3 / 21
暴力の理由
しおりを挟む
「ところでメディ、ちょっと気になったんだけど」
「え? はい」
メディは戸惑いながらも、特に騒ぎ立てることもなく、僕の話に付き合ってくれている。
ちょっと危機意識が低いんじゃなかろうか?
見張りとして、それはどうなの? と、感じなくもない。
まぁ僕にとっては、ありがたいことだけども。
「君さ、なんでこの一座の人達から虐められている訳?」
「へ?」
僕の問いに、メディは心底理解出来ないという顔を向けた。
ん?
「虐められているよね?」
「え? そんなことありませんよ。みなさんとてもよくしてくれています」
「えっ!」
「えっ?」
おかしい。
外から見た僕の感覚と、本人の感覚が完全に食い違っている。
え? 本人的には虐められている自覚がない感じ?
「だって、今日も、君じゃないほかの子がやった失敗を君のせいにされたよね」
「あ、あれはちょっとした勘違いだと思います。わざわざ指摘するのも申し訳ないので、私が後始末をしただけで……」
「昨日の夜、座長が酔っ払って、君を蹴ったり殴ったりしたよね?」
「お酒を飲むと羽目を外す人がいるのは仕方のないことですよ」
むむっ……。
「昨日の朝は、食事の量が足りないからって、君一人で狩りに行かされてたし」
「あ、私、こう見えてけっこう狩りが上手なんですよ。えへへ」
うっそだろ。
人間ここまでポジティブに生きられるものなのか? ちょっと信じられないんだけど。
「それにしても。カゲルさん、道中の出来事をよくご存知ですね。あの、もしかして、私の知らない一座の新人さん、ですか?」
「いや」
「えー」
即座に否定すると、メディは困惑したようだった。
いやいや、僕のことはどうでもいいから。
詮索しないでいてくれると嬉しいな。
「あのさ、メディはそれでいいのかもしれないけど、人が一方的に虐められているのって、見ているほうも嫌な気分になるんだよね。もっとはっきり言うと、僕が嫌な気分になるから、ちょっとは自覚して、待遇を改善してもらって欲しいんだけど」
とうとう僕はぶっちゃけた。
そう、僕は別にメディがどう思っていようと、どうでもいいのだ。
つい先日、とんでもない言いがかりで契約を切られたことに対するわだかまりが、僕のなかには、まだ強烈に残っている。
自由になれたこと自体はよかったけど、長年あいつの一族のために働き続けた僕の一族のがんばりが、全て否定されたことに対しては、どうしようもない苛立ちがあった。
そのこともあって、一方的な蔑みや、虐めを見ると、その気持ちが蘇ってしまう。
このままだと、この旅芸人一座に、よからぬことをやらかしてしまいそうだった。
「……確かに、普通の人の目には、ここの人達の私に対する態度がよくないように映るかもしれません。でも、本当に、ここの人達は優しいんです。……実は、私……」
メディは、何かを言おうか言うまいか、迷っているようだ。
そりゃあ僕は初めて会っただけの怪しい奴に過ぎないからな。
むしろ今、いろいろ打ち明けている分だけでも、大丈夫なのかと心配になるぐらいだ。
ただ、僕の身勝手な気持ちからすれば、理由があるなら聞いてしまいたい。
これ以上モヤモヤするのは嫌なんだ。
「言いにくいこと? 言っておくけど、僕が君の秘密を他人に漏らすようなことはないよ。そもそも僕は他人を信用してないからね」
「ふふっ」
そんな僕の言葉に、メディはなぜか笑った。
「カゲルさんは、不思議な人ですね。絶対信用出来ない相手のはずなのに、なんだか、信頼出来るような気持ちになってしまう」
「信頼とか、してもらう必要はないよ。ただの好奇心だし」
メディは少しのためらいの後、口を開く。
少し、その手が震えているのが、焚き火の明かりに照らし出されていた。
「……実は、ですね。私、半魔なんです」
「半魔って……、半分魔族、ってこと?」
「……っ、はい」
最後は消え入りそうな声で、メディはうなずいた。
ふーん、半魔、ね。
人間と魔族は永い間ずっと争いを続けている。
僕が生まれるずっと前、ご先祖さまが勇者と契約を結ぶ前から、らしいので、何百年も前からなんだろうな。
僕の一族が仕えていた勇者は、そもそも魔王を倒すための存在だしね。
ずっと争っているんだから、当然この二つの種族は、お互い激しく憎み合っている。
そんな関係でも、いろいろな事情で、二つの種族の間に子どもが出来ることがあった。
それが、僕達人間の間で、半魔と呼ばれる存在だ。
生まれて来た子どもに罪はないとは言え、憎み合う相手の血を引いているとなれば、当然迫害の対象となる訳で、生まれてすぐに殺されてしまう場合も多い、と聞いたことがある。
「そうなんだ」
「……えっと、罵ったり、殴ったりはしないの?」
「僕をそんな変態趣味の人間だと判断した理由を知りたい」
「だって、私が半魔だと知った人は、みんな、汚いものを見るような目を向けて来て、近くに寄るな! とか、死んでしまえ! とか言って、殴ったり蹴ったりするから」
「特にそういう趣味はないな」
どっちかというと、勇者と賢者にそういう目に遭って欲しい。
ほんとあいつら、死ねばいいのに。
「え? はい」
メディは戸惑いながらも、特に騒ぎ立てることもなく、僕の話に付き合ってくれている。
ちょっと危機意識が低いんじゃなかろうか?
