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第七章 幻の都
719 世の中には放置しておくとダメな人間もいる
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「教会のシンボルが砕けるなんて……」
「何か不吉な……」
「そう言えば勇者さまが……」
街の人々の噂が聞こえて来て、のんびり食事どころではなくなった。
教会の教主が、封印を解けないという話を聞いたときからきな臭い感じはしていたんだが、どうやらその予感が当たったようだ。
「おどろいた」
メルリルが、案外ケロッとした様子でそう言った。
「恐ろしくないか?」
「勇者さまの魔法を見慣れたからかな? ちょっとびっくりしたぐらい」
「なるほど。慣れというのは怖いな」
俺はため息を吐くと、食事を諦め、必要な買い物を手早く終わらせて、急ぎ領主館に戻ったのだった。
城の正門の脇にある通用門をくぐると、城のなかがざわざわしていた。
まぁ当然だろうな。
貴族や富裕層向けの教会は、貴族街のなかにある。
つまり、城からわりと近いのだ。
下流に近い商店を回っていた俺達よりも、ここのほうが近くで衝撃の体験が出来たはずだ。
「おい、勇者さまが、教会の堕落した教主に天罰を下したという話だぞ!」
そして、街中よりも、城のほうが噂は具体的だった。
というか、この噂は真実に近いのではないだろうか?
そうか、教主さまは教会にいらしたんだ。それでトラブルが起こったんだな。
ふーん。
「ざまぁみろだ。俺はもともと、あそこの連中が気に食わなかったんだ。先日、不埒ものを追い払ってケガをした騎士殿の治療に大金を要求したと聞いたぞ」
「ええ、このようなことを口にしては神の御威光に傷がつくと思って黙っていましたが、お城の下女のなかには、教会の奉仕者に誘われて、口に出来ないような真似をされた者も……」
あちこちで、城内の従者やら、使用人やらが教会への不平不満を口にしていた。
あれだな、勇者という絶対的な正義が罰を下したから、今までたまりたまっていたうっぷんが噴き出したんだな。
しかし、これはマズいぞ。下手に教会と貴族との間に溝が出来ると、魔法を使うための祝福を教会が握っている現状は危うい。
こじれてしまうと、国全体を巻き込んだ騒ぎになりかねないぞ。
「キュッ!」
フォルテが近くの屋根のきざはしに止まって、勇者達が馬車で領主館に戻ったと教えてくれた。
俺も早く帰ろう。
もし勇者のお付きとバレたら質問攻めに遭いそうだ。
領主館に戻ると、ホルスが青い顔をして、駆け付けて来た。
「ダスター殿! ありがたい。あなたがいらっしゃらないと、僕もどうしていいやら」
「すまん、勇者がやらかしたようで」
話を聞くと、ホルスの立場では勇者に直接何があったかを問い質すのは失礼にあたるので、出来ないし、教会側に問い合わせをしても、だんまりを決め込んで話にならないのだそうだ。
俺達の担当になったばかりに、心労をかけてしまって申し訳ない。
さて、当の勇者の部屋に戻ると、カーンとメイサーが訪れていて、なぜか宴会に突入していた。
「よくやった! さすが勇者よ! 若造と思って舐めていたことを謝る!」
「まぁ確かに若造だ。師匠の仲間に侮られるのは仕方ない」
お前ら、なんか打ち解けてるな。
「領主さま!」
「げっ! ホルス!」
