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第八章 真なる聖剣
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ロスト辺境伯の城は、岩山を掘って作られたものだ。
入口は洞窟をアーチ型に削った形で、今どきの城の様式からは完全に外れている。
だが、天然の岩石によって形作られた城は、千年のときを経て、未だに頑強を誇っていた。
まぁ当時の魔王さま、アドミニス殿が造ったんだろうな。
その、威容を誇る城の前に、騎乗した、城主、ロスト辺境伯が待ち受けていた。
……なんで騎乗しているんだ?
なんかデカい槍も持っているぞ。
辺境伯殿に睨まれる形となってしまい、御者台に座っている俺とメルリルは、緊張で体が硬直する。
怖い、怖いぞ。
緊張しながらも、無礼にならない距離を保って城門前で馬車を止める。
「ようこそおいでくださった! 名高き勇者殿よ!」
ロスト辺境伯が大音声で呼ばわった。
耳が痛い。
失礼にあたるから耳を塞げないのが辛い。
素早く、勇者と聖女、さらには聖騎士とモンクが馬車から降りる。
ルフには、降りる必要はないとあらかじめ言ってあるので、このいたたまれない雰囲気を、直接味わわなくて済むだろう。
「ミュリア!」
「はい」
怒ってるのか、感激しているのか、判断のつかない声で、ロスト辺境伯は、我が娘である聖女の名前を呼んだ。
呼応する聖女の声は、優しく落ち着いたものである。
「元気であったか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか!」
なぜ怒鳴るように話すのか?
よくよく様子を観察してみると、辺境伯の体はブルブルと震え、目に涙が溜まっている。
ああ、なるほど、激情をやっと抑えている状態なのか。
「ときに勇者殿」
「なんだ?」
あの状態の辺境伯に向かって、いつも通りに返せる勇者の度胸も凄いな。
「あの手紙は、どのような理由があってのものか! 返答次第では、私にも考えがある!」
どんな考えだろう?
「お父さま。聖なるブローディファさまにお父さまを説得していただくことにしたのは、わたくしの考えです」
聖女がはっきりと言う。
「うぬう」
ギリッと、辺境伯が奥歯を噛みしめる音が、俺のところにまで聞こえた。
「……」
何かを言おうとして言葉が出ないようだ。
そのとき、背後からゆっくりとおいでになったのは、聖女の御母上、ロスト夫人である。
聖女によく似た顔立ちで、未だ若く美しい女性だ。
「あなたさま。このようなところで立ち話をなさってはいけませんわ。勇者さま方は長旅でお疲れでしょう。ぜひ城内で、ゆっくりしていただかないと」
「そ、そうであるな」
ロスト辺境伯の手が激しくブルブルと震える。
槍を持つ手に力が入りすぎているのだ。
聖騎士が、その様子を油断なく視界の端に捉えているのがわかる。
「長旅の疲れを我が城で癒やしていただきたい。どうぞ、城内へ」
やがてなんとか自分の激情を抑え込んだのか、そう告げると、ロスト辺境伯は、馬上のまま踵を返して城門をくぐった。
勇者達も再び馬車に乗り込み、その後に続く。
騎士達は無言で、一糸の乱れもない。
前も思ったが、この領地は、騎士はもちろん兵士も、聖女に対する感情はともかくとして、武人としての練度は、今まで見て来たどの領地の兵士よりも高いな。
鎧を着込んでいる騎士は、一度も金属のこすれる音を立てなかったし、兵士達も、引くのも集うのも素早い。
さすがは国境を守る辺境伯領というところだろう。
勇者達は、城の入口で馬車から降り、案内に従って城内に入った。
馬車のなかに勇者達と一緒に乗っている以上、ルフも一緒に行動せざるを得ない。
俺とメルリルは、いつもの通り、馬車を所定の位置まで移動させる。
馬車を止めると、馬の世話係らしき男が駆け寄って来たが、カラクリの馬に驚いていた。
「この馬車は、ディスタスの大公陛下からの賜りものなので、丁寧に扱ってください」
そう告げると、ひどく恐縮されたが、丁寧に取り扱うと受け合ってくれた。
俺達は、使用人の使う裏口に案内されて、使用人用の食堂に通される。
「まだ、お客人方のお部屋が決まってないんで、こちらで休んでいてもらえるか?」
朴訥な雰囲気の初老の男性が申し訳なさそうにそう言った。
「勇者さま方の近くに控えておくことは出来ませんか?」
「あまりお勧めしないよ。ご領主さまが大層お怒りだったからね。とばっちりがあるといけないし。まぁご領主さまは、寛大なお方だから、従者に八つ当たりなんかなさらないだろうが」
どうやら俺達の身を案じて、あえて勇者達とは離して休ませてくれたようだ。
気遣いが嬉しい。
「それはありがたい。ですが、実は訳あって、勇者さま方と一緒に、平民の子どもがいるのです。あの子も関係ないのに怖い思いをするとかわいそうで。せめて俺達が一緒にいてやったら安心すると思うのですが……」
「それは本当かね? そりゃあ心細いだろうな。わかった。ご領主さまが、お客人のおられる部屋へ参られるまで時間がある。控えの部屋へ入れてあげるから、こっそり子どもを連れ出すといい」
「ありがたい。恩に着ます」
「なに。ご領主さまも、少々お嬢さまの件で感情が落ち着かないだけで、根はいいお方だ。心配するようなことはないだろう。だが、子どもなら、何もなくとも、偉い方と一緒だと気疲れするだろうからな」
そう言って、使用人用の通路を使って、応接間の控室まで案内してくれた。
控室にはドアはなく、壁掛けに見せかけたカーテンによって入口が仕切られている。
隙間からそっと応接間の様子を窺う。
使用人の男性が言っていたように、まだ辺境伯は来てないようだ。
ルフが、聖女の隣で居心地悪そうに座っている。
あ、勇者と聖騎士がこっちを見た。
勇者がうなずいて、ルフを立たせてこちらへと行くように言ってくれたようだ。
ルフが泣きそうな顔で小走りにやって来る。
こういう優しさを、もっと他人に示せばいいのにな。
入口は洞窟をアーチ型に削った形で、今どきの城の様式からは完全に外れている。
だが、天然の岩石によって形作られた城は、千年のときを経て、未だに頑強を誇っていた。
まぁ当時の魔王さま、アドミニス殿が造ったんだろうな。
その、威容を誇る城の前に、騎乗した、城主、ロスト辺境伯が待ち受けていた。
……なんで騎乗しているんだ?
