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運命の学園生活
三人部屋
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自立を旨とするトゥエルブサイン学園では、学生は全て寮生活をすることとなる。
一つの部屋を三人で使って、協調性も養うのだ。
一応身分の上下についてこだわらないという建前があるので、この同室のメンバーはランダムに決められるとされているが、さすがにあまりに身分に隔たりがあると、下位の者が上位の者の下僕扱いされかねないので、あまり開きのない範囲で決められるようだった。
そしてこの同室メンバーは、卒業までの三年間、変化することはない。
「よろしくお願いします。わたくしローズ・メイ・グリーンガーデンと申します。ローズとお呼びください」
「こちらこそよろしくお願いいたします。ローズ様。わたくしはミュスカ・デリア・エイルダークです。どうぞミュスカとお呼びください」
最初にローズの挨拶に応じたのは、栗色のふんわりとした髪を持つ、優しげな少女だった。
ローズの知識によると、エイルダーク家は侯爵家で、南のほうに領地があったはずである。
「どうかローズと呼び捨てにしてください。ミュスカ」
ローズはミュスカにそう頼んだ。
これから三年間を共に過ごすのである。
身分的な問題は、貴族としての人生には付きまとうものだが、少なくとも学園生である間は気にすることではない。
むしろ様づけなどされては、学園生活で浮いてしまうだろう。
「あ、ありがとうございます」
なぜかミュスカは戸惑っているようだった。
ひどくまごついている。
「私の番ね。私はアイネ・ジャイスクット・ケイアール。アイネと呼んで頂いてけっこうよ」
「よろしく、アイネ」
「よろしくね、アイネ」
ローズとミュスカが挨拶を返す。
ケイアール家は有名だ。
野蛮で好戦的な、角ある民である闇族との国境に、領地を構える辺境伯として、長年この国を護り続けて来た一族である。
この学園の裏の目的とも言える、他家との縁を結ぶという意味で言えば、二人の実家はどちらも、本来ではローズとは縁のない二家であり、なかなか魅力的な組分けと言えるだろう。
しかも、エイルダーク侯爵家もケイアール辺境伯家もローズのグリーンガーデン公爵家と直接の利害関係はない。
学園側としては無難なセレクトというところか。
三人は挨拶を済ませると、とりあえずそれぞれの荷物を自分に振り分けられた一画に片付ける。
部屋は一応三人部屋だが、それぞれのベッドと机のある部屋は分かれていて、共有スペースとして、出入り口に続く広間がある、という造りとなっていた。
そのため、三人が常に顔を合わせていなければならないという、気まずい状態ではない。
「あの、ローズ様」
「ローズよ。何かしら? ミュスカ」
「制服、素敵ですね」
ミュスカは、ほうっとため息をこぼしながらローズの制服を見た。
オレンジの刺繍と白いレースの垂れ飾りは、本来シンプルな制服を豪華なものにしていたのだ。
そう言うミュスカのほうは、ビジューを華美にならないようにあしらってあり、可愛らしさを前面に出したデザインに手直しされている。
「ありがとう。ミュスカの制服もとても可愛いわ。高価な宝石を原石のまま飾りにすることで、変に浮かないように工夫してあるのね。センスの良さを感じるわ」
「あ、ありがとうございます」
二人の少女がお互いの制服の手直しを褒め合っていると、もう一人の少女アイネが呆れたように言った。
「そんなに飾ってしまうと、軽快に動けなくなってしまうわ。せっかくペチコートの裾が短くて、動きやすいのにもったいないのでなくって?」
「えっ? 動くって?」
ペチコートの裾が短いのは、ローズも気になっていたことである。
アイネに言わせれば、そこには意味があるようだ。
「ここでは剣術や魔法の授業もあるのよ。そのときには、この上に鎧とかの防具をつけて戦うと聞いたわ。変に飾りを付けているとその分不利よ」
言われてみれば、アイネの制服には一切手が加えられていない。
「た、戦う?」
アイネの話にミュスカが怯えたように言う。
「貴族は女でも戦う覚悟は必要でしょう? あなた方には実感がないかもしれないけれど、この国は見かけほど平和ではないわ」
光を弾く美しいストレートの金色の髪と、氷を思わせる淡い青い瞳。
