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第八章 真なる聖剣
806 探索開始
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しばらくして、昨日の女官さんが慌ててやって来た。
その後ろに、顔色を悪くした侍女がいる。
「失礼いたします。ご報告が遅くなりまして申し訳ありません」
「いや、こちらを優先する必要はない」
勇者がそっけないが、少し心配気に対応した。
勇者の言う通り、そもそもは城内でここの主の姫が行方不明になったのだから、まずは海洋公に報告して、本来は内内で解決すべき問題だろう。
ただ、俺達が女官さんを呼んだので、こっちにも顔を出してくれたのだ。
俺としては、混乱状態の侍女の娘では何の進展もなさそうだったので、女官さんに話を持っていけば、手遅れにならないうちに対処出来ると判断したからああ言ったんであって、実際に問題が起きていた場合は、こっちは無視されても構わなかった。
「その分では、パーニャ姫は見つかっていないようだな」
「ご慧眼恐れ入ります」
女官さんが勇者に丁寧に礼をする。
まぁ二人の顔色を見れば、誰だってわかることだけどな。
「よかったら、うちの従者達を使ってみてくれないか? 二人共冒険者として高い能力を持っている。俺達が直接動くと大事になるだろうが、従者が協力するのは別に構うまい」
それは事前に話し合いで決めたことだった。
人探しなら、メルリルやフォルテの力が有効だし、探索は俺の得意分野だ。
ルフも一緒に探したがったんだが、さすがに子どもを表立って協力者として出す訳にはいかない。
そもそも、俺達にとって、ルフは預かった大事な子どもなのだ。
ここでルフまでも行方不明になってしまったら、最悪の事態になってしまう。
ルフには、その代わり、パーニャ姫との昨日の会話から何か思いついたら教えて欲しいと言ってある。
「よろしいのですか?」
女官さんがびっくりしたように言った。
よろしいので、吟遊詩人の戯言は忘れてください。
「改めまして、俺はダスター、こっちはメルリルと言います。この肩にいるのがフォルテです。お城の方とは違った視点で探すことが出来ると思うので、よかったら協力させてください」
「わ、わかりました。城主さまへのご報告が後になってしまいますが、勇者さまからの協力を拒むお方ではありません。よろしくお願いいたします」
「はい。それでさっそくですが、パーニャ姫が昼過ぎにこの部屋に来ようとしていたのは確かなのではないかと思うのです。もしかしてですが、海洋公閣下、いえ、お父上と勇者さまとのお話を聞かれていたということは?」
俺の言葉に女官さんはうなずいた。
「私もその可能性を考えておりました。城の要所を警備している衛士の話によりますと、姫さまは確かにこちらの部屋の前までは訪れたとの確認が取れております。その後どこかに走って行くところを、何人かの使用人に目撃されてもいます」
「この城の見取り図……は、見せてもらえませんよね、さすがに……」
城の見取り図など、機密中の機密である。
一介の冒険者どころか、勇者にだってみせられないだろう。
「そ、それは、さすがに……わたくしも、目にしたことはないので」
そりゃあそうか。
「それじゃあ、簡単な略図でいいので、姫さまの目撃情報があったお城のだいたいの場所に、印をつけて描いてもらえないでしょうか? 探索が終わったら必ず破棄すると誓います」
「その方のおっしゃる通りにしなさい」
女官さんがさすがに迷っていると、海洋公が姿を現して、俺の後押しをしてくれた。
俺は慌てて膝を突いて頭を垂れる。
「俺にそのようにあらたまる必要はない。勇者さまのお師匠殿」
うわあ、海洋公までその歌を聞いたのか?
「ああ、そうそう秘密でしたな」
海洋公は、疲れた顔でありながら、少しだけ茶目っ気のある笑みを見せた。
「ええっと……」
「カリオカ殿、うちの従者を困らせないでもらおう。それよりも、大事なのはパーニャ姫のことだろう?」
さすがにどう答えていいのかわからなくなっていたら、勇者の助けが入った。
正直ありがたい。
「正に。……あの子は遅くに出来た娘でしてな。あまり厳しいことを言わずに育てたもので、少々、お転婆に育ってしまったようだ。此度のこと、いたずらであったら、きつく叱ってやらねば」
「そういうことは後でしょう。今は娘さんの心配だけしてあげてください」
あ、思わず言ってしまった。
俺の考えが間違ってなければ、パーニャ姫は、父親のために行動しているはずなんだ。
その父親が叱ることを前提にしていては報われない。
「その通りだな。ありがとう」
「いえ、失礼な物言いをしてしまって申し訳ありません」
俺みたいな平民に頭を下げるとは……。
いや、勇者の師匠だと思っているから出来ることか。
とりあえず話がついたので、城の略図を描いてもらい、目撃情報があった地点に印を付けていく。
「城を下っているのは間違いないようですね。この最後の目撃情報があった場所はどこですか?」
「倉庫がある中庭です。城に出入りしている行商人が荷降ろしをする場所の近くで、姫さまはよくそこで荷降ろしを眺めていらっしゃいましたから、誰も姫さまを見ても不思議には思わなかったようです。ただ、すぐに姿が見えなくなったので、おかしいとは感じたようですが……あっ」
女官さんも気づいたようだ。
「フォルテ」
「ピャ!」
フォルテをテラスから外へと飛ばす。
気づいたのがだいぶ遅かったから、もし出入りの行商人の荷車にまぎれていたとしても、もう追えないかもしれない。
城という場所では、入る荷物は厳しくチェックするが、帰りの荷車を調べるということはほとんどないのだ。
どれかの荷車に、姫さまが潜り込んでいたとしても見逃していただろう。
「ダスター、私も」
「メルリルは言葉か声を拾うんだろ? さすがに範囲が広すぎる……いや、待てよ」
海洋公との話を立ち聞きしたとして、パーニャ姫はどう行動するだろうか? 海洋公は港湾の担当官に憤っていた。自分の身を魔物に食わせるとまで言ったのだ。
と、すると……。
「港だ。閣下、パーニャ姫は港の場所をご存知ですか?」
「幼き頃から何度も訪れておる」
俺はうなずいて、メルリルに言った。
「港周辺に限定して、パーニャ姫の声を拾えるか?」
「やってみる」
後は、メルリルの耳とフォルテの目が頼りだな。
その後ろに、顔色を悪くした侍女がいる。
「失礼いたします。ご報告が遅くなりまして申し訳ありません」
「いや、こちらを優先する必要はない」
勇者がそっけないが、少し心配気に対応した。
勇者の言う通り、そもそもは城内でここの主の姫が行方不明になったのだから、まずは海洋公に報告して、本来は内内で解決すべき問題だろう。
ただ、俺達が女官さんを呼んだので、こっちにも顔を出してくれたのだ。
俺としては、混乱状態の侍女の娘では何の進展もなさそうだったので、女官さんに話を持っていけば、手遅れにならないうちに対処出来ると判断したからああ言ったんであって、実際に問題が起きていた場合は、こっちは無視されても構わなかった。
「その分では、パーニャ姫は見つかっていないようだな」
「ご慧眼恐れ入ります」
女官さんが勇者に丁寧に礼をする。
まぁ二人の顔色を見れば、誰だってわかることだけどな。
「よかったら、うちの従者達を使ってみてくれないか? 二人共冒険者として高い能力を持っている。俺達が直接動くと大事になるだろうが、従者が協力するのは別に構うまい」
それは事前に話し合いで決めたことだった。
人探しなら、メルリルやフォルテの力が有効だし、探索は俺の得意分野だ。
ルフも一緒に探したがったんだが、さすがに子どもを表立って協力者として出す訳にはいかない。
そもそも、俺達にとって、ルフは預かった大事な子どもなのだ。
ここでルフまでも行方不明になってしまったら、最悪の事態になってしまう。
ルフには、その代わり、パーニャ姫との昨日の会話から何か思いついたら教えて欲しいと言ってある。
「よろしいのですか?」
女官さんがびっくりしたように言った。
よろしいので、吟遊詩人の戯言は忘れてください。
「改めまして、俺はダスター、こっちはメルリルと言います。この肩にいるのがフォルテです。お城の方とは違った視点で探すことが出来ると思うので、よかったら協力させてください」
「わ、わかりました。城主さまへのご報告が後になってしまいますが、勇者さまからの協力を拒むお方ではありません。よろしくお願いいたします」
「はい。それでさっそくですが、パーニャ姫が昼過ぎにこの部屋に来ようとしていたのは確かなのではないかと思うのです。もしかしてですが、海洋公閣下、いえ、お父上と勇者さまとのお話を聞かれていたということは?」
俺の言葉に女官さんはうなずいた。
「私もその可能性を考えておりました。城の要所を警備している衛士の話によりますと、姫さまは確かにこちらの部屋の前までは訪れたとの確認が取れております。その後どこかに走って行くところを、何人かの使用人に目撃されてもいます」
「この城の見取り図……は、見せてもらえませんよね、さすがに……」
城の見取り図など、機密中の機密である。
一介の冒険者どころか、勇者にだってみせられないだろう。
「そ、それは、さすがに……わたくしも、目にしたことはないので」
そりゃあそうか。
「それじゃあ、簡単な略図でいいので、姫さまの目撃情報があったお城のだいたいの場所に、印をつけて描いてもらえないでしょうか? 探索が終わったら必ず破棄すると誓います」
「その方のおっしゃる通りにしなさい」
女官さんがさすがに迷っていると、海洋公が姿を現して、俺の後押しをしてくれた。
俺は慌てて膝を突いて頭を垂れる。
「俺にそのようにあらたまる必要はない。勇者さまのお師匠殿」
うわあ、海洋公までその歌を聞いたのか?
「ああ、そうそう秘密でしたな」
海洋公は、疲れた顔でありながら、少しだけ茶目っ気のある笑みを見せた。
「ええっと……」
「カリオカ殿、うちの従者を困らせないでもらおう。それよりも、大事なのはパーニャ姫のことだろう?」
さすがにどう答えていいのかわからなくなっていたら、勇者の助けが入った。
正直ありがたい。
「正に。……あの子は遅くに出来た娘でしてな。あまり厳しいことを言わずに育てたもので、少々、お転婆に育ってしまったようだ。此度のこと、いたずらであったら、きつく叱ってやらねば」
「そういうことは後でしょう。今は娘さんの心配だけしてあげてください」
あ、思わず言ってしまった。
俺の考えが間違ってなければ、パーニャ姫は、父親のために行動しているはずなんだ。
その父親が叱ることを前提にしていては報われない。
「その通りだな。ありがとう」
「いえ、失礼な物言いをしてしまって申し訳ありません」
俺みたいな平民に頭を下げるとは……。
いや、勇者の師匠だと思っているから出来ることか。
とりあえず話がついたので、城の略図を描いてもらい、目撃情報があった地点に印を付けていく。
「城を下っているのは間違いないようですね。この最後の目撃情報があった場所はどこですか?」
「倉庫がある中庭です。城に出入りしている行商人が荷降ろしをする場所の近くで、姫さまはよくそこで荷降ろしを眺めていらっしゃいましたから、誰も姫さまを見ても不思議には思わなかったようです。ただ、すぐに姿が見えなくなったので、おかしいとは感じたようですが……あっ」
女官さんも気づいたようだ。
「フォルテ」
「ピャ!」
フォルテをテラスから外へと飛ばす。
気づいたのがだいぶ遅かったから、もし出入りの行商人の荷車にまぎれていたとしても、もう追えないかもしれない。
城という場所では、入る荷物は厳しくチェックするが、帰りの荷車を調べるということはほとんどないのだ。
どれかの荷車に、姫さまが潜り込んでいたとしても見逃していただろう。
「ダスター、私も」
「メルリルは言葉か声を拾うんだろ? さすがに範囲が広すぎる……いや、待てよ」
海洋公との話を立ち聞きしたとして、パーニャ姫はどう行動するだろうか? 海洋公は港湾の担当官に憤っていた。自分の身を魔物に食わせるとまで言ったのだ。
と、すると……。
「港だ。閣下、パーニャ姫は港の場所をご存知ですか?」
「幼き頃から何度も訪れておる」
俺はうなずいて、メルリルに言った。
「港周辺に限定して、パーニャ姫の声を拾えるか?」
「やってみる」
後は、メルリルの耳とフォルテの目が頼りだな。
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