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第八章 真なる聖剣

811 ホームパーティ

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 この日の夕食は、海洋公一家に俺達が招かれる形で、夕食会が開かれることとなった。
 貴族の夕食会と聞いて、俺は遠慮しようとしたのだが、堅苦しいものではなく、親しい友人を招いて開くアットホームな食事会であると強く主張されて、半ば無理やりに参加させられたのだ。

「服装などは気にせず、みなさんが一番楽な格好でいらしてください」

 とのことで、不安ながら、武装なしの普段着という、少々無茶な服装で参加することにする。
 駄目で追い出されたらそれはそれでいいからな。
 メルリルには遠慮せずにきれいなドレスを着るようにと言ったんだが、森人の布を重ねる衣装に、冒険者仕様のマントという、これまた普通なら失礼になる服を選んでしまった。

 もしかして俺のせいか?
 こういうときの服装ってパートナーに合わせるらしいからな。

 まぁ俺達はそれでもまだマシなほうだった。
 勇者なんか、シャツにズボンという、普通自室でしかしないような服で行くと言ったので、さすがに止めたが「なんでもいいんだから、なんでもいいんだろ」という子どものような理屈でそのまま押し通してしまう。

 貴族的に言うと、ほぼ下着という格好だ。
 さすがの女官さんも、苦笑いをしていた。

 一方で、聖女とモンクは、クローゼットに置いてあった服から選んで、普段とは違うおしゃれをしてみたようだ。
 普段は着ないふんわりとしたドレスの聖女も、お城の侍女さんのようなちょっと可愛いスカートドレスを着たモンクも、新鮮な可愛らしさがあった。
 二人はメルリルにもおしゃれをするように勧めたみたいだったんだが、メルリルが頑として譲らなかったのだ。

「おしゃれするのもいいけど、ダスターの相棒として隣に座りたいから」

 などと言われてしまい。
 俺はしばらく顔が上げられないほど照れてしまった。

 聖騎士はさすがに鎧は諦めたようだが、鎖帷子姿というものものしさだ。
 というか、全員バラバラすぎるだろ?
 まぁ俺達らしいか。

 そしてガッチガチに固まって、まともに動けてない様子のルフは、大公国北部の民族服でもあるという、毛織の短いマントと、黒いズボンという組み合わせで、いいところのお坊ちゃん感を醸し出していた。
 うん、大丈夫。
 俺達のなかでは、一番マトモな見た目の男だ。

 途中、警備の兵士に何度も見直されてしまったが、特に止められることもなく、州公の家族用の食堂に通された。
 
「おお。よくぞおいでくださった。歓迎いたしますぞ!」

 自ら立ち上がって迎えてくれた海洋公は、なるほどラフな格好をしている。
 少し裕福な商人が仕事中に着ているような服装だ。
 シャツに毛織物の派手な柄のベスト、ズボンは、幅広のサッシュベルトで留めている。
 ちょっと州公とは思えないような服装だ。

 次に椅子から立って挨拶してくれたのは、可愛らしく着飾ったパーニャ姫である。
 大変可愛い。
 ちょっと聖女とおそろい感のある服装で、二人並べると姉妹のように見えるかもしれなかった。
 まぁ顔立ちや髪の色とかが全然違うけどな。

 パーニャ姫は、なにやらテーブルを回り込んでルフのところまで走り寄り、手を引っ張って自分の隣に座らせてしまう。
 おお、まだ幼いのに可愛い女の子にモテるとは、将来が心配になるな。
 ルフが助けを求めるような視線をこっちに向けて来たが、それは野暮というものだろう。
 楽しくお話をしてあげるといい。

 さて、最後にもう一人、見覚えのない女性がいた。
 海洋公とまるで対比でもするかのように、痩せてひょろっと背の高い女性だ。
 藍色の髪を高く結って、磨いた鉄のようなまなざしをこちらに向けている。

 ドレスを着ているが、髪にもドレスにも、華やかな飾りは一つもなく、下手をすると喪に服している女性のようにも見えた。
 とは言え、ドレスは濃い青色で、決して忌み時に着るようなものではないんだが、きつく結んだ口元といい、厳格なイメージがドレスの色を暗く見せてしまうのだろう。

 今回の夕食会の主題的に、あれが海洋公の奥方に間違いない。
 大層な威圧感だ。
 下手をすると、この奥方のほうが、海洋公という称号のイメージに近いのではなかろうか。

 ふと、以前出会った富国公の奥方を思い出す。
 顔立ちはそれほど似てないのだが、雰囲気はそっくりだ。

「今宵は……」

 その奥方が口を開いた。

「我が娘の恩人の為に、精一杯のおもてなしをさせていただきます。礼儀などのうるさいことは何も言いませぬゆえ、自由にお楽しみください。テーブル一杯にご馳走を用意させていただきますので、椅子にきっちり座る必要もありません。立って食べても、主人の席を奪っても、床に寝転がって食べていただいてもかまいません」

 シーンと、場が静まり返った。
 これは、もしかして場を和ませる冗談なんだろうか?
 いや、そういう風に自由にしてくれという宣言?
 あまりにも厳格な物言いなので、奥方の真意を測りかねて、どう応じていいのかわからない。
 勇者ですら、困惑したように奥方を見ていた。

「ウォッホン。奥よ。まずは自己紹介をしなさい。貴女は勇者さま方に初対面であろう?」

 海洋公が、勇者の正面でにっこりと笑顔を浮かべながら、奥さんに助け舟を出した。
 言われて、奥方が赤面する。
 表情は一切変わらないが、ほんのり赤くなってるよな?

「わたくしとしたことが、みなさま方にお目にかかれたことで舞い上がってしまったようです。わたくしはこちらの州公閣下の妻であり、みなさま方にお世話になった、パーニャの母でもあります。名はペリーナ・ルサ・カリオカです。どうぞお見知りおきを」

 そっとドレスの裾を摘んで、少女のような挨拶をしてみせた。

「見ての通り、うちの奥は少々お茶目でな。びっくりしたと思うが、許してやってくれ」
「お茶目……?」

 海洋公の言葉にものすごい違和感がある。
 今の自己紹介でも、表情はぴくりとも動かなかったのだ。
 うーん。女性ってのは、つくづく謎多き存在だなぁ。
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