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メディウムという少女
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勇者一行のいる同じ街に留まり続けるのは危険と判断した僕は、街から街へと移動する旅芸人の一行に紛れることにした。
これこそが黒衣魔法の基本である黒衣である。
集団や景色に紛れて姿を認識されなくなるのだ。
集団のなかに紛れると、その集団のなかの人間は、僕を見ても仲間の誰かだと思いこんで、違和感を抱かない。
ただし、能動的な動きをすると、たちまち露見する。
能動的な動きというのは、集団の意思とは違う行動のことだ。
黒衣は、当たり前のなかに紛れる魔法なので、当たり前ではないことが起こると、異物として認識されてしまう。
まぁ要するに何もしなければいいので、そこまで難しいことじゃないけどね。
そうやって旅芸人の一座にまぎれていると、その一行のなかに少し変わった少女がいることに気づいた。
濃紺の髪に黄金の瞳という、目立つ色彩を持っていて、おまけにかなりの美少女だ。
僕は今、十八歳なんだけど、この少女は、おそらく僕より五歳ぐらい下なんじゃないだろうか?
痩せて小柄で、いつもふらふらしている。
僕がなんでこの少女を気にしたかというと、事あるごとに殴られたり、何かの罰を受けたりしているからだ。
しかも、僕の見る限り、この少女に明確な落ち度があった試しがほとんどない。
誰かの尻拭いをさせられていたり、どうでもいい雑用をいきなりいいつけられたり、単に酒を飲んだ仲間の憂さ晴らしに殴られる、ということまであった。
僕は自分が理不尽な目に遭ったばかりなので、他人の受けている理不尽にも敏感になっていた。
まぁ言ってしまえば、憤っていたのだ。
だが、この旅芸人一座の基本姿勢が、少女を虐げることである以上、僕がそれに逆らってしまうと、黒衣の効果が切れて、僕はこの一行に二度と紛れることが出来なくなる。
僕はどう行動するのが自分にとって正しいのか、を、自分の心に尋ねることにした。
「とりあえず、本人に話を聞くのが早いか」
それをやると、少女は僕の存在に気づいてしまうが、少女の立場を見るに、彼女が僕のことを仲間に告げ口したとしても、聞き入れる人間がいるとは思えない、という、ちょっと小狡い計算もあった。
丁度、野営の寝ずの番を少女が一人で任されたので、いい機会なので話してみることにする。
しかし、ここの奴等正気か?
野営の寝ずの番って、自分達の安全のためのものだろうに、いびってた相手一人に任せるなんて、命知らずとしか言いようがない。
僕なら絶対にやらせないぞ。
僕は、焚き火の光のなかに踏み出すと、少女の隣にさりげなく座る。
「こんばんは。いい夜だね」
「あ、はい。静かでいい夜です」
そう返事をした後、何か不思議そうな顔をして、ハッと、僕に気づいた。
「えっ、あっ、誰、さん?」
「僕? 僕の名前はカゲル。今年で十八歳になるよ」
僕はそう返事をする。
すると、少女も姿勢を正した。
「わ、私は、メディウムと言います。こないだ十六歳になりました」
そう、バカ正直な答えが帰って来る。
大丈夫か? 僕はこれでも不審者なんだけど。
それにしても十六か、とうてい見えない。
小柄というよりも、発育が悪いのだろう。
「メディウムか、ちょっとごつい名前だね。メディって呼んでいい?」
「えっ、う、うん。ど、どうぞ」
少女、メディの挙動がおかしくなる。
顔が真っ赤だ。
しかし、焚き火の元で見ると、ますますその美少女ぶりがよく映えた。
この旅芸人一座も、よくもまぁこんな娘を虐めようと思ったものだ。
「あ、あの、カゲル……さん」
「うん? どうした?」
「あの、ち、近いです」
「え? 嫌だった?」
「い、嫌じゃ……ないです、けど」
照れる様子も可愛い。
正直に言わせてもらうと、僕の好みど真ん中だ。
美人なのに気取らないで、挙動が可愛い。
最高じゃないか?