「おこもりが終わったのなら、やるべきお仕事が山ほどありますよ?」
「ま、待て、これは勇者殿への事情聴取であってだな。決して遊んでいる訳では……」
ホルスに問い詰められて、カーンが慌てている。
十は歳が下の部下に詰め寄られてタジタジになっているカーンというのも面白いな。
「メイサーさま」
ホルスは、向きを変えて、メイサーに向かって片膝を立てた姿勢で、正式な礼を取った。
「ん?」
「我が主を、しばしの間お借りしてもよろしいでしょうか? 長年のお怒りがまだ収まられぬようでしたら、僕も一緒に謝りますので」
「あー、あたしだって、そうわがままじゃないよ。いいさ、あんたには世話になっているからね。ちょっと貸してやる。だけど、いいかい、情を通わせる男と女の問題に首を突っ込むと碌な目には遭わないよ? その辺あんただってわかってると思うけど」
「は、肝に命じます奥方さま」
「よして、柄じゃないよ」
「いえ、存外お似合いですよ。この街は魑魅魍魎の渦巻く場所。魔獣公の奥方もまた、常人では務まりますまい」
「ふふっ、おだてても何も出ないからね。まぁいいや、持って行きな」
「ありがとうございます」
ホルスはメイサーに深く頭を下げた。
「おい、俺の意思は?」
「さぁさぁ急いで」
カーンはホルスに呼び寄せられた騎士に両脇を固められ、大人しく付いて行くようだ。
「おい、事情を聞きたかったんじゃ?」
「こちらの様子を窺う限り、領主さまは既に何があったかご存じであるようですので」
「なるほどね」
俺はホルスとカーンに手を振って送り出してやった。
恋人とさんざんいちゃいちゃしていた報いだ。
溜まった仕事ぐらいやっとけ。
「さて、何があったか説明してもらえるかな?」
扉を閉めて、振り返りながら言う。
なんだか聖女さまが、しょんぼりと落ち込んでいて、モンクがそれを慰めているし、聖騎士は部屋の隅に姿勢を正して立っていて、俺が部屋に入るのを見るなり頭を下げていた。
うん、そうか、勇者の暴走を止められなかったんだな。
「ダスター、あたしは勇者ってのは鼻持ちならない正義バカかと思ってたんだが、なかなかやるなぁ」
そしてメイサーがこんなに褒めるということは、勇者はかなり非常識なことをやったらしい。
まぁその点に関しては、あの逆さ雷を見た時点でわかっていたけどな。
「何か不吉な……」
「そう言えば勇者さまが……」
街の人々の噂が聞こえて来て、のんびり食事どころではなくなった。
教会の教主が、封印を解けないという話を聞いたときからきな臭い感じはしていたんだが、どうやらその予感が当たったようだ。
「おどろいた」
メルリルが、案外ケロッとした様子でそう言った。
「恐ろしくないか?」
「勇者さまの魔法を見慣れたからかな? ちょっとびっくりしたぐらい」
「なるほど。慣れというのは怖いな」
俺はため息を吐くと、食事を諦め、必要な買い物を手早く終わらせて、急ぎ領主館に戻ったのだった。
城の正門の脇にある通用門をくぐると、城のなかがざわざわしていた。
まぁ当然だろうな。
貴族や富裕層向けの教会は、貴族街のなかにある。
つまり、城からわりと近いのだ。
下流に近い商店を回っていた俺達よりも、ここのほうが近くで衝撃の体験が出来たはずだ。
「おい、勇者さまが、教会の堕落した教主に天罰を下したという話だぞ!」
そして、街中よりも、城のほうが噂は具体的だった。
というか、この噂は真実に近いのではないだろうか?
