勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

565 岩を砕く

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「俺たちは巨人ジャイアントか」
「師匠、あれは伝説通りの魔物なのか?」
「俺もさすがに巨人ジャイアントと戦った経験はないが、何度か見かけたことはある。あれは生物じゃない。岩だ。命を持った岩と考えろ。だから痛みを感じることも恐怖を感じることもない。外側を砕いて、内部循環魔力の核となっているものを露出させて破壊するのが有効だと思う」
「わかった。その手で行こう。俺が外側を砕くから師匠が核を断ち切ってくれ」
「了解!」

 聖女の光の壁は俺たちには効果がないようで、簡単にするりと通り抜けることが出来た。
 この辺は普段の聖女の結界と同じ性質のようだ。

 森の際近くに来ていた巨人ジャイアントの足元に、モンクと聖騎士が走り込み、注意をひきつける。
 巨人ジャイアントは小さな山が動いているようなものだ。
 よくもまぁあの足元に行こうと思えるな。

 俺は無言で愛剣たる「星降り」を抜き、その黒銀の光を周囲に散らしながら巨人ジャイアントの核を探る。
 やはり完全な状態の巨人ジャイアントだと内部の魔力がまるで見えない。
 でたらめに断ち切ることは出来るが、核以外の部分はすぐにまたくっついてしまうという話だ。
 そんなことをしている間にあの質量でどれほどの被害が出るかわからない。

 俺の剣技では一回に一か所しか斬れないので決定打になりにくいのだ。
 その点、高威力の勇者の魔法と剣技なら短時間で外殻を剥がせる可能性があった。

 勇者が剣を抜いて走り出す。
 鍛錬でさんざん鍛えた勇者は、持ち前の濃厚な魔力を自然に全身に行き渡らせて普通の人間では考えもつかない速度でダッシュした。

 巨人ジャイアントの足元で牽制している聖騎士とモンクを一瞬で抜き去り、すれ違いざまに「離れろ!」と声をかける。
 その声に応じてさっと引く二人。

「出し惜しみは無しだ! 天は贖うその罪を、神鳴り響け、神罰として!」

 バリバリと目を焼く輝きが天から巨人ジャイアントに叩きつけられる。
 同時に雷の一部が勇者の剣に宿り、剣がまばゆい光を放った。

「砕けろっ!」

 ズガガガガァアアン! と、頭蓋まで突き抜けるような音が響く。
 思わず目と耳を覆って地面に伏せてしまった。
 同時に巨人ジャイアントの射程から逃れるために出来るだけ後退する。

「相変わらず派手な技だな」

 うわ、自分の声すら聞こえないぞ。
 耳と目に流す魔力を増やして回復を早める。

「師匠……」
「あー、岩だしな」

 技が派手だったのでてっきりやったかと思ったが、残念ながら巨人ジャイアントはあまり削れていなかった。
 わずかに頭部と片足が吹っ飛んだぐらいか。
 その破損部分をくっつけようとしているようだがなぜだが剥がれた破片がうまく引き寄せられないようだ。
 勇者の魔法も全く無駄という訳ではなかったか。

「へたに属性がないほうが効果があるかもな。単純に力押しの魔法はないか?」
「……一つ、心当たりがある」
「やってみろ、思いついたものはなんでもやってみるもんだ」
「わかった。嫌な奴の残した魔法だが……」

 なるほど嫌いな相手が創った魔法なのか。
 勇者は大きく息を吸い込み、集中した。慣れない魔法なのだろう。
 巨人ジャイアントはまだ欠損の再生を優先しているようだ。
 そして、勇者がおもむろに剣を振り上げる。

「滅びの時よ! 我が敵の元へ!」

 勇者の両手に魔法紋が浮かんで強い光を放ち始めた。
 出が遅い。
 というか聞き覚えがある。
 ……んー? あっ! そうか、あの、導師が最期に使った魔法か!

 勇者の両手に集った光はパッと四方に広がり、渦を巻くように巨人ジャイアントに向かう。
 寸前でその恐ろしい魔法に気づいた巨人ジャイアントは、地面に手を差し込み、小さな小屋ほどの岩のかたまりをまるで盾のように掲げた。

 ガッ、ガガガガガッ、ガッ! という岩が砕ける音と、金属が焼けるような臭い。
 魔法に当たって砕けた岩がバラバラになったかと思ったらその端から消えて行く。
 おいおい、物騒な魔法だな。
 あの野郎あんな魔法を聖者さまに放ったのか? 防げてよかったな。

 サアアアアアッと、盾代わりの岩 巨人ジャイアントの腕、そして胴体が砕けて消えて行く。
 魔法光が収まると、上半身の半分以上を失った巨人ジャイアントの姿があった。
 その胴体の半ばに強い魔力反応が見える。
 
「核が見えた! いけっ! 断絶の剣!」

 俺は立ち上がりつつ下から斬り上げるような形で剣を振るう。
 黒銀の光を撒き散らしながら「星降り」の剣が空間ごと巨人ジャイアントの核を斬った。

「オ、オオオオ……オオオオッ……オオオ……」

 巨人ジャイアントの体がサラサラと崩れる。
 その途端、ざらざらとした砂のかたまりが頭上から降り注ぐので、俺たちは咳き込みながらその場を離れ、メルリルの結界に逃げ込んだ。

 メルリルは万が一の場合に備えて風の結界で安全地帯を作ってくれていたのである。

「ダスター、大丈夫?」
「ゲホッ、ひどい目に遭った」
「ゴホッ、さすが師匠」

 心配するメルリルに笑いかけたが、顔もざらざらするのでどんな見た目になっているやら。
 隣で同じように咳き込んでいる勇者を見ると、全身が小麦粉でも被ったかのように白茶けていた。

「ひどいありさまだな」
「師匠も……はぁ、俺、巨人ジャイアントとはもう戦いたくない」

 泣き言を言う勇者だが、俺もそのことに関しては完全に同意だ。
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