勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
701 / 885
第八章 真なる聖剣

806 探索開始

しおりを挟む
 しばらくして、昨日の女官さんが慌ててやって来た。
 その後ろに、顔色を悪くした侍女がいる。

「失礼いたします。ご報告が遅くなりまして申し訳ありません」
「いや、こちらを優先する必要はない」

 勇者がそっけないが、少し心配気に対応した。
 勇者の言う通り、そもそもは城内でここの主の姫が行方不明になったのだから、まずは海洋公に報告して、本来は内内で解決すべき問題だろう。
 ただ、俺達が女官さんを呼んだので、こっちにも顔を出してくれたのだ。

 俺としては、混乱状態の侍女の娘では何の進展もなさそうだったので、女官さんに話を持っていけば、手遅れにならないうちに対処出来ると判断したからああ言ったんであって、実際に問題が起きていた場合は、こっちは無視されても構わなかった。

「その分では、パーニャ姫は見つかっていないようだな」
「ご慧眼恐れ入ります」

 女官さんが勇者に丁寧に礼をする。
 まぁ二人の顔色を見れば、誰だってわかることだけどな。

「よかったら、うちの従者達を使ってみてくれないか? 二人共冒険者として高い能力を持っている。俺達が直接動くと大事になるだろうが、従者が協力するのは別に構うまい」

 それは事前に話し合いで決めたことだった。
 人探しなら、メルリルやフォルテの力が有効だし、探索は俺の得意分野だ。
 ルフも一緒に探したがったんだが、さすがに子どもを表立って協力者として出す訳にはいかない。
 そもそも、俺達にとって、ルフは預かった大事な子どもなのだ。
 ここでルフまでも行方不明になってしまったら、最悪の事態になってしまう。

 ルフには、その代わり、パーニャ姫との昨日の会話から何か思いついたら教えて欲しいと言ってある。

「よろしいのですか?」

 女官さんがびっくりしたように言った。
 よろしいので、吟遊詩人の戯言は忘れてください。

「改めまして、俺はダスター、こっちはメルリルと言います。この肩にいるのがフォルテです。お城の方とは違った視点で探すことが出来ると思うので、よかったら協力させてください」
「わ、わかりました。城主さまへのご報告が後になってしまいますが、勇者さまからの協力を拒むお方ではありません。よろしくお願いいたします」
「はい。それでさっそくですが、パーニャ姫が昼過ぎにこの部屋に来ようとしていたのは確かなのではないかと思うのです。もしかしてですが、海洋公閣下、いえ、お父上と勇者さまとのお話を聞かれていたということは?」

 俺の言葉に女官さんはうなずいた。

「私もその可能性を考えておりました。城の要所を警備している衛士の話によりますと、姫さまは確かにこちらの部屋の前までは訪れたとの確認が取れております。その後どこかに走って行くところを、何人かの使用人に目撃されてもいます」
「この城の見取り図……は、見せてもらえませんよね、さすがに……」

 城の見取り図など、機密中の機密である。
 一介の冒険者どころか、勇者にだってみせられないだろう。

「そ、それは、さすがに……わたくしも、目にしたことはないので」

 そりゃあそうか。

「それじゃあ、簡単な略図でいいので、姫さまの目撃情報があったお城のだいたいの場所に、印をつけて描いてもらえないでしょうか? 探索が終わったら必ず破棄すると誓います」
「その方のおっしゃる通りにしなさい」

 女官さんがさすがに迷っていると、海洋公が姿を現して、俺の後押しをしてくれた。
 俺は慌てて膝を突いて頭を垂れる。

「俺にそのようにあらたまる必要はない。勇者さまのお師匠殿」

 うわあ、海洋公までその歌を聞いたのか?

「ああ、そうそう秘密でしたな」

 海洋公は、疲れた顔でありながら、少しだけ茶目っ気のある笑みを見せた。

「ええっと……」
「カリオカ殿、うちの従者を困らせないでもらおう。それよりも、大事なのはパーニャ姫のことだろう?」

 さすがにどう答えていいのかわからなくなっていたら、勇者の助けが入った。
 正直ありがたい。

「正に。……あの子は遅くに出来た娘でしてな。あまり厳しいことを言わずに育てたもので、少々、お転婆に育ってしまったようだ。此度のこと、いたずらであったら、きつく叱ってやらねば」
「そういうことは後でしょう。今は娘さんの心配だけしてあげてください」

 あ、思わず言ってしまった。
 俺の考えが間違ってなければ、パーニャ姫は、父親のために行動しているはずなんだ。
 その父親が叱ることを前提にしていては報われない。

「その通りだな。ありがとう」
「いえ、失礼な物言いをしてしまって申し訳ありません」

 俺みたいな平民に頭を下げるとは……。
 いや、勇者の師匠だと思っているから出来ることか。

 とりあえず話がついたので、城の略図を描いてもらい、目撃情報があった地点に印を付けていく。

「城を下っているのは間違いないようですね。この最後の目撃情報があった場所はどこですか?」
「倉庫がある中庭です。城に出入りしている行商人が荷降ろしをする場所の近くで、姫さまはよくそこで荷降ろしを眺めていらっしゃいましたから、誰も姫さまを見ても不思議には思わなかったようです。ただ、すぐに姿が見えなくなったので、おかしいとは感じたようですが……あっ」

 女官さんも気づいたようだ。
 
「フォルテ」
「ピャ!」

 フォルテをテラスから外へと飛ばす。
 気づいたのがだいぶ遅かったから、もし出入りの行商人の荷車にまぎれていたとしても、もう追えないかもしれない。
 城という場所では、入る荷物は厳しくチェックするが、帰りの荷車を調べるということはほとんどないのだ。
 どれかの荷車に、姫さまが潜り込んでいたとしても見逃していただろう。

「ダスター、私も」
「メルリルは言葉か声を拾うんだろ? さすがに範囲が広すぎる……いや、待てよ」

 海洋公との話を立ち聞きしたとして、パーニャ姫はどう行動するだろうか? 海洋公は港湾の担当官に憤っていた。自分の身を魔物に食わせるとまで言ったのだ。
 と、すると……。

「港だ。閣下、パーニャ姫は港の場所をご存知ですか?」
「幼き頃から何度も訪れておる」

 俺はうなずいて、メルリルに言った。

「港周辺に限定して、パーニャ姫の声を拾えるか?」
「やってみる」

 後は、メルリルの耳とフォルテの目が頼りだな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。