そうか、教主さまは教会にいらしたんだ。それでトラブルが起こったんだな。
ふーん。
「ざまぁみろだ。俺はもともと、あそこの連中が気に食わなかったんだ。先日、不埒ものを追い払ってケガをした騎士殿の治療に大金を要求したと聞いたぞ」
「ええ、このようなことを口にしては神の御威光に傷がつくと思って黙っていましたが、お城の下女のなかには、教会の奉仕者に誘われて、口に出来ないような真似をされた者も……」
あちこちで、城内の従者やら、使用人やらが教会への不平不満を口にしていた。
あれだな、勇者という絶対的な正義が罰を下したから、今までたまりたまっていたうっぷんが噴き出したんだな。
しかし、これはマズいぞ。下手に教会と貴族との間に溝が出来ると、魔法を使うための祝福を教会が握っている現状は危うい。
こじれてしまうと、国全体を巻き込んだ騒ぎになりかねないぞ。
「キュッ!」
フォルテが近くの屋根のきざはしに止まって、勇者達が馬車で領主館に戻ったと教えてくれた。
俺も早く帰ろう。
もし勇者のお付きとバレたら質問攻めに遭いそうだ。
領主館に戻ると、ホルスが青い顔をして、駆け付けて来た。
「ダスター殿! ありがたい。あなたがいらっしゃらないと、僕もどうしていいやら」
「すまん、勇者がやらかしたようで」
話を聞くと、ホルスの立場では勇者に直接何があったかを問い質すのは失礼にあたるので、出来ないし、教会側に問い合わせをしても、だんまりを決め込んで話にならないのだそうだ。
俺達の担当になったばかりに、心労をかけてしまって申し訳ない。
さて、当の勇者の部屋に戻ると、カーンとメイサーが訪れていて、なぜか宴会に突入していた。
「よくやった! さすが勇者よ! 若造と思って舐めていたことを謝る!」
「まぁ確かに若造だ。師匠の仲間に侮られるのは仕方ない」
お前ら、なんか打ち解けてるな。
「領主さま!」
「げっ! ホルス!」
「おこもりが終わったのなら、やるべきお仕事が山ほどありますよ?」
「ま、待て、これは勇者殿への事情聴取であってだな。決して遊んでいる訳では……」
ホルスに問い詰められて、カーンが慌てている。
十は歳が下の部下に詰め寄られてタジタジになっているカーンというのも面白いな。
「メイサーさま」
ホルスは、向きを変えて、メイサーに向かって片膝を立てた姿勢で、正式な礼を取った。
「ん?」
「我が主を、しばしの間お借りしてもよろしいでしょうか? 長年のお怒りがまだ収まられぬようでしたら、僕も一緒に謝りますので」
「あー、あたしだって、そうわがままじゃないよ。いいさ、あんたには世話になっているからね。ちょっと貸してやる。だけど、いいかい、情を通わせる男と女の問題に首を突っ込むと碌な目には遭わないよ? その辺あんただってわかってると思うけど」
「は、肝に命じます奥方さま」
「よして、柄じゃないよ」
「いえ、存外お似合いですよ。この街は魑魅魍魎の渦巻く場所。魔獣公の奥方もまた、常人では務まりますまい」
「ふふっ、おだてても何も出ないからね。まぁいいや、持って行きな」
「ありがとうございます」
ホルスはメイサーに深く頭を下げた。
「おい、俺の意思は?」
「さぁさぁ急いで」
カーンはホルスに呼び寄せられた騎士に両脇を固められ、大人しく付いて行くようだ。
「おい、事情を聞きたかったんじゃ?」
「こちらの様子を窺う限り、領主さまは既に何があったかご存じであるようですので」
「なるほどね」
俺はホルスとカーンに手を振って送り出してやった。
恋人とさんざんいちゃいちゃしていた報いだ。
溜まった仕事ぐらいやっとけ。
「さて、何があったか説明してもらえるかな?」
扉を閉めて、振り返りながら言う。
なんだか聖女さまが、しょんぼりと落ち込んでいて、モンクがそれを慰めているし、聖騎士は部屋の隅に姿勢を正して立っていて、俺が部屋に入るのを見るなり頭を下げていた。
うん、そうか、勇者の暴走を止められなかったんだな。
「ダスター、あたしは勇者ってのは鼻持ちならない正義バカかと思ってたんだが、なかなかやるなぁ」
そしてメイサーがこんなに褒めるということは、勇者はかなり非常識なことをやったらしい。
まぁその点に関しては、あの逆さ雷を見た時点でわかっていたけどな。
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