勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
300 / 885
第五章 破滅を招くもの

405 海王:帰郷

しおりを挟む
 渦潮の駅はなんというか無骨な造りだった。
 それなりに大きいのだが、帝国でも見た灰色の石材を作って作られた建物は飾り気の一つもない。
 ただ駅舎の前には大きな市が立っていた。
 
「風の匂いが全然違うな。なんというか、粘つくような感じがする」
「海の気配が強い。この風の精霊メイスはあまり言うこと聞かなさそう」

 独特の空気は竜の砂浴び場に似ているが、もう少しなんというか粘度が高い感じだ。
 そう言えばあそこも海の近くだったな。
 同時に以前海で見かけたでかい魔物のことを思い出して身震いした。
 ああいうのが出て来ると、水のなか相手ではほとんど何も出来ないだろう。
 そう言えば南の国である南海は海の魔物を操るとか言ってたな。

「ピャッ! ピュイ!」

 フォルテが元気に飛び立つと、市場のほうに突っ込んで行った。
 おい、勝手に暴れるなよ。
 他人に迷惑かけるな。
 繋がっているはずの思考で呼びかけるがちゃんとした返事がない。
 不安だ。

「とりあえず駅で待ち合わせだからこの辺を探すか。メルリルわかるか?」
「声が多すぎてさがせない」

 メルリルは困ったように言う。
 そうりゃあそうか、この人混みだもんな。
 駅前の広場全体が市場になっていて、いろいろなものを売っているのだ。
 買い物客と売り手の声が被って、もはや何がなんだかわからない感じになっていた。

「やっと帰って来た」

 そんな俺たちの困惑を他所に、ウルスは一人しみじみと故郷の空気を味わっているようだった。
 あれ、こいつ泣いてないか?
 俺は視線を反らして見ない振りをする。
 男が泣く姿なんか見たくないし、見られたくもないだろうからな。

「ピャッ!」

 そんな風に駅の入り口で立ち止まっていた俺の髪を、何処かから戻って来たフォルテが激しく引っ張った。

「いてっ! お前いつも俺の髪を気軽に引っ張るけどな! 髪については繊細な年頃なんだぞ、俺は!」

 抗議をしつつ追い払うが、今度は袖を引っ張って行こうとする。
 
「勇者さまたちを見つけたのかも?」

 メルリルが表情を明るくして言うが、俺は絶対違うと思う。
 こいつが勇者たちを見つけたからって喜ぶ訳がない。

「おい、まて、くそっ、メルリルはぐれるなよ? ウルス、お前いい加減懐かしいのはわかるが、置いてくぞ!」
「はい!」
「は? ふざけるな、俺の案内が必要だろうが!」

 フォルテにグイグイ引っ張られながら市場を進む。
 なんか見たことないものがたくさんあるな。
 ほとんどは魚のようだ。
 しかし色鮮やかな魚が多いぞ。
 真っ赤なやつとか、青いやつとか食えるのか? それ。
 魚も肉と同じように干して保存食にするのだろう。
 紐にたくさん繋いで干してあるものなどもあった。一つ試しに買ってみたいな。
 それに魚じゃないものも多い。
 鎧を着た巨大な虫のようなものや、巨大な貝、変な形の生き物も売っている。

 お、肉もあるじゃないか。
 店頭でいい匂いをさせている網焼きが気になるが、フォルテは止まる気配がなかった。

「キュイッ!」

 かつて聞いたこともないような甘えた声で鳴きながらようやくフォルテが止まったのが、今まで嗅いだことのない甘い香りがする一画だった。

「なんだ?」
「フルーツだな。南海産のものが多いし、南方諸島のものもあるな」
「南方諸島?」

 南に島があるという話は聞いたことがあったが、やっぱりあるのか。
 いや、今はそれどころじゃない。
 フォルテが出店の一つから大きなフルーツとやらを盗ろうとしていた。

「離せ! この泥棒鳥め! 一番高いフルーツを狙いやがって!」
「ちょ、フォルテやめろ! いい加減にしないと絞めるぞ!」
「ギャアギャア!」
「俺に買えってか? それは見るからに高そうじゃないか、そんなの買う金があるはずないだろ!」

 俺とフォルテと店主がもめていると、突然ウルスが素っ頓狂な声を上げた。

「ボイル! ボイル爺さんじゃないか?」

 呼びかけられた瞬間、店主の力が抜けたのか、フォルテが引っ張り合いをしていたフルーツを奪い去る。

「フォルテ、返せ。泥棒はうちのパーティにはいらないぞ」

 冷たい声で怒りを込めて言った。

「キュウウウウ……」

 フォルテはものすごく名残惜しそうに掴んだフルーツを元の場所に戻す。

「かわいそう」
「こういうことは甘やかしちゃだめだ」

 メルリルがフォルテに同情するが、人間社会で生きる以上、フォルテにはそのルールに従ってもらう必要がある。
 絶対に甘い顔は見せられないのだ。
 とは言え、被害者であるはずの店主は、今は俺たちのほうに感心を示してはいなかった。

「おっ、悪ガキのウルスじゃねーか。なんだお前、お前んとこの弟が青い顔して探し回っていたぞ。責任ある立場なんだからふらっと出ていったらかわいそうだろうが」
「いや、俺の意思で出てったんじゃねえよ。商会の様子はどうだった?」
「けっ、お前んとこのような大店のことが俺らにわかる訳ねーだろ。だがよ、北のヘビ野郎共がここんとこ我が物顔でうろつきやがって、てめえなんかヘマしたんじゃねえだろうな?」
「相変わらず厳しいな。安心しろ。連中に今回のツケは絶対に支払わせてやるからよ」
「お、成り上がりモンが何か言ってるぜ」
「気をつけろよ、ウルスの野郎は安く買い叩いたもんで大儲けしやがるからな!」
「うっせーよ、てめえら俺の後追いをしてけっこう儲けただろうが」
「ちげえねえ」

 フルーツを売っていた老人だけでなく、周囲の出店の店主たちもどうやらウルスと顔なじみのようだ。
 言葉を交わしていっせいにゲラゲラ笑い出した。

「おい、そこの変な格好のガキ」

 フルーツ売りの爺さんが俺のほうを向いてそんなことを言うので、俺は思わず周囲を見回してしまった。

「てめぇだよ。見たところウルスの坊主よりもひよっこだろうが」
「いや、もう三十一なんだが……」
「ケッ、俺の半分も行ってねえじゃねえか。鼻ったれだ」

 おおう、おっさんと言われたことはあるがこの年になってガキ扱いとは、師匠を思い出すな。

「さすがにこれはやれんが、こっちに傷モンで売り物にならんやつがある。これをそのペットにやんな。甘さで言えばこっちのほうが甘いからな」

 そう言って、爺さんは手のひらサイズのフルーツをかたわらから掴むと、手の上で器用にナイフで割ってくれた。

「いいのか? 金はないぞ」
「どうせこれは腹を空かせたどっかのガキにやろうと思ってたうちの一つさ。あんたらあの悪ガキを助けてくれたんだろ?」
「ええっと……」

 なんと答えていいのか悩んでいると、爺さんは割ったフルーツをフォルテにやり、あと二つ程を次々割って、俺とメルリルにくれた。

「まぁ食え。そして金が出来たら高いのを買え」
「あ、ああ。ありがとう」

 フォルテは許可を出す前に俺の手が届かない日よけの上に陣取ってもらったフルーツを食べ始めていた。
 あの野郎。
 だが、せっかく貰ったのだ。俺も切ってもらったフルーツをつまんで食べる。

「これは、甘いな……」
「すごい、美味しい」

 メルリルはうっとりとしたように口にしている。
 それも仕方ないだろう。
 爺さんに渡されたフルーツは、トロッととろけるような食感と、頭の先まで痺れるような甘さが、衝撃を持って口のなかに広がる代物だったのだ。

「あ、なんでお前らだけ食ってるんだよ。爺さん俺には?」
「金を出して一番高い奴を買え」
「ふざけんなよ!」

 ウルスの力みのない言動を見て、なるほど故郷というものはこういうものなんだなと思ったのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。