どうしてもアタシを救いたくて天使の力を執行してまで時間を遡るのは二人の子どもだったからなんだよ。
「独りは寂しいから」
せめてアタシが消えるまでは寄り添わせて。
不器用で似た者同士の二人は、きっと気が付かない。
ミカエルの力を保持しているから弥生様が犯した罪の重さを知っているから、何度でもそれを阻止しようとするんだよ。
時の天使の暴走は当人の死亡かミカエルのように影響を跳ね返せなければ止められないから。
母さん。
生まれてきた意味をアタシは成し遂げられなかった。
守りたい人のために犠牲になるなら弥生様はきっと自らを差し出した。
しかし与えられた力では弥生様は丞太郎を守れないため、アタシを産んだ。
足の力が抜け、座り込む。
聡明な弥生様ならばいつかは自分の欠点に気が付いてやり直してくれると信じていたけど、いつから弥生様は壊れていたのかな。
アタシは弥生様の髪にそっと触れる。
あまり似ていない容姿。
どちらかと言えば丞太郎にアタシは似ている。
巻き戻した記憶は弥生様と同じく保持しているが、弥生様がアタシの存在を生み出そうと思ったのはいつくらいからか。
助ける方法を試行錯誤していた中で生み出されたアタシ。
成功するまで時間がかかっていたことしか分からない。
視たくない過去をアタシはわざわざ開くことはしない。
弥生様は助ける為ならと無理をした。
丞太郎のことを忘れて前に進むという選択肢が彼女の中には無かったのだ。
目もかすむ。
口の中に血の味が広がる。
ミカエルが過去に戻り正しい選択を選んだ。
時は動き始める。
アタシが母さんとなる人を殺して父さんは自らの手で己の運命にピリオドを刺した。
アタシが生れたのは二人の遺伝子を継いでいたから。
幸か不幸か丞太郎は弥生が本当に愛していたからこそ、ミカエルの手で殺すことをしなかった。
丞太郎が殺せば彼女は罪を犯すことは無い。
歩むべき時間へと進むために自ら悪魔を倒しに行く。
生かされた弥生様は何度も丞太郎を救おうとし、壊れて逝った。
向けられる眼差しが、アタシと弥生様を重ねていることを本人は気が付いていなかった。
親の決めた許嫁ということに丞太郎は少し不満そうにしていたのは、何処か自信のない己が彼女の隣に立つことが躊躇われていたからだと二人とも気づいていなかった。
二人には幸せになって欲しかった。
娘としてなのか、そういう風に作られたからかは、分からないけど。
「また、助けられなかった」
アタシは知っているよ。
弥生様は親同士が決めた相手だったけど本当に大好きだった。
時が操れるせいため未来で丞太郎が死ぬのを耐えられなかった。
時の天使の力は貴重で、しかし人類が前に進むのを阻止する恐れがあるから秘密裏に殺されている。
アタシは弥生様が間違っていることをしていると気が付けると信じてたから、今日まで言われるままに行動をしていた。
アタシが代わりに死ねば丞太郎は必ず過去に遡る。
何度試しても繰り返される。
ミカエルの力がある者が死ぬのではない。
あの場所では丞太郎が命を落とさなければ世界を救ううことが出来ないのだ。
助けられるまで何度だって挑戦しようとしていて、その中でアタシという存在を作ることを思いついたことも。
アタシが生きる理由はそれだったことも。
「でも、父さん、母さんって呼べないじゃない」
未来から来たことを口にすることは出来ないし、母さんは丞太郎さえ生きてくれていればそれでよかったんだもんね。
父さんの運命を変えられなくて何度も看取ってきた。
そのたびに弥生様は壊れていった。
魂の削れない範囲までの巻き戻しで何度も何度も試行錯誤して記憶に残してタイムラグを作らないよう綿密な計画を立てていたのに。
時の天使の使い手は大切な人のためにいつも壊れて逝くってミカエルが教えてくれた。
戦いのために生まれたアタシは二人の幸せを願うことくらいしか出来なくて。
生きる時間を共にするたびに母さんには強くなってほしくて、諦めてもらいたくて。
己の犯した罪に気が付いてもらいたかったの。
丞太郎がアタシのことを優しい瞳で見てきたのは弥生様の子だったからだと言ったら信じてもらえたかな。
どうしてもアタシを救いたくて天使の力を執行してまで時間を遡るのは二人の子どもだったからなんだよ。
「独りは寂しいから」
せめてアタシが消えるまでは寄り添わせて。
不器用で似た者同士の二人は、きっと気が付かない。
ミカエルの力を保持しているから弥生様が犯した罪の重さを知っているから、何度でもそれを阻止しようとするんだよ。
時の天使の暴走は当人の死亡かミカエルのように影響を跳ね返せなければ止められないから。
母さん。
生まれてきた意味をアタシは成し遂げられなかった。
守りたい人のために犠牲になるなら弥生様はきっと自らを差し出した。
しかし与えられた力では弥生様は丞太郎を守れないため、アタシを産んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる