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第八章 真なる聖剣
778 師を選ぶ
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前日は、食べ過ぎた勇者が動けないと駄々をこねて宿の主人を困らせたりしたが、魔力循環の鍛錬をやらせたらすぐに解決したので、大した問題にはならずに済んだ。
いくら美味いからと言って食いすぎである。
確かにコースのメインである、表面をさっと炙った魚肉に、さっぱりとしたオイルソースを掛けて食べる奴は、びっくりするぐらい美味かったし、単品料理の大きな魚の姿焼きや、煮付け料理、甲殻類の炙り焼きなんか、どれも食べ飽きない味わいがあった。
だからと言って、それぞれ一皿ずつ食べてしまうのはやりすぎだろ。
みんなで分け合って食べて丁度いいぐらいだったぞ。
「おはよう。ルフ」
「お、おはようございます。みなさんいつも朝が早いんですね」
日が昇る頃に起きて来たルフが、全員が洗い場で汗を流して、筋肉と魔力の軽い調整を行っているのを見て、そんなことを言った。
今までは遠慮して聞けなかったのかもしれない。
「勇者達も俺も、いざというときに身体がうまく動かないという事態になると困るからな。毎朝鍛錬で、身体のポテンシャルを引き上げておくんだ。あと、実際に動きながら、自分の魔法や剣技なんかを見直して、無駄がないかとか、もっと連携した動きが出来るんじゃないかとかイメージしたりするのも大事かな」
「ほえー。す、凄いです。さすが勇者さまですね!」
「勇者だから何もせずに強いと思い込んでる人間も多いが、勇者だって、鍛えなければ、強くなれないし、自分の調子を把握出来ていないと、いざってときに失敗するからな」
「ふわぁ……ぼ、僕、恥ずかしいです。僕、鍛冶師という仕事に、皆さんほど真剣に取り組んでなかったと思います。も、もっと頑張ろうと思います」
「真面目だなぁ、ルフは。勇者なんか、すぐサボろうとするからな。最近はルフがいるからかちょっと張り切っているが」
ニヤリとして言うと、聞きつけた勇者が抗議して来た。
「お、俺は、師匠の教えにいつも真剣だぞ!」
「お前、いつもどうやって手抜きをして強くなるかって感じで鍛錬してるじゃないか。まぁそれがいい方向に行ってるから、特に注意はしなかったが、ルフにお前を見習えとか言える訳ないだろ」
「くっ……」
俺が指摘すると、自覚がある勇者は反論出来ない。
勇者はやっぱり一種の天才なんだと思う。
普通の人間が丁寧に繰り返して覚えることを、直感で掴んで手順を簡略化して成功させるのだ。
師匠と呼ばれていても、俺にそんなのが指導出来るはずもないから、基本的な考え方だけ叩き込んで、あとは自分で勝手にやらせている状態となっている。
凡人は天才を真似してはいけないということが、一緒にいるとよく実感出来る奴だ。
「ふふっ、勇者さまは、お師匠さまであるダスターさんをとても尊敬していることがわかります。僕も、そんなお師匠さまに出会いたいなぁって思うんです。……ああいえ、贅沢を言ってるのはわかっているんです」
「何言ってるんだ。何かを真剣に極めたいと思ってるなら、いい師匠を得たいと思うのは当然だぞ。まぁ俺達が、ルフを連れて行く予定の鍛冶師は、まず間違いなく世界一だ。そこは保証する。ただなぁ、師匠として優れてるかどうかはちょっとわからない」
「はい。わかっています。父さんが無理を言ってごめんなさい」
「いやいやお前の父さんに最初に無理を言ったのは俺達だからな。そこは勘違いしちゃ駄目だぞ」
「ん……はい」
ルフには、偽の聖剣の話は出来ないので、ロボリスが仕事を盾に俺達に無理を言ったと思っている節がある。
どっちかというと、俺達のほうが無茶振りしたので、誤解されると、ロボリスに申し訳ない。
その辺はおいおい、わかってもらうしかないか。
「よし、なにはともあれ、今日は港のほうへ行ってみよう。大聖堂への船便のことも何かわかるかもしれないしな」
「おう! 昨日食ったあの殻がゴツゴツして硬い奴。街で売ってるかな?」
勇者はどうやら、カニ料理が気に入ったようだ。
でも、俺は今、船便の話をしたよな。
昨日食い過ぎで苦しんだくせして、どうしてまた食い物の話になるのか理解不能だ。
そういうへこたれないところはさすが勇者と褒めるべきなのか。
いや、ルフに悪い影響を与えそうだから、やっぱり叱っておこう。
多少のごたごたを伴いながら、俺達は準備をして部屋を出た。
女性達の部屋をノックすると、もう少し準備にかかるので、下の料理店で待っていてくれと言われてしまう。
早朝で内臓もまだ本調子じゃないし、何か温かい飲み物でももらうか。
「そう言えば、師匠」
勇者がこそっと耳打ちして来た。
「どうした?」
「昨夜寝るときに気づいたんだが、若葉の様子がおかしい」
勇者の言葉に俺は眉をひそめる。
ドラゴンである若葉の様子がおかしいというのは、由々しき問題だ。
下手すると、街の一つや二つが危険にさらされるぐらいの。
「どうおかしい?」
「呼びかけても返事がない。ピクリとも動かないんだ。まるで本物の飾りのようになっている」
勇者の言葉に、ローブの飾りのようになっている若葉を見る。
見た感じはいつもと変わらない。
そもそもこいつほとんど動かないしな。
ちょっとつついてみた。
「ん?」
「何かわかったか?」
「魔力の流れが変だ。というよりも、魔力が内側に向かって恐ろしい勢いで集まっている……お前、少し吸われているみたいだが、体調は大丈夫か?」
「ああいや、普段から若葉はちょくちょく俺の魔力を食ってるみたいだったから、気にしてなかった」
こいつ魔力が豊富すぎて、このぐらいの漏出だと、蚊に刺されたほどにも感じてないっぽいな。
「大丈夫かな?」
「俺にドラゴンのことがわかるはずもないだろ? そう言えば、この前、若葉が何か言ってたな。脱皮がどうとか」
「ああ」
「それかな?」
「なら大丈夫か」
勇者は納得したようだ。
だが俺は全く納得していない。
若葉はまだ成体ではないが、人では全く太刀打ち出来ないドラゴンなのだ。
不安しかないが、今のところどうしようもないしな。
危険のことを考えると、どっかに捨てる訳にもいかない。
勇者が預かっている今の状態が一番安全と言っていいだろう。
「相変わらず、問題が多いな」
たいがい俺も慣れて来てはいるけどな。
いくら美味いからと言って食いすぎである。
確かにコースのメインである、表面をさっと炙った魚肉に、さっぱりとしたオイルソースを掛けて食べる奴は、びっくりするぐらい美味かったし、単品料理の大きな魚の姿焼きや、煮付け料理、甲殻類の炙り焼きなんか、どれも食べ飽きない味わいがあった。
だからと言って、それぞれ一皿ずつ食べてしまうのはやりすぎだろ。
みんなで分け合って食べて丁度いいぐらいだったぞ。
「おはよう。ルフ」
「お、おはようございます。みなさんいつも朝が早いんですね」
日が昇る頃に起きて来たルフが、全員が洗い場で汗を流して、筋肉と魔力の軽い調整を行っているのを見て、そんなことを言った。
今までは遠慮して聞けなかったのかもしれない。
「勇者達も俺も、いざというときに身体がうまく動かないという事態になると困るからな。毎朝鍛錬で、身体のポテンシャルを引き上げておくんだ。あと、実際に動きながら、自分の魔法や剣技なんかを見直して、無駄がないかとか、もっと連携した動きが出来るんじゃないかとかイメージしたりするのも大事かな」
「ほえー。す、凄いです。さすが勇者さまですね!」
「勇者だから何もせずに強いと思い込んでる人間も多いが、勇者だって、鍛えなければ、強くなれないし、自分の調子を把握出来ていないと、いざってときに失敗するからな」
「ふわぁ……ぼ、僕、恥ずかしいです。僕、鍛冶師という仕事に、皆さんほど真剣に取り組んでなかったと思います。も、もっと頑張ろうと思います」
「真面目だなぁ、ルフは。勇者なんか、すぐサボろうとするからな。最近はルフがいるからかちょっと張り切っているが」
ニヤリとして言うと、聞きつけた勇者が抗議して来た。
「お、俺は、師匠の教えにいつも真剣だぞ!」
「お前、いつもどうやって手抜きをして強くなるかって感じで鍛錬してるじゃないか。まぁそれがいい方向に行ってるから、特に注意はしなかったが、ルフにお前を見習えとか言える訳ないだろ」
「くっ……」
俺が指摘すると、自覚がある勇者は反論出来ない。
勇者はやっぱり一種の天才なんだと思う。
普通の人間が丁寧に繰り返して覚えることを、直感で掴んで手順を簡略化して成功させるのだ。
師匠と呼ばれていても、俺にそんなのが指導出来るはずもないから、基本的な考え方だけ叩き込んで、あとは自分で勝手にやらせている状態となっている。
凡人は天才を真似してはいけないということが、一緒にいるとよく実感出来る奴だ。
「ふふっ、勇者さまは、お師匠さまであるダスターさんをとても尊敬していることがわかります。僕も、そんなお師匠さまに出会いたいなぁって思うんです。……ああいえ、贅沢を言ってるのはわかっているんです」
「何言ってるんだ。何かを真剣に極めたいと思ってるなら、いい師匠を得たいと思うのは当然だぞ。まぁ俺達が、ルフを連れて行く予定の鍛冶師は、まず間違いなく世界一だ。そこは保証する。ただなぁ、師匠として優れてるかどうかはちょっとわからない」
「はい。わかっています。父さんが無理を言ってごめんなさい」
「いやいやお前の父さんに最初に無理を言ったのは俺達だからな。そこは勘違いしちゃ駄目だぞ」
「ん……はい」
ルフには、偽の聖剣の話は出来ないので、ロボリスが仕事を盾に俺達に無理を言ったと思っている節がある。
どっちかというと、俺達のほうが無茶振りしたので、誤解されると、ロボリスに申し訳ない。
その辺はおいおい、わかってもらうしかないか。
「よし、なにはともあれ、今日は港のほうへ行ってみよう。大聖堂への船便のことも何かわかるかもしれないしな」
「おう! 昨日食ったあの殻がゴツゴツして硬い奴。街で売ってるかな?」
勇者はどうやら、カニ料理が気に入ったようだ。
でも、俺は今、船便の話をしたよな。
昨日食い過ぎで苦しんだくせして、どうしてまた食い物の話になるのか理解不能だ。
そういうへこたれないところはさすが勇者と褒めるべきなのか。
いや、ルフに悪い影響を与えそうだから、やっぱり叱っておこう。
多少のごたごたを伴いながら、俺達は準備をして部屋を出た。
女性達の部屋をノックすると、もう少し準備にかかるので、下の料理店で待っていてくれと言われてしまう。
早朝で内臓もまだ本調子じゃないし、何か温かい飲み物でももらうか。
「そう言えば、師匠」
勇者がこそっと耳打ちして来た。
「どうした?」
「昨夜寝るときに気づいたんだが、若葉の様子がおかしい」
勇者の言葉に俺は眉をひそめる。
ドラゴンである若葉の様子がおかしいというのは、由々しき問題だ。
下手すると、街の一つや二つが危険にさらされるぐらいの。
「どうおかしい?」
「呼びかけても返事がない。ピクリとも動かないんだ。まるで本物の飾りのようになっている」
勇者の言葉に、ローブの飾りのようになっている若葉を見る。
見た感じはいつもと変わらない。
そもそもこいつほとんど動かないしな。
ちょっとつついてみた。
「ん?」
「何かわかったか?」
「魔力の流れが変だ。というよりも、魔力が内側に向かって恐ろしい勢いで集まっている……お前、少し吸われているみたいだが、体調は大丈夫か?」
「ああいや、普段から若葉はちょくちょく俺の魔力を食ってるみたいだったから、気にしてなかった」
こいつ魔力が豊富すぎて、このぐらいの漏出だと、蚊に刺されたほどにも感じてないっぽいな。
「大丈夫かな?」
「俺にドラゴンのことがわかるはずもないだろ? そう言えば、この前、若葉が何か言ってたな。脱皮がどうとか」
「ああ」
「それかな?」
「なら大丈夫か」
勇者は納得したようだ。
だが俺は全く納得していない。
若葉はまだ成体ではないが、人では全く太刀打ち出来ないドラゴンなのだ。
不安しかないが、今のところどうしようもないしな。
危険のことを考えると、どっかに捨てる訳にもいかない。
勇者が預かっている今の状態が一番安全と言っていいだろう。
「相変わらず、問題が多いな」
たいがい俺も慣れて来てはいるけどな。
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