勘違いチートの舞台裏~主を勇者に祭り上げるために頑張ったけど、こっそりやりすぎて追い出されたので後は自由に生きる!~

蒼衣翼

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憎しみはどこから来るの

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 最悪な気分だ。
 僕を切り捨てた勇者からこっち、人間の醜悪な姿ばかりを見せつけられているような気がする。
 いや、それだけじゃない。
 僕だって、同じだ。

 なんで僕は彼女を助けなかったのだろう。
 もちろんそんな行動を取れば、黒衣くろごの魔法は解けてしまうから、もう旅芸人の一座に紛れることは出来なくなるだろうけど、あんな見世物をやって稼ぐような連中と、一緒に飯を食うのは嫌だし、どうせ飛び出すことになるのは目に見えていた。
 彼女を、メディを助けない理由は、何もなかったはずだ。

 そう、結局僕は怖かったんだ。
 僕が怖れていたのは、旅芸人達じゃない。
 あの、人々の憎しみ。
 見知らぬ、ただ、魔族の血を継いでいるだけで、自分達に何もしていない少女に向けられた、いわれなき憎しみが、とても怖かった。
 そして、自分もまた、彼らと同じ人族なのだということが、何よりも恐ろしかった。

「これじゃあ、勇者達と同じじゃないか。思い込みだけで、他人を傷つけて、何一つ疑問に思わない。僕も、結局は奴等と同じなのか?」

 勇者に感じていた憤りを、自分を含めた人族全てに感じる。
 いや、人族だけじゃない。
 魔族だって、きっと同じだ。
 そうでなければ、メディのような半魔が生まれるはずもない。

「メディの様子を見て来なきゃ」

 今回この一座は、メディのおかげで荒稼ぎが出来たのだ。
 旅芸人達がよほど馬鹿でなければ、きっちりとメディの手当ぐらいしてくれているだろう。
 そうは思ったが、段々不安になった。
 僕の考える常識が、このおぞましい舞台を考えた人間に通じるだろうか?

 忙しげに行き交う旅芸人達の間を縫って、今メディがどこにいるのかを探る。
 とりあえず最初に座長のテントにひっそりと忍び込んだ。

「座長、あいつ、かなりのケガですけど、薬はどうしますか?」
「いらんいらん。魔族は俺達人族と違って、回復力が桁違いなんだ。薬なんざいらんよ」
「確かに」
「それにしても、忌々しい魔族がこれほどの儲けになるとはな」
「座長の考えを聞いたときには、正直疑いましたけど、すげえ大当たりでしたね」
「我ながら自分の商才が怖いよ」

 ガハハと朗らかに笑い合う声。
 僕は再び込み上げて来た吐き気を抑えながら、いかにも仲間のように呼びかけた。

「座長。そういや、あいつ、今どこでしたっけ?」
「あ? いつもの馬小屋に転がしておいたはずだぞ」

 その答えを聞いて、僕は馬小屋に走る。
 あんな大ケガをした女の子を馬小屋に寝かせるって正気を疑う。
 いや、この人達は、もうとっくに正気ではないのだ。
 きっと、魔族への嫌悪感よりも、欲が上回った時点で、人の苦しみを貪るただの怪物となったのだろう。

 馬小屋を覗くと、本当に、メディが一人で、ほとんど裸の状態で寝かされていた。
 せめてもの良心なのか、古く擦り切れた薄い毛布は敷いてある。

「メディ」

 不安を感じながら呼びかけると、メディはパチリと目を開いた。

「カゲルさん……」

 意外としっかりとした声だ。
 座長の言葉を認めるのはなんだか嫌だが、確かにメディのなかの魔族の血のおかげで、回復が早いのかもしれない。

「薬、持って来たよ」

 こっそり一座の備えの分をちょろまかして来た。
 メディのおかげで儲かったことを考えれば、この程度与えられて当たり前なのだ。

「……ありがとう」
「体、起こせる? 無理ならうつ伏せのままで塗るけど」
「ごめんなさい。さすがに起きられそうにないや」

 メディの声は、暗く沈んでいた。
 前向きで明るかったあの少女の面影はもうない。

 僕は無言で、メディの背中を、持って来た水桶と手ぬぐいを使って丁寧に拭いた後、薬を塗っていく。
 赤黒い部分、紫色の部分、皮がめくれて肉が見えている部分もあった。
 僕がどれほど気をつけて拭いてあげたとしても、絶対に痛かったはずだけど、メディはうめき声ひとつ上げずに、されるままになっている。

「カゲルさん」
「ん?」
「どうしてみんな、あんなに私を嫌っているの? 私、あの人達に何かしたのかなぁ」

 顔は伏せられていて見えないが、涙声なのがわかる。

「別に、メディは何も悪くないさ」
「でも、それじゃあおかしいよ。何もしていないのにあんなに嫌われるの、おかしくないですか?」
「戦いのせいだな。魔族と人族はずっとずっと戦っていて、お互いを憎むのが当たり前になっている。だから、あの人達にとって、メディを嫌うのは当たり前なんだよ、きっと」
「でも、私、生まれて来ただけなのに。お母さんは人族で、魔族だったっていうお父さんの顔も見たことないのに」
「何の罪も犯してなくても、親が憎まれてしまえば子どもも憎まれるんだ。半魔でなくても、そういうことはよくあるよ」
「でもでも、どこかで戦いがあったって聞いたこともないんですよ。生まれた町でも、ひいお爺ちゃんの話とか、物語で、とかでしか、誰も魔族との戦いなんて知らないのに」
「もうまともな戦いはやってないからね。まともに戦いを続けていた時代、あまりにも人族の被害が大きくて、滅亡寸前まで行ったんだ。そんなときに、勇者が一人で魔王を倒して、一時的に魔族が引いた。それ以来、人族は、勇者を中心とした少数精鋭で魔族の国に侵入して、魔王を倒すという方法を選ぶようになったんだ。まぁ最初のとき以外、魔王を倒せてはいないけど、勇者への対応で、魔族の人族の国への侵攻もなくなったんで、今はどの国も、豊かさが増していると聞いてる」
「カゲルさん、すごく詳しい」

 そりゃあね。
 うちの家系は、魔王を狙う勇者のお供をずっとやってた訳だから、おそらくどこよりもホットな情報だと思うよ。
 というか、うちの一族のせいで、魔族は身動きが取れなくなったと言ってしまってもいいかもしれない。
 実際に口にしたら、勇者は鼻で笑うだろうけど。

「もう戦っていないのなら、仲良く、出来ないのかな?」

 ぽつりと、メディはそう呟いた。
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