美しい辺境伯の娘アイネは、さっそくローズに未知なる世界の匂いを感じさせたのだった。
一つの部屋を三人で使って、協調性も養うのだ。
一応身分の上下についてこだわらないという建前があるので、この同室のメンバーはランダムに決められるとされているが、さすがにあまりに身分に隔たりがあると、下位の者が上位の者の下僕扱いされかねないので、あまり開きのない範囲で決められるようだった。
そしてこの同室メンバーは、卒業までの三年間、変化することはない。
「よろしくお願いします。わたくしローズ・メイ・グリーンガーデンと申します。ローズとお呼びください」
「こちらこそよろしくお願いいたします。ローズ様。わたくしはミュスカ・デリア・エイルダークです。どうぞミュスカとお呼びください」
最初にローズの挨拶に応じたのは、栗色のふんわりとした髪を持つ、優しげな少女だった。
ローズの知識によると、エイルダーク家は侯爵家で、南のほうに領地があったはずである。
「どうかローズと呼び捨てにしてください。ミュスカ」
ローズはミュスカにそう頼んだ。
これから三年間を共に過ごすのである。
身分的な問題は、貴族としての人生には付きまとうものだが、少なくとも学園生である間は気にすることではない。
むしろ様づけなどされては、学園生活で浮いてしまうだろう。
「あ、ありがとうございます」
なぜかミュスカは戸惑っているようだった。
ひどくまごついている。
「私の番ね。私はアイネ・ジャイスクット・ケイアール。アイネと呼んで頂いてけっこうよ」
「よろしく、アイネ」
「よろしくね、アイネ」
ローズとミュスカが挨拶を返す。
ケイアール家は有名だ。
野蛮で好戦的な、角ある民である闇族との国境に、領地を構える辺境伯として、長年この国を護り続けて来た一族である。
この学園の裏の目的とも言える、他家との縁を結ぶという意味で言えば、二人の実家はどちらも、本来ではローズとは縁のない二家であり、なかなか魅力的な組分けと言えるだろう。
しかも、エイルダーク侯爵家もケイアール辺境伯家もローズのグリーンガーデン公爵家と直接の利害関係はない。
学園側としては無難なセレクトというところか。
三人は挨拶を済ませると、とりあえずそれぞれの荷物を自分に振り分けられた一画に片付ける。
部屋は一応三人部屋だが、それぞれのベッドと机のある部屋は分かれていて、共有スペースとして、出入り口に続く広間がある、という造りとなっていた。
そのため、三人が常に顔を合わせていなければならないという、気まずい状態ではない。
「あの、ローズ様」
「ローズよ。何かしら? ミュスカ」
「制服、素敵ですね」
ミュスカは、ほうっとため息をこぼしながらローズの制服を見た。
オレンジの刺繍と白いレースの垂れ飾りは、本来シンプルな制服を豪華なものにしていたのだ。
そう言うミュスカのほうは、ビジューを華美にならないようにあしらってあり、可愛らしさを前面に出したデザインに手直しされている。
「ありがとう。ミュスカの制服もとても可愛いわ。高価な宝石を原石のまま飾りにすることで、変に浮かないように工夫してあるのね。センスの良さを感じるわ」
「あ、ありがとうございます」
二人の少女がお互いの制服の手直しを褒め合っていると、もう一人の少女アイネが呆れたように言った。
「そんなに飾ってしまうと、軽快に動けなくなってしまうわ。せっかくペチコートの裾が短くて、動きやすいのにもったいないのでなくって?」
「えっ? 動くって?」
ペチコートの裾が短いのは、ローズも気になっていたことである。
アイネに言わせれば、そこには意味があるようだ。
「ここでは剣術や魔法の授業もあるのよ。そのときには、この上に鎧とかの防具をつけて戦うと聞いたわ。変に飾りを付けているとその分不利よ」
言われてみれば、アイネの制服には一切手が加えられていない。
「た、戦う?」
アイネの話にミュスカが怯えたように言う。
「貴族は女でも戦う覚悟は必要でしょう? あなた方には実感がないかもしれないけれど、この国は見かけほど平和ではないわ」
光を弾く美しいストレートの金色の髪と、氷を思わせる淡い青い瞳。
美しい辺境伯の娘アイネは、さっそくローズに未知なる世界の匂いを感じさせたのだった。
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