勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

485 ドラゴン連れでも特に何事もなく過ぎる一日もある

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 勇者一行であることを隠すと言っても、信心深いこの国では勇者パーティ全員の顔が知られている可能性がある。
 フードを深く被っても、いずれは発覚するはずだ。

「ミュリア、ええっと前使った姿変えの魔法を今装備しているマントに付与することは出来るか?」
「あ、はい。幻惑の衣ですね。可能です。今回は特定の姿に見せる必要はありませんから、見た姿を相手が気にしないようにすればいいですか?」
「そんな使い方も出来るのか。頼む」
「うふふ。以前メルリルさんに使った姿を変えてみせるほうが特殊な使い方で、本来はこっちのほうが通常の使い方なんです」
「なるほど対魔物と考えればそっちのほうが現実的か」
「はい」

 聖女の魔法は対人に使い勝手のいいものが多いが、本来は危険地帯で安全に行動することを主眼とした魔法であって、決して戦争のために開発されたものではないはずだ。
 魔物から見て気にならない存在になれるなら、調査がはかどるだろうな。

 とりあえず顔が知られているであろう勇者たちの装備に幻惑魔法を付与してもらい、相手が勇者たちを気にしないようにしておく。
 魔法をかける段階で、若葉が聖女の魔法を弾いてしまうという問題が生じたが、いやがる若葉を一時勇者から引き剥がすことで事なきを得た。
 準備としてはそれぐらいでいいだろう。

 農園の柵が途切れて家が立ち並んでいる区域に入る。
 昼間は働き盛りの男女は仕事をしているので、家々の間にいるのはほとんどが子どもと老人だ。
 カ・ミラス神国の村のほとんどがそうだが、基本的に集落の造り自体は単純である。
 村の周囲には放牧場や農地があり、村の入り口周辺には倉庫や家畜小屋が建ち並ぶ。
 少し入ったところに労働者の住宅があって、中心近くには農園主の屋敷と小さな教会があるのだ。
 そして道は少々曲がりくねってはいても、基本的に放射状に広がっている。
 一番大きな道をたどると、だいたい教会に辿り着く。

「勇者一行とさとられないなら教会に泊めてもらうのが一番楽かな」
「そうですね。途中で狩った砂漠ネズミを渡して宿を請いましょう」

 聖女がうなずいて助言をしてくれた。
 神国は牧場が多いが、家畜のほとんどは肉食用ではない。
 そのため、肉は貴重で喜ばれるだろうということだった。
 それに砂漠ネズミの皮は靴の素材として人気だ。
 
 村に入ると、家の外でのんびりと手作業やゲームを楽しんでいる老人たちが気さくに挨拶をしてくれた。
 
「やあ、旅人さんたち。何か面白い話はないかね?」
「特には。あまり話題を提供出来ずに申し訳ない」
「いやいやええんじゃよ。神の祝福のあらんことを」
「神のしもべに幸いあれ」

 道をさらに進むと、いくつかの大きな建物が見えた。
 特に大きめの建物は尖塔に水晶環がついているので教会で間違いないだろう。
 さすが村であってもこの国の教会は大きいな。

「この教会はレンガ造りなのね」

 大教会の話を聞いて木造の建物を期待していたのか、メルリルが少しがっかりしたように言った。

「あはは、山から遠いほど木造の建物は減るんだ。大きな木材を運ぶのは大変だからな」
「そうなんだ」

 この農園は北方農園という名前だったはずだから、カ・ミラス神国でも一番北にある農園ということだろう。
 以前この国に訪れたときは勇者がかなり適当に進んだのでここには立ち寄らなかったようだ。
 そもそもどこから入国したのかよくわからなかったからな、あのときは。
 確か岩山があって、そこを越えたところにいきなり教会があったんだよな。
 そして教会に行ったら感激した教手が泣きながら人々に触れ回ったんだったか。

 どうも前回のときは全てが混沌としていて、あまり秩序立って覚えていないが、確かそういう感じの流れだったはずだ。

 教会からカーンカーンと鐘の音が響き、教会の隣にある大きな建物から子どもたちが飛び出して来る。
 集会場だろうか?
 教会は神の教えのほかに子どもたちに読み書きなどの教育もほどこしてくれる。
 親が仕事をしている時間に預かってもらえるので親もありがたいし、神の教えを広めたい教会も満足するという関係なのだ。

「あ、旅人さんだ!」
「本当だ!」
「ちょっと早いね」
「気が早い旅人さんだ!」

 たちまち子どもたちに囲まれてしまった。

「俺たちを囲んでも何も出ないぞ。早く家に帰れ!」

 勇者がシッシッと追い払うような仕草をするが、子どもたちはなかなか離れない。

「うちに来る?」
「お話聞かせて~」
「あ、きれいな人がいる!」
「きゃあ!」

 子どもたちは遠慮がない、メルリルが女の子に抱きつかれてしまった。

「おっきな鳥さん!」
「おー」
「今度はフォルテか。好奇心いっぱいだな」

 次から次へと気になることがあるようで、まとわりついて来る子どもたちに苦慮していると、子どもたちを見送っていたらしい大人がこっちに近づいて来た。

「こら、あなた達。旅人さんに出会ったらご挨拶をして大人に知らせに行くというお約束をもう忘れたのですか?」
「先生だ! 怒られる!」
「にげろー」
「バイバイ!」
「せんせいまた明日!」

 子どもたちは口々に姿を現した相手と俺たちにお別れの挨拶をしながら走り去って行った。
 すさまじい元気さだったな。

「こんにちは、子どもたちが申し訳ありません。旅の方々ですか?」
「あ、はい。出来れば一夜の宿をお願いしたいのですが」
「もちろん大丈夫ですよ。あ、ご挨拶が遅れました。この教会で人を教え導く役割をいただいています教手のナイルと申します」
「ご丁寧にどうも。俺はミホムの冒険者でダスターと言います。ここにいるのはみんなパーティの仲間です」
「そうですか。勇者さまのお国の冒険者の方なのですね。神の祝福が汝らに降り注ぎますように」
「ありがとうございます。盟約の民に幸いあれ」
「それで、宿とのことですが、寄進と奉仕どちらにいたしますか?」
「寄進でお願いします。こちらの砂漠ネズミでよろしいでしょうか?」
「おお、太ったものが三匹も。これは村の者たちも喜びます。冬の間は節制に努めて食事も貧しいものでしたから。感謝を」

 俺たちは集会場のベンチを並べて寝台として使わせてもらうことになった。
 ありがたいことにお湯の提供も受けられた。
 砂まみれになった体を拭いてさっぱりした気分になる。

「調理場は集会場の裏手にありますのでご自由にお使いを。すぐ近くに川から引いた水路があるので、水はそこからご利用ください」
「いろいろありがとうございます」
「いえ、お疲れでしょう。ごゆっくり」

 一匹手元に残してあった砂漠ネズミを捌き、分けてもらったカブと一緒に煮込んで晩飯にすることにした。

「なるほど、普通はこうやって教会は利用するのか」
「勇者さまは初めてなんですね。わたくしはもてなすほうは経験があります。地方の教会に修行に行ったときに」
「ガフ?」
「お前は動くな。村の人間が怖がるだろうが」

 勇者と聖女と若葉がなにやら話をしているようだ。
 ときどき覗きに来る村人からおすそ分けをもらって、酒とおかずの品数を増やし、その夜は満足行く食事と睡眠を堪能したのだった。
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