これこそが黒衣魔法の基本である黒衣である。
集団や景色に紛れて姿を認識されなくなるのだ。
集団のなかに紛れると、その集団のなかの人間は、僕を見ても仲間の誰かだと思いこんで、違和感を抱かない。
ただし、能動的な動きをすると、たちまち露見する。
能動的な動きというのは、集団の意思とは違う行動のことだ。
黒衣は、当たり前のなかに紛れる魔法なので、当たり前ではないことが起こると、異物として認識されてしまう。
まぁ要するに何もしなければいいので、そこまで難しいことじゃないけどね。
そうやって旅芸人の一座にまぎれていると、その一行のなかに少し変わった少女がいることに気づいた。
濃紺の髪に黄金の瞳という、目立つ色彩を持っていて、おまけにかなりの美少女だ。
僕は今、十八歳なんだけど、この少女は、おそらく僕より五歳ぐらい下なんじゃないだろうか?
痩せて小柄で、いつもふらふらしている。
僕がなんでこの少女を気にしたかというと、事あるごとに殴られたり、何かの罰を受けたりしているからだ。
しかも、僕の見る限り、この少女に明確な落ち度があった試しがほとんどない。
誰かの尻拭いをさせられていたり、どうでもいい雑用をいきなりいいつけられたり、単に酒を飲んだ仲間の憂さ晴らしに殴られる、ということまであった。
僕は自分が理不尽な目に遭ったばかりなので、他人の受けている理不尽にも敏感になっていた。
まぁ言ってしまえば、憤っていたのだ。
だが、この旅芸人一座の基本姿勢が、少女を虐げることである以上、僕がそれに逆らってしまうと、黒衣の効果が切れて、僕はこの一行に二度と紛れることが出来なくなる。
僕はどう行動するのが自分にとって正しいのか、を、自分の心に尋ねることにした。
「とりあえず、本人に話を聞くのが早いか」
それをやると、少女は僕の存在に気づいてしまうが、少女の立場を見るに、彼女が僕のことを仲間に告げ口したとしても、聞き入れる人間がいるとは思えない、という、ちょっと小狡い計算もあった。
丁度、野営の寝ずの番を少女が一人で任されたので、いい機会なので話してみることにする。
しかし、ここの奴等正気か?
野営の寝ずの番って、自分達の安全のためのものだろうに、いびってた相手一人に任せるなんて、命知らずとしか言いようがない。
僕なら絶対にやらせないぞ。
僕は、焚き火の光のなかに踏み出すと、少女の隣にさりげなく座る。
「こんばんは。いい夜だね」
「あ、はい。静かでいい夜です」
そう返事をした後、何か不思議そうな顔をして、ハッと、僕に気づいた。
「えっ、あっ、誰、さん?」
「僕? 僕の名前はカゲル。今年で十八歳になるよ」
僕はそう返事をする。
すると、少女も姿勢を正した。
「わ、私は、メディウムと言います。こないだ十六歳になりました」
そう、バカ正直な答えが帰って来る。
大丈夫か? 僕はこれでも不審者なんだけど。
それにしても十六か、とうてい見えない。
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「メディウムか、ちょっとごつい名前だね。メディって呼んでいい?」
「えっ、う、うん。ど、どうぞ」
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しかし、焚き火の元で見ると、ますますその美少女ぶりがよく映えた。
この旅芸人一座も、よくもまぁこんな娘を虐めようと思ったものだ。
「あ、あの、カゲル……さん」
「うん? どうした?」
「あの、ち、近いです」
「え? 嫌だった?」
「い、嫌じゃ……ないです、けど」
照れる様子も可愛い。
正直に言わせてもらうと、僕の好みど真ん中だ。
美人なのに気取らないで、挙動が可愛い。
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