勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

750 未来への不安は誰にでもある

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「祖父は、大聖堂に残ることを選んだ聖人上がりの奉仕者で、聖女や聖人見習いの導き手をしているのですが、それ以外にも、実家や、引き取った子ども達の家族との交渉役をしております。穏やかな性格で、人当たりがよく、人に信頼される御方なのです」
「なるほど。つまり、そのお祖父さんに、実家の家族にこないだ勝手に出て行ったこととかのとりなしを頼むという訳か」
「はい。ですが、それだけでなく、少しお父様方に頭を冷やしていただくつもりです」
「そこはまぁ、ほどほどにな」

 親子間の問題に口をはさむのは野暮というものだが、お互いに嫌い合っている訳ではなく、その逆で、お互いに大切なのでこじれているように見える。
 変に意地を張り合って、引くに引けなくなってしまうのはよくないだろう。

「そう言えば、ミュリアは、聖女でなくなったら、実家に戻るのか?」

 俺がそう言うと、聖女は酷く動揺した。

「どうした?」
「お師匠さまは、お笑いになるかもしれませんが。……わたくし、ずっと聖女として立派にお勤めを果たすことだけを考えて来たので、その後のことを考えるのが恐ろしいのです」
「ああ、なるほど」

 聖女は、年齢的にはまだ人生の序盤もいいところだが、聖女という偉大な立場で、多くの人を救うことを目指して、実際に人を救って、やりがいも感じているんだろう。
 やがて、自分にはどうにも出来ない理由でそれが奪われてしまうのだ。
 確実に訪れる未来を、恐ろしいと考えても、何もおかしくはない。

「別に笑ったりしないぞ。俺だって、もうそろそろ冒険者は引退だと感じていて、自分の価値っていうのかな、存在理由? ってのをちょっと掴みかねていたところだ。まぁ、ミュリアに比べたら全然深刻な悩みじゃないが」
「いえ、わたくしだけでなく、お師匠さまも同じようにお悩みになられるということがわかっただけで、少し安心します」
「まぁちょっとだけ、お前等よりも長生きしている立場だ。そのなかで経験したことで、ミュリアの役に立つことがあれば、俺もうれしい。遠慮なく頼ってくれ」

 とは言ったものの、俺と聖女じゃ立場が違いすぎるか。
 俺は勝手に冒険者になったんだし、それに比べて聖女は自分で運命を選べなかったんだ。
 これまでは、他人の勝手に振り回されていたようなもんだろう。
 みんな人生はこれからだし、何かやりたいことを見つけられるのが一番だ。

 しかし、運命を選べなかったという意味では、勇者なんか最たるところだ。
 勇者の立場からすれば、大人になったら引退することが出来る分、聖女は恵まれている考えることも出来る。
 だが、勇者は、そういう自分の不自由さを仲間にぶつけたことはない。
 そういう部分は立派だと思う。
 俺にはときどき愚痴を言うが、そのぐらいは許してやっていいだろう。

「師匠……」

 その勇者が、ものすごく真剣な顔をしてやって来た。

「どうした?」
「そこの店から甘い匂いが漂って来るのだが、買って来ていいだろうか?」
「自分の手持ちなら好きに使えばいいだろ?」
「だが、リーダーとして、一人で甘味を楽しむのはいかがなものかと思うのだ」
「ならみんなにおごれよ」
「なるほど、その手があったか!」

 勇者は晴れ晴れとした顔で出店の一つに駆けて行った。

「あの……」

 メルリルが遠慮がちに話しかけて来る。

「ん?」
「外からの音や匂いは排除していなかったので、ごめんなさい」
「いや、謝る必要はないぞ。こういう普通の買い食いとかも、経験しておいたほうがいいのさ、あいつらは」
「ダスターは優しい」
「そういうのとは違うだろ。師匠としての責任さ」

 そう言ってはみたものの、俺は師匠にそんな気遣いをされたことがなかったので、これは言うなれば、俺の我がままだな。
 若い連中にはたくさんの可能性をつかみ取って欲しい。
 たくさんのことを知って、いろいろ考えて、そうして先へと進んでもらいたい。

「うふふ。じゃあ私、冷やし茶のお替わり買って来ます」
「ピャッ!」

 フォルテがメルリルのフードのなかから顔を出して自分にもくれと要求する。

「わかった。これで頼む」

 懐から小銭が入った袋を出して渡すと、なぜかメルリルから拒否された。

「私が買って来るって言ったんだから、自分で出す」
「いや、このぐらいはさ、偉そうにさせてくれ」

 ちょっと格好つけてみる。
 聖女の話を聞いて、もう少し頼られる大人になりたいと思ったのかもしれない。

「ふふっ、わかった。じゃあ行って来るね」

 その後は、勇者が大量に買って来た、木の実のハチミツ絡めという菓子をみんなで摘まみながら、適当にダベって過ごしたのだった。

 休憩が終わって、領主館までの道すがら、探索者の多く集まる界隈をチラ見させておいた。
 堂々と横切ると、絶対面倒事が起きるので、交差する細道から、チラ見だけだ。

「あちこちの建物の影に、目立たない見張りがいるし、複雑怪奇な魔法を使った魔道具が張り巡らせてあるぞ」

 勇者が面白そうに突っ込もうとしたので、止める。

「今日はやめておけ、今度な」

 式典までは面倒事を処理している暇がない。
 それまではおとなしくしておいてもらわないと困るのだ。

 領主館に辿り着いた頃には、ただ歩いて帰って来ただけなのに、ひどく疲れていた。
 これが歳を取るということか。

「師匠! 土産のお菓子がローブにべったりと貼り付いて取れない!」
「子どもかよ! ってかなんで直接入れた!」

 悩み多き若者達だが、元気は有り余っている。
 俺、本当にこいつの師匠やっていていいのかな?
 今さらながらに、悩みは尽きないのだった。
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