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第八章 真なる聖剣
812 礼儀知らずには鉄槌を
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奥方さまの挨拶には多少戸惑ったものの、次から次へと運び込まれる料理は、確かに素晴らしいものだった。
見たことのない料理も多く、勉強にもなったし、なんというか、本当に自由に食べていいとのことで、長テーブルの他に、ソファーやクッションも持ち込まれていた。
さらには、個人専用の背の低いワゴンも人数分持ち出されて、料理を乗せて移動出来るようにしてくれる。
パーニャ姫とルフは、大人達と一緒の席だと何を言われるかわからないと思ったのか、隅っこのほうのソファー席に引っ込んで、侍女さんにせっせと料理を運び込んでもらっている。
どうも内容が、食事よりもお菓子中心となっているように見えた。
それと、パーニャ姫は、豆料理が苦手のようだ。
「師匠、これは美味いな」
「ああ、それな」
勇者はもう遠慮せずに師匠呼びが固定してしまった。
俺が訂正するのを諦めたということを察知したらしい。
勘がいい奴め。
今回の料理で勇者のお気に入りは、溶かしたチーズを、煮た野菜に掛けるというものだ。
さらに、表面を炙った生に近い肉と一緒に食べると、もっと美味いということを発見したようである。
生に近い料理というのは、腹を壊さないかと不安があるが、説明によると、状態のいい羊肉は、生でも食べられるのだとか。
大連合のほうでは、祭りの際には殺したばかりの子羊の肉を生のまま、ナイフで削ぎながら香草と一緒に食べるとのこと。
この羊料理も、どうやら大連合のほうから伝わって来たものらしい。
というか、それはその香草に毒消し作用があるのでは? との疑念も拭えないが、いつも食べている人達が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
実際、表面を炙った肉は、岩塩を振っただけの状態でも、びっくりするほど美味かった。
ちなみに、先程から俺達に料理の説明をしてくれているのは、海洋公その人だ。
俺とメルリル、勇者と聖騎士がまとまっているところへやって来て、給仕のような真似を始めたので、慌てて俺がそれを代わった。
すると、今度は料理の詳しい説明を始めたのだ。
俺としては、興味のある話だったこともあって、断ることも出来ずに、場違い感溢れる状況での食事となったのである。
メルリルなんか、最初ものすごく緊張していたんだが、海洋公が冗談混じりに、食べ物にまつわる面白い話などを始めると、肩の力も抜けて、笑顔も浮かべるようになっていた。
「屠殺人は、一番元気のいい羊を選ぼうとしますが、そのことを羊のほうも知っていて、屠殺人の目前ではうなだれたり、横たわったりしてみせるのですが、背後では空高く跳ね回っているのですよ」
「ぜひ見てみたいものだな」
「勇者さまがお見えになったら、より高く飛んでみせようとして、空から降りられなくなる羊が出てしまうかもしれませんな」
「まぁ」
というような感じで、思わず笑っている。
海洋公は、話の合間合間に従者に指示を出して、話題にした料理や飲み物などを運ばせていた。
間の取り方が絶妙に上手い人だ。
「クルル……」
さっきまで珍しい果物を楽し気につついていたフォルテが、舞い戻って来て、うつらうつらしている。
ちらりとテーブルの反対側を見ると、奥方と女官さんが聖女とモンクの相手をしているようだ。
奥方は相変わらず無表情だが、時折笑い声が上がっているので、緊張した場になっているという訳でもないらしい。
俺の見るところ、女官さんが巧みにフォローをしているようだった。
メインの料理が終わり、酒が振る舞われると、侍女さんがパーニャ姫とルフを一緒に別室へと案内して行く。
「このワインは海を渡って来た帝国のものでしてな。礼儀知らずで傲慢な帝国は好きではありませんが、ワインには罪はありません。そこで、我が国のハチミツを使って、ちくりとひと刺ししたものを皆さんに味わっていただこうと思った次第で」
「なるほど、帝国の海を渡って来たワイン……か」
勇者も、海洋公が何を言いたいのかわかり、意識を食いしん坊モードから勇者モードへと切り替えたようだ。
「ということは、カリオカ殿も海賊の本拠地は帝国であると考えているということだな」
「勇者殿は、ものごとに手を加えず、そのまま味わうほうがお好きですか?」
海洋公が微笑みながら問う。
「上品な言い回しで、本質のわかりにくい話をするのは嫌いだ」
「そうですな。そのほうが清々しい。俺は、貴族とは韜晦した会話を楽しめてこそ、と、教わって来たのですが、ゲームじみた言葉遊びは、ときに物事の本質を見失ってしまうものですからな」
「会話が下手で悪かったな」
「まさか。実はですな、俺にも、下品と言われるのを知りながら、たまには船乗り達のように、ワインを直接瓶からラッパ呑みしてみたいという誘惑に、抗えないときがあるのです」
「コホン」
海洋公が勇者の性急さを肯定するために、ワインのたとえ話を出したときだった。
テーブルの向こうで、奥方が少し強めに咳払いしてみせたのだ。
「ああして、愛する女性には嫌われてしまうので、滅多にやりませんがね」
そう言って、片目をつむってみせた。
「そうだな。それではまるで、素性の悪い、酒場によくいるタイプの男だ」
それへ勇者が遠慮なく被せて行く。
「ものごとには、程度というものがある」
お前、ちょっと言い過ぎだろ? ワイン飲みすぎてないか?
「確かに。賊というものは程度を知らない。ときには叱ってやることも大切でしょう」
さすがと言うか、海洋公は、勇者の言葉に気を悪くすることなく、話をまとめてくれた。
そんな感じに、俺が港で仕入れて来た情報の提供と、今後の海賊に対する方針についての話し合いは、始まったのである。
見たことのない料理も多く、勉強にもなったし、なんというか、本当に自由に食べていいとのことで、長テーブルの他に、ソファーやクッションも持ち込まれていた。
さらには、個人専用の背の低いワゴンも人数分持ち出されて、料理を乗せて移動出来るようにしてくれる。
パーニャ姫とルフは、大人達と一緒の席だと何を言われるかわからないと思ったのか、隅っこのほうのソファー席に引っ込んで、侍女さんにせっせと料理を運び込んでもらっている。
どうも内容が、食事よりもお菓子中心となっているように見えた。
それと、パーニャ姫は、豆料理が苦手のようだ。
「師匠、これは美味いな」
「ああ、それな」
勇者はもう遠慮せずに師匠呼びが固定してしまった。
俺が訂正するのを諦めたということを察知したらしい。
勘がいい奴め。
今回の料理で勇者のお気に入りは、溶かしたチーズを、煮た野菜に掛けるというものだ。
さらに、表面を炙った生に近い肉と一緒に食べると、もっと美味いということを発見したようである。
生に近い料理というのは、腹を壊さないかと不安があるが、説明によると、状態のいい羊肉は、生でも食べられるのだとか。
大連合のほうでは、祭りの際には殺したばかりの子羊の肉を生のまま、ナイフで削ぎながら香草と一緒に食べるとのこと。
この羊料理も、どうやら大連合のほうから伝わって来たものらしい。
というか、それはその香草に毒消し作用があるのでは? との疑念も拭えないが、いつも食べている人達が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
実際、表面を炙った肉は、岩塩を振っただけの状態でも、びっくりするほど美味かった。
ちなみに、先程から俺達に料理の説明をしてくれているのは、海洋公その人だ。
俺とメルリル、勇者と聖騎士がまとまっているところへやって来て、給仕のような真似を始めたので、慌てて俺がそれを代わった。
すると、今度は料理の詳しい説明を始めたのだ。
俺としては、興味のある話だったこともあって、断ることも出来ずに、場違い感溢れる状況での食事となったのである。
メルリルなんか、最初ものすごく緊張していたんだが、海洋公が冗談混じりに、食べ物にまつわる面白い話などを始めると、肩の力も抜けて、笑顔も浮かべるようになっていた。
「屠殺人は、一番元気のいい羊を選ぼうとしますが、そのことを羊のほうも知っていて、屠殺人の目前ではうなだれたり、横たわったりしてみせるのですが、背後では空高く跳ね回っているのですよ」
「ぜひ見てみたいものだな」
「勇者さまがお見えになったら、より高く飛んでみせようとして、空から降りられなくなる羊が出てしまうかもしれませんな」
「まぁ」
というような感じで、思わず笑っている。
海洋公は、話の合間合間に従者に指示を出して、話題にした料理や飲み物などを運ばせていた。
間の取り方が絶妙に上手い人だ。
「クルル……」
さっきまで珍しい果物を楽し気につついていたフォルテが、舞い戻って来て、うつらうつらしている。
ちらりとテーブルの反対側を見ると、奥方と女官さんが聖女とモンクの相手をしているようだ。
奥方は相変わらず無表情だが、時折笑い声が上がっているので、緊張した場になっているという訳でもないらしい。
俺の見るところ、女官さんが巧みにフォローをしているようだった。
メインの料理が終わり、酒が振る舞われると、侍女さんがパーニャ姫とルフを一緒に別室へと案内して行く。
「このワインは海を渡って来た帝国のものでしてな。礼儀知らずで傲慢な帝国は好きではありませんが、ワインには罪はありません。そこで、我が国のハチミツを使って、ちくりとひと刺ししたものを皆さんに味わっていただこうと思った次第で」
「なるほど、帝国の海を渡って来たワイン……か」
勇者も、海洋公が何を言いたいのかわかり、意識を食いしん坊モードから勇者モードへと切り替えたようだ。
「ということは、カリオカ殿も海賊の本拠地は帝国であると考えているということだな」
「勇者殿は、ものごとに手を加えず、そのまま味わうほうがお好きですか?」
海洋公が微笑みながら問う。
「上品な言い回しで、本質のわかりにくい話をするのは嫌いだ」
「そうですな。そのほうが清々しい。俺は、貴族とは韜晦した会話を楽しめてこそ、と、教わって来たのですが、ゲームじみた言葉遊びは、ときに物事の本質を見失ってしまうものですからな」
「会話が下手で悪かったな」
「まさか。実はですな、俺にも、下品と言われるのを知りながら、たまには船乗り達のように、ワインを直接瓶からラッパ呑みしてみたいという誘惑に、抗えないときがあるのです」
「コホン」
海洋公が勇者の性急さを肯定するために、ワインのたとえ話を出したときだった。
テーブルの向こうで、奥方が少し強めに咳払いしてみせたのだ。
「ああして、愛する女性には嫌われてしまうので、滅多にやりませんがね」
そう言って、片目をつむってみせた。
「そうだな。それではまるで、素性の悪い、酒場によくいるタイプの男だ」
それへ勇者が遠慮なく被せて行く。
「ものごとには、程度というものがある」
お前、ちょっと言い過ぎだろ? ワイン飲みすぎてないか?
「確かに。賊というものは程度を知らない。ときには叱ってやることも大切でしょう」
さすがと言うか、海洋公は、勇者の言葉に気を悪くすることなく、話をまとめてくれた。
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