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第八章 真なる聖剣
770 ルフ少年
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三日間、その準備期間を入れれば一つの季節を丸々使った式典は終わった。
気づけはもう季節は秋である。
迷宮都市の人々は、熱狂の残り香を生活のそこここに感じさせながら、日常へと戻って行った。
そして、俺達もいよいよ出立する。
「準備はいいか? ルフ?」
問われた少年は、ものすごく緊張した面持ちでうなずいた。
このルフという少年は、ロボリスの長男である。
今年十歳らしい。
ロボリスとの約束で、アドミニス殿に弟子入りを頼んでみるために同行することになった。
親元を離れるのは寂しくないかと聞いたら、そもそも既に別の鍛冶師の元に弟子入りしていたので、すでに親離れは済んでいるとのことだ。
たくましいな。
とは言え、本人の印象は、たくましさからは程遠い。
それなりにがっちりとした体つきではあるが、小柄で、何よりも少々おとなしげだった。
あまり目を合わせようとはしないし、話し声も小さい。
俺達が嫌いなのかと思ったぐらいだ。
「み、皆様には……あこがれて……います」
挨拶の後、たどたどしく言った言葉がなければ、嫌われていると確信しただろう。
そんな、ロボリスの長男ルフの態度が一変したのは、俺達の乗る魔道馬車を見たときだ。
「凄い! 全部がからくりだ! ここの継ぎ目は! なんて繊細な型取りなんだ!」
などと、魔道馬車の周りをくるくると回っている。
ものすごく目立つから止めて欲しい。
「ミュリア、私、絶対に忘れないから。きっとまた会いましょう」
「リクス。体を大事にしてね。幸せに、なってください。わたくしの、初めてのお友達」
少し離れた場所では、聖女と、その名付け子で、聖女の友達であるリクスが、別れの挨拶を交わしている。
リクスは、迷宮都市の下層教会に奉仕者として務めるらしい。
上層の新しい教主さまにも誘われたらしいが、上層は性に合わないとのこと。
下層には、探索者の遺児などを育てる孤児院もあり、怪我の多い探索者のために、多くの施術師が駐在している。
迷宮の奥で、探索者達と暮らしていたリクスにとって、その環境のほうが過ごしやすいとのことだった。
「うん。私、一杯勉強して、ミュリアの友達として恥ずかしくない使徒になる」
「リクス……」
聖女とリクスが手を取り合ったまま涙ぐんでいる。
女の子というものは、なぜかすぐああいう雰囲気になるよな。
「ダスター、元気でな。うひひっ、勇者の師匠として名を轟かせろや」
カーンがお忍びで街の出口までやって来て、悪い顔で笑った。
「いらんことを言いふらしたら、その口をニカワで貼り付けてやるぞ?」
「はっ、俺が吹聴せずとも、いずれ必ずお前の名は知れ渡るさ! 実際既に……」
最後のほう、何やら言葉を濁したのが気になる。
本当に、いらんことするんじゃないぞ?
「ふふふ。メルリル。いいこと、男ってのは放っておくと、好き勝手するんだから。ちゃんと手綱を握っておくんだよ」
「メイサー、てめえ何吹き込んでやがる」
「あ、あ……大丈夫です。私、ダスターから離れませんから!」
「……メルリル?」
そんな風ににぎやかな見送りに別れを告げ、魔道馬車にて出立した。
「ルフ、しっかりしろよ! 魔法真銀を扱える師匠を捕まえたら、齧りついても弟子にしてもらうんだぞ!」
「お兄ちゃん、元気でね!」
「体には気をつけてね」
ロボリス一家が元気に手を振りながら、長男の旅立ちを応援する。
というか、ロボリス、お前、その助言はやめろ、相手は魔王さまだからな?
やがて、迷宮都市の巨大な壁が遠ざかり、ガラガラと響く魔道馬車の進む音だけが響く。
御者台の俺の隣には、どうしてもと譲らなかったルフがいる。
「からくりの馬の動き、あんなになめらかに出来るんですね。本当に生きているようだ。ときどき無駄に首を振ったり、馬に似た音を立てているところに、職人のこだわりを感じます。僕も、いつかああいうものを作れるでしょうか?」
最初のときとは打って変わって、饒舌になったルフは、俺にそう尋ねた。
魔道馬車の仕組みを調べるのが、楽しくて仕方ないようだ。
「まぁ、あの御方の弟子になれたら、こんな馬車なんか片手間に作れるようになるんじゃないか? ただ、その弟子になるってのが一番難しそうだけどな」
「むむむ……」
ルフは難しい顔になる。
「その方は、人嫌いとか?」
「いや、おそらく人は好きなんじゃないかと思う」
「? では、どうしてでしょう?」
「あー、まぁ会えばわかるよ。なんていうか、鍛冶師ではあるんだが、偉大な魔法使いと言ったほうが似合いそうな御方だからなぁ」
すると、ルフはショックを受けたような顔になる。
「僕が魔法を使えないことが問題なんですね?」
「ああいや、それはそこまで問題にならないと思うぞ?」
俺の返事に、ルフはしきりに首をかしげていた。
まぁこればっかりは、本人に会わないとわからないしな。
「それに、ルフ。悪いが一度大聖堂に寄るから、だいぶ大回りになる。下手すると、年を越して春ぐらいになるかもなぁ」
「それは、大丈夫です。その……」
今まで魔道馬車にはしゃいでいたルフは、急におとなしい少年に戻った。
「よろしかったのでしょうか? 僕、なんて……その、みなさんと、一緒に……」
「おいおい、俺なんかしがない冒険者だぞ? お前が駄目なら俺だって駄目だろ」
「む? 師匠が駄目なら俺はもっと駄目だぞ」
俺達の会話を聞いていたのか、勇者が口を挟んで来た。
何いってんだお前。
勇者一行に一般人が紛れ込んでいいのかって話だろうが。
「ふふっ……」
ルフが笑う。
「なんだか、夢のようです」
まぁあれだ、けっこうたいへんな夢になりそうだけどな。
勇者の行手に、何もない訳がないんだよなぁ。
気づけはもう季節は秋である。
迷宮都市の人々は、熱狂の残り香を生活のそこここに感じさせながら、日常へと戻って行った。
そして、俺達もいよいよ出立する。
「準備はいいか? ルフ?」
問われた少年は、ものすごく緊張した面持ちでうなずいた。
このルフという少年は、ロボリスの長男である。
今年十歳らしい。
ロボリスとの約束で、アドミニス殿に弟子入りを頼んでみるために同行することになった。
親元を離れるのは寂しくないかと聞いたら、そもそも既に別の鍛冶師の元に弟子入りしていたので、すでに親離れは済んでいるとのことだ。
たくましいな。
とは言え、本人の印象は、たくましさからは程遠い。
それなりにがっちりとした体つきではあるが、小柄で、何よりも少々おとなしげだった。
あまり目を合わせようとはしないし、話し声も小さい。
俺達が嫌いなのかと思ったぐらいだ。
「み、皆様には……あこがれて……います」
挨拶の後、たどたどしく言った言葉がなければ、嫌われていると確信しただろう。
そんな、ロボリスの長男ルフの態度が一変したのは、俺達の乗る魔道馬車を見たときだ。
「凄い! 全部がからくりだ! ここの継ぎ目は! なんて繊細な型取りなんだ!」
などと、魔道馬車の周りをくるくると回っている。
ものすごく目立つから止めて欲しい。
「ミュリア、私、絶対に忘れないから。きっとまた会いましょう」
「リクス。体を大事にしてね。幸せに、なってください。わたくしの、初めてのお友達」
少し離れた場所では、聖女と、その名付け子で、聖女の友達であるリクスが、別れの挨拶を交わしている。
リクスは、迷宮都市の下層教会に奉仕者として務めるらしい。
上層の新しい教主さまにも誘われたらしいが、上層は性に合わないとのこと。
下層には、探索者の遺児などを育てる孤児院もあり、怪我の多い探索者のために、多くの施術師が駐在している。
迷宮の奥で、探索者達と暮らしていたリクスにとって、その環境のほうが過ごしやすいとのことだった。
「うん。私、一杯勉強して、ミュリアの友達として恥ずかしくない使徒になる」
「リクス……」
聖女とリクスが手を取り合ったまま涙ぐんでいる。
女の子というものは、なぜかすぐああいう雰囲気になるよな。
「ダスター、元気でな。うひひっ、勇者の師匠として名を轟かせろや」
カーンがお忍びで街の出口までやって来て、悪い顔で笑った。
「いらんことを言いふらしたら、その口をニカワで貼り付けてやるぞ?」
「はっ、俺が吹聴せずとも、いずれ必ずお前の名は知れ渡るさ! 実際既に……」
最後のほう、何やら言葉を濁したのが気になる。
本当に、いらんことするんじゃないぞ?
「ふふふ。メルリル。いいこと、男ってのは放っておくと、好き勝手するんだから。ちゃんと手綱を握っておくんだよ」
「メイサー、てめえ何吹き込んでやがる」
「あ、あ……大丈夫です。私、ダスターから離れませんから!」
「……メルリル?」
そんな風ににぎやかな見送りに別れを告げ、魔道馬車にて出立した。
「ルフ、しっかりしろよ! 魔法真銀を扱える師匠を捕まえたら、齧りついても弟子にしてもらうんだぞ!」
「お兄ちゃん、元気でね!」
「体には気をつけてね」
ロボリス一家が元気に手を振りながら、長男の旅立ちを応援する。
というか、ロボリス、お前、その助言はやめろ、相手は魔王さまだからな?
やがて、迷宮都市の巨大な壁が遠ざかり、ガラガラと響く魔道馬車の進む音だけが響く。
御者台の俺の隣には、どうしてもと譲らなかったルフがいる。
「からくりの馬の動き、あんなになめらかに出来るんですね。本当に生きているようだ。ときどき無駄に首を振ったり、馬に似た音を立てているところに、職人のこだわりを感じます。僕も、いつかああいうものを作れるでしょうか?」
最初のときとは打って変わって、饒舌になったルフは、俺にそう尋ねた。
魔道馬車の仕組みを調べるのが、楽しくて仕方ないようだ。
「まぁ、あの御方の弟子になれたら、こんな馬車なんか片手間に作れるようになるんじゃないか? ただ、その弟子になるってのが一番難しそうだけどな」
「むむむ……」
ルフは難しい顔になる。
「その方は、人嫌いとか?」
「いや、おそらく人は好きなんじゃないかと思う」
「? では、どうしてでしょう?」
「あー、まぁ会えばわかるよ。なんていうか、鍛冶師ではあるんだが、偉大な魔法使いと言ったほうが似合いそうな御方だからなぁ」
すると、ルフはショックを受けたような顔になる。
「僕が魔法を使えないことが問題なんですね?」
「ああいや、それはそこまで問題にならないと思うぞ?」
俺の返事に、ルフはしきりに首をかしげていた。
まぁこればっかりは、本人に会わないとわからないしな。
「それに、ルフ。悪いが一度大聖堂に寄るから、だいぶ大回りになる。下手すると、年を越して春ぐらいになるかもなぁ」
「それは、大丈夫です。その……」
今まで魔道馬車にはしゃいでいたルフは、急におとなしい少年に戻った。
「よろしかったのでしょうか? 僕、なんて……その、みなさんと、一緒に……」
「おいおい、俺なんかしがない冒険者だぞ? お前が駄目なら俺だって駄目だろ」
「む? 師匠が駄目なら俺はもっと駄目だぞ」
俺達の会話を聞いていたのか、勇者が口を挟んで来た。
何いってんだお前。
勇者一行に一般人が紛れ込んでいいのかって話だろうが。
「ふふっ……」
ルフが笑う。
「なんだか、夢のようです」
まぁあれだ、けっこうたいへんな夢になりそうだけどな。
勇者の行手に、何もない訳がないんだよなぁ。
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