勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

501 宴は続く

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 山岳馬リャマのリンたち三姉弟は、のんびり湖周辺に生えている草を食んでいた。

「お前達を見ていると落ち着くよ」

 一見ふわふわに見える毛並みを撫でてやる。
 実際にはごわごわしているが、それはそれで嫌いではない。

 リンは撫でられているのを感じたらしくこっちを少しだけ見たが、そのまま草を食べ続けた。

「そういうマイペースなところがお前達のいいところだな」
「ダスター、あの人たちが相談したいことがあるって」

 俺がリンたちと戯れていると、メルリルがやって来て、なにやら微笑みながらそう言った。
 さてはずっと見ていたな?

「わかった」

 俺はちょっとバツの悪い思いをしながらも村人たちが集まっているところへと向かう。
 どうやら相談というのは分配の話らしい。
 最初は勇者に取り分のことで相談を持ちかけたのだが、「いらん」とだけ答えられて、大変困惑してしまったとのことだ。
 まぁそりゃあそうだろうな。

「勇者は民を助けることで報酬を得ることは禁じられているんだ」
「なんと!」

 山岳の民の男は心から驚愕したように言った。
 彼らにしてみれば働きに対する正当な対価を得るのは当然であり、それを禁じるというのは理不尽にしか思えないのだろう。
 
「勇者が民を助けることへの報酬は大聖堂が支払っているんだ。つまり勇者たちはもう対価を受け取っているということになる」
「それはおかしいです。魔物を倒したらその者は報われなければならない。そうでなければどうして命を懸けられるでしょう?」

 うーん、これは説明するのが難しい概念だ。

「勇者は苦しむ人々を助けることを条件に強大な魔法を神から授かっている。大きな力を持つ者が欲に呑まれれば世が乱れる。そのため勇者は自らの欲望を育てない」
「つまり神から借りた力を使うから、その力で得たものは自分のものではなく神のものだということですか」
「まぁそういうことだな」

 四苦八苦しながら勇者の在り方を説明していると、山岳の民の男はやっと少し納得したようだった。

「少し隠者に似ているような気がします」
「隠者?」
「私達の種族の魔法使いのような存在です。ただ、あなた方平野の民のように戦いに使うのではなく、世界の声を聞くために魔法を使います。彼らは修行中は飲食を禁じるのです」
「ほう?」

 なるほど。山岳の民にも魔法使いがいるということか。
 世界の声を聞くというのは少し変わった魔法の使い方だな。

「勇者さまの事情はわかりました。しかし、それでは我らは戦わず獲物を得ることになる。そのようなズルをすると山の神はお喜びになりません」

 彼らには彼らの矜持があるということだな。

「宴を開いてくれるんだろう? それで十分じゃないかな。勇者を称え、神に感謝する。与えられた恵みに素直に感謝するのもこの大地に生きる者の正しき姿だろう」
「わかりました。それでは宴を盛大に行いましょう。我らの感謝をお受け取りください」

 山岳の民の男はうやうやしく両手を合わせて自らの額に押し付けると、解体した獲物を背負子や家畜に積んで運び出す作業の指揮へと戻る。
 そしておもむろに角笛を取り出すと、なにやら抑揚をつけて吹き鳴らした。

「ダスターさん。族長と話したのか?」

 村の者と話していたモル少年がこっちへと駆けて来る。

「ああ。あの角笛は?」
「部族集会の合図だ」
「部族集会?」
「山のなかの村々から来れる者は来いという合図だな」
「……なんだって?」
「大きな宴をするみたいだぞ」
「いや、聞いてないぞ」

 このはぐれの飛竜ワイバーンの大きさを考えれば、その肉を使った料理でかなりの大人数を満足させることが出来るだろうということはわかるが、遠い村から集まって来る人々を迎えつつ宴を行うというのはなんとなく嫌な予感がする。

 やがて宴が始まったときに、その嫌な予感が事実であったことに気づいたのだが、まぁ後の祭りという奴だった。
 そう、宴は三日三晩続いたのだ。
 それでも呼びかけた全員は集まりきらなかったらしい。
 場所も、身分け山のなかにある広々とした草原で、そのために簡易な造りではあるが、小屋まで建てられた。
 その小屋に誰が据えられたのかは言うまでもないだろう。

「師匠、もう面倒だから出立しよう」

 次々と挨拶に訪れ、貢物を持って来る山岳の民に辟易した勇者が音を上げた。
 偉いな、よく三日も我慢したよ。
 俺なんか一日目で酒に弱いふりをしてバックレたからな。

 なによりも大変だったのが、どうやら女っ気がないフリーと断じられたらしい勇者に、次々と若い女性が押し付けられたことだろう。
 夜に床にはべりに来たのを叩き出して以来、そういうのはなくなったらしいが、宴の間に世話を焼く女性たちに乱暴を働く訳にもいかず、すっかり閉口したらしい。

「そうか。わかった。モル、俺たちは出立するぞ」
「え? でも」
「俺たちのための歓迎だろ? 俺たちの都合が優先されるんじゃないか?」

 俺がそう言うと、モル少年は少し考えてうなずいた。

「確かにそうだな。よし、族長たちに言って来てやる」
「ありがとう。頼むぞ」

 うん、どうやらモル少年も宴に飽きたらしい。
 実に頼もしいことだ。

「……師匠、やけに行動が速い」
「お前のための宴だぞ。お前が嫌だと言うまでやめられる訳がないだろ」
「えええっ! それならなんで最初に言ってくれなかったんだ?」
「何事も経験だ。モテモテだったじゃないか」
「くっ! あいつらあからさまに子種が欲しいとか言うんだぞ。耐えられるか!」
「優秀な血が欲しいのはみんないっしょだからな。お前がもっと遊ぶタイプならむしろ相手にしてやったほうがどっちも幸せになったんだろうが」
「俺は嫌だからな!」

 勇者はどうも潔癖症のきらいがあるよな。
 まぁこういう経験もいいだろう。
 貴族のパーティとはまた違った振る舞いの仕方があるからな。
 決してどう対応していいか困惑していた勇者を肴に、美味い料理と酒を味わって、その造り方を教わっていたので忙しかった訳ではないぞ。
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