勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

788 勇者の目覚め

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「わ、わたくしがついていながら、勇者さまが食べられてしまいました。……こうなったらわたくしも……」

 聖女がショックのあまりか錯乱した。
 慌ててモンクが落ち着かせる。

「ちょっと、ミュリア、あの悪運だけは強い勇者が、むざむざ自分のペットに食われる訳ないでしょ、落ち着いて」

 口が悪い。
 だが、とりあえず聖女は落ち着いたようだ。
 神璽みしるしがないので少し不安なのかもしれない。

「そ、そうですね。わたくしが取り乱しては、勇者さまをお救い出来ません。しっかりしなければ」

 聖女は俺達のなかでは一番年下なのに偉いな。
 年下と言えば、ルフもまだ十歳なのにしっかりしている。
 こうしてみると、大人になるといらん欲が増えて、おかしくなってしまうのかもしれないとすら思えてしまう。

「若葉、俺がわかるか?」
「ガルルルルッ……」
「駄目か」

 やはりこの状態の若葉には俺の言葉は届かないようだ。
 フォルテが、俺達がアルフを食べようとしているのではないと説明してくれたようだが、まだ疑っているのだろう。
 ものすごく不本意な疑いだ。

「フォルテ、若葉に説明してくれ。そのままだとアルフが危ない。魔封具を解除するからちょっとどいてくれと」
「ピャッ!」

 フォルテはわかったとうなずくと、若葉への説明に入る。
 実に面倒くさい。

 フォルテと若葉、俺とフォルテのやりとりを何度が繰り返した後、やっと若葉が納得したようだ。
 若葉の幻影が、勇者の上から消えた。
 
「むう」
「これは……」
「クルスにも見えているのか?」
「はい」

 ほのかに光っているので、暗視の出来ないクルスにも見えているようだ。
 若葉の幻影が姿を消すと、そこには緑色に輝く繭のようなものが残った。
 これも若葉の仕業なんだろうな。

「クモの糸のようなものでしょうか?」
「あー獲物を保管するアレか」

 試しに触れてみる。

「ダスター……」

 メルリルが不安そうにするが、フォルテがすでに触れて、問題ないということがわかっているので、大丈夫だと手で合図した。
 触れてみると、意外なことに、硬い。
 繭というよりも、卵の殻を思い起こさせる。
 叩いてみる。
 軽い、まさに卵の殻のような感触だ。

「よし、割ってみよう」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「このままだと、アルフが窒息しかねないからな」
「これを使っては?」

 聖騎士がドラゴンの鱗のナイフを示す。

「私はこの暗闇では、その光っている部分しか見えません。万が一があったら困るので、ダスター殿、頼みます」

 そして俺に向けて柄を差し出した。

「わかった。借りる」

 俺はナイフを受け取ると、繭のような卵のようなものの表面に刃を軽く当ててみる。
 パリッ……。
 小さな音を立てて、繭のようなものの表面に無数のヒビが走った。
 そして、カシャン……と、周囲に散らばるように砕けてしまう。
 思ったよりも簡単に剥がれた。
 さて、肝心の勇者だが、首に触れてみると暖かさと脈動を感じる。
 生きてたか。
 ホッとして、力が抜けそうになるが、気を引き締めて、確認を続ける。

 問題の魔封具だが、なんか燃え尽きたようになって既に破壊されているんだが? 若葉の仕業か?
 その若葉の本体は、勇者の胸の上で丸くなっていた。
 見ている分には微笑ましいようにも思える。
 勇者を自分の獲物と思っていることを知らなければ、な。

 しかし飾りに擬態していたときよりもデカくなっている。
 そもそも本来の姿はもっとデカいのだから、関係ないと言えば関係ないが、違和感があった。
 何か雰囲気が違うのだ。
 頭に、角? いや、一対の小さな羽のようなものが生えている。
 体は全体的に濃い緑色だが、その頭部の羽のような部分だけ青銀の色となっていた。
 少し遠目から見ると、濃い緑の植物に青銀の小さな花が咲いているようにも見える。
 あと、全体的なシルエットがやわらかくなったような感じがした。

 まぁ若葉のことはいいか。
 魔封具が壊れているなら後は起こすだけだ。

「アルフ、おい、しっかりしろ」
「うーん。師匠、朝飯はなんだ? なんだかすごく腹が減った」

 勇者は、パチッと目を覚ますと、いきなり飯を聞いて来た。
 よしよし、いつもの勇者だな。

「お師匠さま。あの、よろしければ光球を使いましょうか?」

 聖女は暗視があまり得意ではないので、勇者の様子がわからずにやきもきしているのかもしれない。

「魔力、だいぶ減ってるんだろう? 無理はするな」
「大丈夫です。光球はほとんど魔力も使いませんから」
「それなら頼む」
「はい!」

 嬉しそうだ。
 聖女が両手を掲げると、その手のなかに小さな光の珠が生まれ、ふわふわと俺達の頭上を漂った。
 暗視が使える俺ですら、部屋が明るくなると安心感がある。

「師匠、これはなんだ?」

 起きたばかりの勇者は、自分の周りに散らばる緑色の結晶のようなものを拾った。
 光のなかでよくよく見ると、鱗のようにも花びらのようにも見える。
 触れると硬い。
 実体がある。

「おそらくだが、若葉に関係したものだと思う。ここに残すのもなんだし、集めておこう」

 一枚一枚が薄いので、全部集めてもそれほどかさばらなかった。
 重さも全く感じない。
 とりあえず、俺の服の内側にある隠しポケットに突っ込んだ。
 背負袋が欲しい。

 起きたばかりで今の状態がよくわかっていない勇者への説明は、聖騎士がやってくれた。
 その間、俺は考える。
 さて、これからどうするか。

「師匠、腹が減った」

 起きたら起きたで勇者がうるさい。
 あのまま寝ていたほうがよかったんじゃないか。

「あ、あの、お師匠さま、実はわたくしも……すごくお腹が空いてしまって……」

 聖女が恥ずかしそうにおずおずと言った。

「あー、魔力をかなり消費したからかもしれないな。とは言え、今はどうにもならないし」
「師匠、俺は無視したのに……」

 勇者が恨みがましく何か言っている。
 と、再び足音が聞こえた。
 こっちに近づいて来る。

「おい、いつまでかかってんだ! ったく口先ばかりのろくでなし野郎が!」

 大声が部屋のなかまで聞こえた。
 さっきこうの取り替えに来た奴を探しに来たのか。
 俺達は、無言で視線を交わすと、光球を消して身構えた。
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