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魔王継承
8 魔将軍たちの動向
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ついに勇者によって魔王が倒された。
それまで魔王の直臣であった魔将軍たちは、それぞれ主要な戦場の指揮官として配備されていたが、命令を下す者がいなくなったため、戦場を離脱し、自分たちの思惑に従って動きだした。
野望も望みも全く違う魔族たちを一つにまとめていた魔王はそれだけ偉大であったと言えるだろう。
「けっ、ケツの青い勇者なんぞに倒されるとはな。あの魔王もしょせんそれだけの器だったってことだ。で、次代の魔王は誰が継いだのかまだわからんのか?」
「はっ、魔王の子どもたちのうち、長子と次子は既に牙将軍に弑され果てました」
「まぁあの脳筋将軍が自分より弱い魔王の出現を許すはずもないからな。牙と言えば、あいつの一族の娘と魔王の間に子どもがいたのではなかったか?」
「はっ! 闇夜の衣ですな。どうやら魔王の継承はならずといったところのようで」
「ふん、強さ自慢の犬共の血筋に魔王の力は降りなかったか。まぁそりゃあそうだろうさ。魔王は強さだけでは始まらん。頭が切れなければ戦争なぞ出来んわ」
「まことに……」
「さてさて、それでは魔王の力はどこへ行ったのやら。あの魔王もあちこちに子種をばらまいたからな。なかなか厄介だ」
「はっ、強き女がいればそこを訪れたと聞いております。より強い血を求めるのは魔王の本能かと」
「ふん。あの魔王もなかなか強くはあったが、結局は人間の奸計に敗れた。もしこの頭を垂れる相手が現れるとすれば、人間の勇者など歯牙にもかけぬ絶対的な強者のみ」
「同意でございます」
「さて、情報収集はここまでだ。我も動くぞ」
「お供いたします」
とろりと濃密な闇がたちこめる古城に棲まう強き魔族が動き出す。
彼らにとって弱き者はことごとくが餌でしかない。
人間など、家畜として飼ってやるのが慈悲であると考える者たちだった。
そして、また別の場所でうごめく者があった。
「なぜこれほど魔王の継承者が見つからぬのだ! 我らアラクネーの糸に辿れぬ場所にいると言うのか!」
怒りをあらわに部下を罵倒するのは魔王軍の将の一人であった繰糸将軍だ。
アラクネーと言う下半身が蜘蛛で上半身が人という種族の英雄でもあった。
アラクネーでは男よりも女のほうが強い。
そのため、アラクネーの英雄は常に女だ。
「おひいさま、お鎮まりを。なに、魔王がおらぬ今こそチャンスではありませぬか。力任せに敵を倒すしか脳のない連中など我らの敵ではありませぬ。今のうちに子育てに適した餌場を我らの領地とするのです」
繰糸将軍はしばし考える。
アラクネーたちは実は決して好戦的な種族ではない。
種族の繁栄を第一に考えるのがアラクネーの一族の方針だった。
ただし、彼女たちの子育てには多くの生き餌が必要となる。
数が多く、それなりに栄養となる生き物として人族は理想的な相手だった。
そのため、人族の大きな街を一つもらうため彼女たちは魔王に協力していたのだ。
「そうだな。我らだけでもか弱き人族の街程度占拠することは出来る。じわじわと包囲して手に入れてしまおう」
「よきことです。このじい、おひいさまのお子様たちのお世話をするのが夢でございました」
「ふふ。アラクネーの女に食われなかったそなたはなかなかの強者。期待しているぞ」
「ははっ!」
それぞれの立場で動き出している魔王軍の元将軍たちであったが、なかでも要塞都市近くで活動しているのが、竜族だった。
竜族の英雄である火炎将軍は自らの住処から動かずにいたのだが、その娘である焔華は、魔王の後継者を探し続けている。
竜族は魔法に優れている一族で、そのなかでも焔華は、さまざまな魔法を使いこなす強者だった。
そしてその魔法の力を使い、魔王の後継者を探索していだのだ。
魔族の領域でそれらしき気配を感じ取れなかったため、人族の領域にその探索の網を広げたのである。
「確かにこの近くで魔王の波動を感じた。魔王の継承者はこの周辺にいるはずだ。どの種族よりも先に我ら竜族が新しい魔王を探し出すのだ! 新しい魔王が我らの主にふさわしければよし、そうでなければ早々に殺して次の魔王に継承する。それこそが我らの役割である」