見張りとして、それはどうなの? と、感じなくもない。
まぁ僕にとっては、ありがたいことだけども。
「君さ、なんでこの一座の人達から虐められている訳?」
「へ?」
僕の問いに、メディは心底理解出来ないという顔を向けた。
ん?
「虐められているよね?」
「え? そんなことありませんよ。みなさんとてもよくしてくれています」
「えっ!」
「えっ?」
おかしい。
外から見た僕の感覚と、本人の感覚が完全に食い違っている。
え? 本人的には虐められている自覚がない感じ?
「だって、今日も、君じゃないほかの子がやった失敗を君のせいにされたよね」
「あ、あれはちょっとした勘違いだと思います。わざわざ指摘するのも申し訳ないので、私が後始末をしただけで……」
「昨日の夜、座長が酔っ払って、君を蹴ったり殴ったりしたよね?」
「お酒を飲むと羽目を外す人がいるのは仕方のないことですよ」
むむっ……。
「昨日の朝は、食事の量が足りないからって、君一人で狩りに行かされてたし」
「あ、私、こう見えてけっこう狩りが上手なんですよ。えへへ」
うっそだろ。
人間ここまでポジティブに生きられるものなのか? ちょっと信じられないんだけど。
「それにしても。カゲルさん、道中の出来事をよくご存知ですね。あの、もしかして、私の知らない一座の新人さん、ですか?」
「いや」
「えー」
即座に否定すると、メディは困惑したようだった。
いやいや、僕のことはどうでもいいから。
詮索しないでいてくれると嬉しいな。
「あのさ、メディはそれでいいのかもしれないけど、人が一方的に虐められているのって、見ているほうも嫌な気分になるんだよね。もっとはっきり言うと、僕が嫌な気分になるから、ちょっとは自覚して、待遇を改善してもらって欲しいんだけど」
とうとう僕はぶっちゃけた。
そう、僕は別にメディがどう思っていようと、どうでもいいのだ。
つい先日、とんでもない言いがかりで契約を切られたことに対するわだかまりが、僕のなかには、まだ強烈に残っている。
自由になれたこと自体はよかったけど、長年あいつの一族のために働き続けた僕の一族のがんばりが、全て否定されたことに対しては、どうしようもない苛立ちがあった。
そのこともあって、一方的な蔑みや、虐めを見ると、その気持ちが蘇ってしまう。
このままだと、この旅芸人一座に、よからぬことをやらかしてしまいそうだった。
「……確かに、普通の人の目には、ここの人達の私に対する態度がよくないように映るかもしれません。でも、本当に、ここの人達は優しいんです。……実は、私……」
メディは、何かを言おうか言うまいか、迷っているようだ。
そりゃあ僕は初めて会っただけの怪しい奴に過ぎないからな。
むしろ今、いろいろ打ち明けている分だけでも、大丈夫なのかと心配になるぐらいだ。
ただ、僕の身勝手な気持ちからすれば、理由があるなら聞いてしまいたい。
これ以上モヤモヤするのは嫌なんだ。
「言いにくいこと? 言っておくけど、僕が君の秘密を他人に漏らすようなことはないよ。そもそも僕は他人を信用してないからね」
「ふふっ」
そんな僕の言葉に、メディはなぜか笑った。
「カゲルさんは、不思議な人ですね。絶対信用出来ない相手のはずなのに、なんだか、信頼出来るような気持ちになってしまう」
「信頼とか、してもらう必要はないよ。ただの好奇心だし」
メディは少しのためらいの後、口を開く。
少し、その手が震えているのが、焚き火の明かりに照らし出されていた。
「……実は、ですね。私、半魔なんです」
「半魔って……、半分魔族、ってこと?」
「……っ、はい」
最後は消え入りそうな声で、メディはうなずいた。
ふーん、半魔、ね。
人間と魔族は永い間ずっと争いを続けている。
僕が生まれるずっと前、ご先祖さまが勇者と契約を結ぶ前から、らしいので、何百年も前からなんだろうな。
僕の一族が仕えていた勇者は、そもそも魔王を倒すための存在だしね。
ずっと争っているんだから、当然この二つの種族は、お互い激しく憎み合っている。
そんな関係でも、いろいろな事情で、二つの種族の間に子どもが出来ることがあった。
それが、僕達人間の間で、半魔と呼ばれる存在だ。
生まれて来た子どもに罪はないとは言え、憎み合う相手の血を引いているとなれば、当然迫害の対象となる訳で、生まれてすぐに殺されてしまう場合も多い、と聞いたことがある。
「そうなんだ」
「……えっと、罵ったり、殴ったりはしないの?」
「僕をそんな変態趣味の人間だと判断した理由を知りたい」
「だって、私が半魔だと知った人は、みんな、汚いものを見るような目を向けて来て、近くに寄るな! とか、死んでしまえ! とか言って、殴ったり蹴ったりするから」
「特にそういう趣味はないな」
どっちかというと、勇者と賢者にそういう目に遭って欲しい。
ほんとあいつら、死ねばいいのに。
0
あなたにおすすめの小説
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。
森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。
一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。
これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる