315 / 885
第五章 破滅を招くもの
420 水棲人と守護神
しおりを挟む
「……魔獣、と、言うと、もしかすると、海に棲む魔物のことでしょうか?」
なんとなく動悸が早くなるのを感じながら問い返す。
まさか、魔物に乗れとか言わないよな?
「ふむ。我らは魔物と魔獣とを明確に分類しています。魔物は知性がなく、人と馴染むことが出来ない魔力持ちの獣。魔獣は知性があり、人と交流出来る魔力持ちの獣というふうに」
「ほう」
驚いた。
水棲人はもしかすると魔物に関しては、最も進んだ考え方の人類なのかもしれない。
確かに魔物のなかには知恵あるものと、ほぼ本能のままに行動するものがいる。
そして知恵あるもののなかには人と友誼を結ぶものもいた。
従魔と呼ばれるのはそういう魔物だ。
基本的に従魔と呼ばれている魔物は、生まれた頃から人間に育てられたもので、国によっては専門の牧場を持っていたりするらしい。
しかし野生種が人間に従うことは滅多にない。
十年に一度見かける程度だろうか?
俺は一度だけ風狼の群れと暮らしている人間と会ったことがある。
風狼は狼型の魔物で、飛べはしないのだが、空中を飛ぶように駆けることが出来、群れを作る魔物だ。
敵に回すと恐ろしいが、賢い魔物なのであまり人間に関わらないように森の奥に棲んでいる。
そんな風狼の群れと共にいる人間を見つけたので助けようとしたら、じゃれているだけだと言われたのだ。
あの夫婦も変わり者だったな。
ああいや、今はそんな昔のことはどうでもいいか。
「そう言えば、南海国の大使がアンリカ・デベッセには魔物……魔獣の守護神がいるとおっしゃってました」
「ああ、アバハ様とあなた方をお守りするために付けた護衛をごらんになったのですか」
「実際に姿を見てはいませんが」
俺の答えにバイアはうんうんとうなずきながら説明した。
「この国には十二の守護神とその眷属がいて、我らと共に穏やかな時を過ごしています。彼らは賢いですが、道具を使うことが出来ませんので、イケスを作って常に飢えないように獲物を確保したり、病気になったときに治療をしたりということが出来ません。そういった部分を我らが力を貸し、純粋な戦闘力で彼らに力を貸してもらうという力関係なのです」
「それは素晴らしいですね。人間と魔物……じゃなかった、魔獣の理想郷です」
俺の称賛に、バイアは誇らしげにヒゲを撫でた。
しかしある意味最強の戦力を保持しているとも言えるこの国が、隣国とは友誼を結び、今まで他国との戦いを起こさなかったのは幸いだろう。
南海の大使も言っていたが、彼らにとって乾いた大地は何の魅力もない場所だから欲しいとも思わなかったというところか。
「ありがとうございます。そこで最初の提案に戻りますが、人を乗せて、周囲に気づかれずに目的地に行くというなら最適の守護神がいます」
「……ええっと、やっぱりその守護神に乗る、ことになるんですか?」
「相性もありますから確約は出来ませんが、皆様方ならおそらく大丈夫かと」
その魔物が気が変わって俺たちを食ったりしないと保証してもらえるのだろうか?
俺は心のなかでそう思ったが、まさか世話になっている国の守護神にケチをつける訳にもいかずに黙っていた。
「……なるほど」
「手配をしておきますので、一度会ってみてください。彼女が許してくれれば船よりも快適に行きたい場所に連れて行ってもらえますよ」
「……ほう」
「ということで、この国の守護神たる魔獣に会うことになったんだが、とりあえず俺一人でもフォルテにルートを探してもらうことは出来るので、お前たちは来なくていいぞ」
戦部に冬季の戦への懸念を伝えに行ったはずが、なぜか魔物とのお見合いをセッティングされてしまった俺は、仲間達にそう告げた。
「さすが師匠だ。海の魔物を飼いならすんだな」
「違う。この国の守護神だと言っただろうが、そんなことを言うと怒られるぞ!」
勇者の曲解を訂正していると、メルリル感動したようにぽつりと言った。
「ダスター凄い」
「いや、だから俺は凄くないからな。凄いのはこの国の人たちで。あ、それと冬場に戦をする理由を聞いて来た。相手の油断を誘うためだそうだ。あと、温かい流れに乗って行くとのことだったぞ」
「あ、そうだったんだ。安心です」
メルリルは俺の言葉にほっとしたようだ。
「あ、あの、その、魔獣? さんにお会いしたいです」
「ミュリアが行くなら私も行くよ」
意外と好奇心の強い聖女がワクワクしたように言った。
聖女が行くならもちろんモンクも着いて来る。
ただし聖女が来る理由が好奇心以外にないのが問題だった。
「魔獣、そして守護神ですか。我が国にも魔獣である肉食馬を乗りこなす騎士がいましたが、国として友誼を結ぶというのはなんとも不思議ですね。盟約の一種でしょうか?」
聖騎士がそんな考察をする。
「そうか。盟約か。それならお互いに安心して付き合えるな」
魔物と人間は在り方が違い過ぎる。
それぞれの考える友誼にも違いがあるはずだ。
それなのに長年共に在るということは、なんらかの揺るがない絆があるということだ。
確かに盟約なら魂に刻まれる。
お互いに安心出来る約束だろう。
「で、師匠、その魔物とはいつ戦うんだ?」
「戦わないからな」
やっぱり話の内容をきちんと理解していないっぽい勇者に釘を刺す。
勇者には魔物と聞けば戦うという意識があるのだろう。
まぁそういう使命を帯びている訳だし当然と言えば当然だ。
だが、下手に暴走されても困る。やっぱり顔合わせに勇者は連れて行かないようにしようと思ったのだった。
なんとなく動悸が早くなるのを感じながら問い返す。
まさか、魔物に乗れとか言わないよな?
「ふむ。我らは魔物と魔獣とを明確に分類しています。魔物は知性がなく、人と馴染むことが出来ない魔力持ちの獣。魔獣は知性があり、人と交流出来る魔力持ちの獣というふうに」
「ほう」
驚いた。
水棲人はもしかすると魔物に関しては、最も進んだ考え方の人類なのかもしれない。
確かに魔物のなかには知恵あるものと、ほぼ本能のままに行動するものがいる。
そして知恵あるもののなかには人と友誼を結ぶものもいた。
従魔と呼ばれるのはそういう魔物だ。
基本的に従魔と呼ばれている魔物は、生まれた頃から人間に育てられたもので、国によっては専門の牧場を持っていたりするらしい。
しかし野生種が人間に従うことは滅多にない。
十年に一度見かける程度だろうか?
俺は一度だけ風狼の群れと暮らしている人間と会ったことがある。
風狼は狼型の魔物で、飛べはしないのだが、空中を飛ぶように駆けることが出来、群れを作る魔物だ。
敵に回すと恐ろしいが、賢い魔物なのであまり人間に関わらないように森の奥に棲んでいる。
そんな風狼の群れと共にいる人間を見つけたので助けようとしたら、じゃれているだけだと言われたのだ。
あの夫婦も変わり者だったな。
ああいや、今はそんな昔のことはどうでもいいか。
「そう言えば、南海国の大使がアンリカ・デベッセには魔物……魔獣の守護神がいるとおっしゃってました」
「ああ、アバハ様とあなた方をお守りするために付けた護衛をごらんになったのですか」
「実際に姿を見てはいませんが」
俺の答えにバイアはうんうんとうなずきながら説明した。
「この国には十二の守護神とその眷属がいて、我らと共に穏やかな時を過ごしています。彼らは賢いですが、道具を使うことが出来ませんので、イケスを作って常に飢えないように獲物を確保したり、病気になったときに治療をしたりということが出来ません。そういった部分を我らが力を貸し、純粋な戦闘力で彼らに力を貸してもらうという力関係なのです」
「それは素晴らしいですね。人間と魔物……じゃなかった、魔獣の理想郷です」
俺の称賛に、バイアは誇らしげにヒゲを撫でた。
しかしある意味最強の戦力を保持しているとも言えるこの国が、隣国とは友誼を結び、今まで他国との戦いを起こさなかったのは幸いだろう。
南海の大使も言っていたが、彼らにとって乾いた大地は何の魅力もない場所だから欲しいとも思わなかったというところか。
「ありがとうございます。そこで最初の提案に戻りますが、人を乗せて、周囲に気づかれずに目的地に行くというなら最適の守護神がいます」
「……ええっと、やっぱりその守護神に乗る、ことになるんですか?」
「相性もありますから確約は出来ませんが、皆様方ならおそらく大丈夫かと」
その魔物が気が変わって俺たちを食ったりしないと保証してもらえるのだろうか?
俺は心のなかでそう思ったが、まさか世話になっている国の守護神にケチをつける訳にもいかずに黙っていた。
「……なるほど」
「手配をしておきますので、一度会ってみてください。彼女が許してくれれば船よりも快適に行きたい場所に連れて行ってもらえますよ」
「……ほう」
「ということで、この国の守護神たる魔獣に会うことになったんだが、とりあえず俺一人でもフォルテにルートを探してもらうことは出来るので、お前たちは来なくていいぞ」
戦部に冬季の戦への懸念を伝えに行ったはずが、なぜか魔物とのお見合いをセッティングされてしまった俺は、仲間達にそう告げた。
「さすが師匠だ。海の魔物を飼いならすんだな」
「違う。この国の守護神だと言っただろうが、そんなことを言うと怒られるぞ!」
勇者の曲解を訂正していると、メルリル感動したようにぽつりと言った。
「ダスター凄い」
「いや、だから俺は凄くないからな。凄いのはこの国の人たちで。あ、それと冬場に戦をする理由を聞いて来た。相手の油断を誘うためだそうだ。あと、温かい流れに乗って行くとのことだったぞ」
「あ、そうだったんだ。安心です」
メルリルは俺の言葉にほっとしたようだ。
「あ、あの、その、魔獣? さんにお会いしたいです」
「ミュリアが行くなら私も行くよ」
意外と好奇心の強い聖女がワクワクしたように言った。
聖女が行くならもちろんモンクも着いて来る。
ただし聖女が来る理由が好奇心以外にないのが問題だった。
「魔獣、そして守護神ですか。我が国にも魔獣である肉食馬を乗りこなす騎士がいましたが、国として友誼を結ぶというのはなんとも不思議ですね。盟約の一種でしょうか?」
聖騎士がそんな考察をする。
「そうか。盟約か。それならお互いに安心して付き合えるな」
魔物と人間は在り方が違い過ぎる。
それぞれの考える友誼にも違いがあるはずだ。
それなのに長年共に在るということは、なんらかの揺るがない絆があるということだ。
確かに盟約なら魂に刻まれる。
お互いに安心出来る約束だろう。
「で、師匠、その魔物とはいつ戦うんだ?」
「戦わないからな」
やっぱり話の内容をきちんと理解していないっぽい勇者に釘を刺す。
勇者には魔物と聞けば戦うという意識があるのだろう。
まぁそういう使命を帯びている訳だし当然と言えば当然だ。
だが、下手に暴走されても困る。やっぱり顔合わせに勇者は連れて行かないようにしようと思ったのだった。
21
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。