ジークとクイネの知らぬ間に、魔族の手は彼らに近づきつつあった。
それまで魔王の直臣であった魔将軍たちは、それぞれ主要な戦場の指揮官として配備されていたが、命令を下す者がいなくなったため、戦場を離脱し、自分たちの思惑に従って動きだした。
野望も望みも全く違う魔族たちを一つにまとめていた魔王はそれだけ偉大であったと言えるだろう。
「けっ、ケツの青い勇者なんぞに倒されるとはな。あの魔王もしょせんそれだけの器だったってことだ。で、次代の魔王は誰が継いだのかまだわからんのか?」
「はっ、魔王の子どもたちのうち、長子と次子は既に牙将軍に弑され果てました」
「まぁあの脳筋将軍が自分より弱い魔王の出現を許すはずもないからな。牙と言えば、あいつの一族の娘と魔王の間に子どもがいたのではなかったか?」
「はっ! 闇夜の衣ですな。どうやら魔王の継承はならずといったところのようで」
「ふん、強さ自慢の犬共の血筋に魔王の力は降りなかったか。まぁそりゃあそうだろうさ。魔王は強さだけでは始まらん。頭が切れなければ戦争なぞ出来んわ」
「まことに……」
「さてさて、それでは魔王の力はどこへ行ったのやら。あの魔王もあちこちに子種をばらまいたからな。なかなか厄介だ」
「はっ、強き女がいればそこを訪れたと聞いております。より強い血を求めるのは魔王の本能かと」
「ふん。あの魔王もなかなか強くはあったが、結局は人間の奸計に敗れた。もしこの頭を垂れる相手が現れるとすれば、人間の勇者など歯牙にもかけぬ絶対的な強者のみ」
「同意でございます」
「さて、情報収集はここまでだ。我も動くぞ」
「お供いたします」
とろりと濃密な闇がたちこめる古城に棲まう強き魔族が動き出す。
彼らにとって弱き者はことごとくが餌でしかない。
人間など、家畜として飼ってやるのが慈悲であると考える者たちだった。
そして、また別の場所でうごめく者があった。
「なぜこれほど魔王の継承者が見つからぬのだ! 我らアラクネーの糸に辿れぬ場所にいると言うのか!」
怒りをあらわに部下を罵倒するのは魔王軍の将の一人であった繰糸将軍だ。
アラクネーと言う下半身が蜘蛛で上半身が人という種族の英雄でもあった。
アラクネーでは男よりも女のほうが強い。
そのため、アラクネーの英雄は常に女だ。
「おひいさま、お鎮まりを。なに、魔王がおらぬ今こそチャンスではありませぬか。力任せに敵を倒すしか脳のない連中など我らの敵ではありませぬ。今のうちに子育てに適した餌場を我らの領地とするのです」
繰糸将軍はしばし考える。
アラクネーたちは実は決して好戦的な種族ではない。
種族の繁栄を第一に考えるのがアラクネーの一族の方針だった。
ただし、彼女たちの子育てには多くの生き餌が必要となる。
数が多く、それなりに栄養となる生き物として人族は理想的な相手だった。
そのため、人族の大きな街を一つもらうため彼女たちは魔王に協力していたのだ。
「そうだな。我らだけでもか弱き人族の街程度占拠することは出来る。じわじわと包囲して手に入れてしまおう」
「よきことです。このじい、おひいさまのお子様たちのお世話をするのが夢でございました」
「ふふ。アラクネーの女に食われなかったそなたはなかなかの強者。期待しているぞ」
「ははっ!」
それぞれの立場で動き出している魔王軍の元将軍たちであったが、なかでも要塞都市近くで活動しているのが、竜族だった。
竜族の英雄である火炎将軍は自らの住処から動かずにいたのだが、その娘である焔華は、魔王の後継者を探し続けている。
竜族は魔法に優れている一族で、そのなかでも焔華は、さまざまな魔法を使いこなす強者だった。
そしてその魔法の力を使い、魔王の後継者を探索していだのだ。
魔族の領域でそれらしき気配を感じ取れなかったため、人族の領域にその探索の網を広げたのである。
「確かにこの近くで魔王の波動を感じた。魔王の継承者はこの周辺にいるはずだ。どの種族よりも先に我ら竜族が新しい魔王を探し出すのだ! 新しい魔王が我らの主にふさわしければよし、そうでなければ早々に殺して次の魔王に継承する。それこそが我らの役割である」
ジークとクイネの知らぬ間に、魔族の手は彼らに近づきつつあった。
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