勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

747 泣く子には勝てない

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「あっ!」

 突然、聖女が素っ頓狂な声を上げた。

「ど、どうした?」

 ぎょっとして、声をかける。
 ロボリスなどは、驚きのあまり、テーブルを蹴とばして足を痛めたようだった。

「いててててっ! な、なんだ、いったい?」

 勇者と聖騎士とモンクは、すでに戦闘態勢となっている。
 いや、ここ聖女の結界のなかだからな。
 よっぽどのことがないと、害意を持った人間は入れないぞ。

「大変です! お家の前で、お嬢さんが泣いていらっしゃいます!」

 だが、聖女が口にしたのは、意外な言葉だった。
 お嬢さん? お嬢さんって誰だ?

「デルタか!」

 一番ビビったのもロボリスなら、一番最初に聖女の言葉を理解したのもロボリスだった。
 慌てて玄関の扉に突進して激突すると、痛みに悶え、顔を押さえながら、扉を開く。

「ミュリア、もう結界は解除していいぞ」

 俺がそう言うと、すぐに聖女は結界を解除したようだった。
 その途端、開け放った扉の向こうから、少女の大きな泣き声が響く。
 向かいの家の人が、何事か? と顔を出しているのが見えた。

「あっちゃー」

 思わず声が漏れた。
 聖女がものすごく申し訳なさそうな顔をしていたが、これは仕方ないだろう。
 特に危険のない場所だ。
 こっちの話に集中してしまっても、責めることは出来ない。
 そもそも、外を警戒するようにとは言ってないしな。

「ふえっ、お家に入ろうとしたのに、入れなくって、庭のほうから勝手口に回ろうとしても、庭にも行けないし……」

 店の手伝いをしているとは言え、まだ幼いと言ってもいいデルタには、ショックが大きすぎたようだ。

「大丈夫だ。父ちゃんと一緒に家に入ろうな?」
「お家、入れる?」

 デルタは、こわごわと扉に触れ、そして、玄関をくぐる。
 ロボリスは、お向かいさんに、愛想笑いをしてみせた。
 お向かいさんも、それで安心したのか、家に引っ込んだ。

「悪かったな」

 俺は、すぐさま、帰宅したデルタに謝る。

「どういうこと?」

 ようやく安心したのか、涙を拭いたデルタが不思議そうに俺を見た。

「大事なお仕事の相談をしてたんで、魔法で結界を張っていたんだ」
「魔法!」

 結界の説明をすると、デルタは今までの泣き顔が嘘のように顔を輝かせる。

「魔法使いの人がいるの! どこ?」
「わたくしよ、デルタさん」

 にっこりと聖女が笑って声をかける。

「驚かしてしまって、ごめんなさいね」
「ほわーっ!」

 デルタは、聖女を見ると、変な声を発して、真っ赤になった。
 そして父親の後ろに隠れる。

「き、きれいな人、教会の聖女さまみたい」

 偶然とは言え、ぴったりと真実を言い当てて、ちらちらと聖女を見た。
 そして、ふと視線を移動して、手前のしかめっ面の勇者に気づく。

「ほわーっ!」

 本日二度目のほわーだ。

 まぁ勇者は顔だけはいいからな。
 あ、ロボリスが苦虫をかみつぶしたような顔になって、デルタを勇者から遠ざけたぞ。

 最初店に訪れたときには、俺以外は認識阻害のフード付きローブを外套として羽織っていたので、わからなかったのだろう。

「き、貴族さま? ……あっ、しつれいしました」

 何かに気づいたように、デルタはロボリスの背から走り出ると、床に膝を突いて頭を下げた。
 なかなか賢い子だな。
 貴族相手に失礼なことをしたら、大変だということを知っているのだろう。

 俺は素早く勇者に目配せをする。
 勇者は最初首を傾げていたが、手信号で、安心させるように伝えると、理解したようにうなずいた。

「お嬢さん、立ってくれ」
「お、お嬢さん?」

 呼ばれ慣れていない呼ばれ方だったのか、デルタはびっくりして思わず顔を上げてしまう。
 そして、勇者ががんばって作った笑顔を直視した。

「お父さんには、大切な仕事を請けてもらった。頭を下げるべきはこちらだ。そんな風に膝を突く必要はない。お父さんの仕事を誇るがいい」
「ほわー……」

 三回目のほわー、いただきました。
 あ、ロボリスの顔が凄いことになってる。
 娘の父親として勇者を警戒すべきか、褒められたことを喜ぶべきか、葛藤しているようだ。
 とりあえず、娘をさらに後ろへと下がらせると、勇者に向かって頭を下げた。

「ご信頼、ありがたい」

 お、なんか言葉が硬くなった。
 娘の前で恰好をつけているんだろうか?

「必ず、ご信頼にお応えします」
「よろしく頼む」

 勇者は鷹揚に応じると、認識阻害のローブを着なおした。
 それを合図にするように、俺を除く全員がローブを羽織り、仲良し父娘に見送られながら、ロボリスの小さくて平和な家を後にしたのだった。

 帰りの道は、認識阻害のおかげで、人の視線はほとんど感じない。
 いい機会だから、街の様子も見たいと、勇者と聖女から要望があった。
 顔をさらしていると、どうしても周囲の視線を集めちまうもんな、二人共。

 ロボリスの家がある辺りは、職人や、雇われ人などが住むエリアのようで、小さな平屋や、集合家屋アパートメント、俺が住んでいるような長屋などが並んでいた。
 まぁ俺の住んでいる長屋よりは新しい家が多いが。

 人々は、まったり庭先で洗濯をしたり、井戸の周りでおしゃべりしながら野菜を洗ったりしている。
 子ども達が走り回っていて、ときどき、ぶつかりそうになり、不思議そうにするのが、ちょっとおかしかった。
 認識阻害ローブのおかげで、遠くからは人がいると認識出来ないのに、近づくと、急に人影が現れるから、びっくりするのだろう。

「師匠の話を聞いて、荒れている街なんだろうなと思っていたが、この辺を見るとそうでもないな」
「ああ。ほとんどの家が、新しいだろ?」
「うん」
「みんな最近家を建てたんだろう。建材自体は、解体現場から持って来たみたいなものが多いが、明るい色を壁に塗っていて、なかなかしゃれている。気持ちが塞いでるときは、人はあまり明るい色を好まないから、街の雰囲気がよくなっている証だろう」
「なるほど。さすが師匠だ」

 お前、それが言いたいだけだろう。
 もう禁止しても無駄だとわかったので、適度に聞き流すことにした。

「そう言えば、ミュリア」
「はい」
「アドミニス殿への紹介の件、本当によかったのか?」

 聖女はフードの奥から、安心させるように微笑んだ。

「こちらの件が終わりましたら、一度大聖堂に寄って、聖者さまの元で働いている、祖父を訪ねてみようと思います」
「お祖父さん?」

 アドミニス殿は、聖女にとっては、最も偉大な先祖という立ち位置らしく、おじいさまと呼んでいた。
 大聖堂で働いているというお祖父さんは、父親の父親、つまり一般的な意味での、お祖父さんになる訳だ。
 ちょっとややっこしいな。
 しかし、お祖父さんに会ってどうしようというのだろうか?
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