なんかデカい槍も持っているぞ。
辺境伯殿に睨まれる形となってしまい、御者台に座っている俺とメルリルは、緊張で体が硬直する。
怖い、怖いぞ。
緊張しながらも、無礼にならない距離を保って城門前で馬車を止める。
「ようこそおいでくださった! 名高き勇者殿よ!」
ロスト辺境伯が大音声で呼ばわった。
耳が痛い。
失礼にあたるから耳を塞げないのが辛い。
素早く、勇者と聖女、さらには聖騎士とモンクが馬車から降りる。
ルフには、降りる必要はないとあらかじめ言ってあるので、このいたたまれない雰囲気を、直接味わわなくて済むだろう。
「ミュリア!」
「はい」
怒ってるのか、感激しているのか、判断のつかない声で、ロスト辺境伯は、我が娘である聖女の名前を呼んだ。
呼応する聖女の声は、優しく落ち着いたものである。
「元気であったか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか!」
なぜ怒鳴るように話すのか?
よくよく様子を観察してみると、辺境伯の体はブルブルと震え、目に涙が溜まっている。
ああ、なるほど、激情をやっと抑えている状態なのか。
「ときに勇者殿」
「なんだ?」
あの状態の辺境伯に向かって、いつも通りに返せる勇者の度胸も凄いな。
「あの手紙は、どのような理由があってのものか! 返答次第では、私にも考えがある!」
どんな考えだろう?
「お父さま。聖なるブローディファさまにお父さまを説得していただくことにしたのは、わたくしの考えです」
聖女がはっきりと言う。
「うぬう」
ギリッと、辺境伯が奥歯を噛みしめる音が、俺のところにまで聞こえた。
「……」
何かを言おうとして言葉が出ないようだ。
そのとき、背後からゆっくりとおいでになったのは、聖女の御母上、ロスト夫人である。
聖女によく似た顔立ちで、未だ若く美しい女性だ。
「あなたさま。このようなところで立ち話をなさってはいけませんわ。勇者さま方は長旅でお疲れでしょう。ぜひ城内で、ゆっくりしていただかないと」
「そ、そうであるな」
ロスト辺境伯の手が激しくブルブルと震える。
槍を持つ手に力が入りすぎているのだ。
聖騎士が、その様子を油断なく視界の端に捉えているのがわかる。
「長旅の疲れを我が城で癒やしていただきたい。どうぞ、城内へ」
やがてなんとか自分の激情を抑え込んだのか、そう告げると、ロスト辺境伯は、馬上のまま踵を返して城門をくぐった。
勇者達も再び馬車に乗り込み、その後に続く。
騎士達は無言で、一糸の乱れもない。
前も思ったが、この領地は、騎士はもちろん兵士も、聖女に対する感情はともかくとして、武人としての練度は、今まで見て来たどの領地の兵士よりも高いな。
鎧を着込んでいる騎士は、一度も金属のこすれる音を立てなかったし、兵士達も、引くのも集うのも素早い。
さすがは国境を守る辺境伯領というところだろう。
勇者達は、城の入口で馬車から降り、案内に従って城内に入った。
馬車のなかに勇者達と一緒に乗っている以上、ルフも一緒に行動せざるを得ない。
俺とメルリルは、いつもの通り、馬車を所定の位置まで移動させる。
馬車を止めると、馬の世話係らしき男が駆け寄って来たが、カラクリの馬に驚いていた。
「この馬車は、ディスタスの大公陛下からの賜りものなので、丁寧に扱ってください」
そう告げると、ひどく恐縮されたが、丁寧に取り扱うと受け合ってくれた。
俺達は、使用人の使う裏口に案内されて、使用人用の食堂に通される。
「まだ、お客人方のお部屋が決まってないんで、こちらで休んでいてもらえるか?」
朴訥な雰囲気の初老の男性が申し訳なさそうにそう言った。
「勇者さま方の近くに控えておくことは出来ませんか?」
「あまりお勧めしないよ。ご領主さまが大層お怒りだったからね。とばっちりがあるといけないし。まぁご領主さまは、寛大なお方だから、従者に八つ当たりなんかなさらないだろうが」
どうやら俺達の身を案じて、あえて勇者達とは離して休ませてくれたようだ。
気遣いが嬉しい。
「それはありがたい。ですが、実は訳あって、勇者さま方と一緒に、平民の子どもがいるのです。あの子も関係ないのに怖い思いをするとかわいそうで。せめて俺達が一緒にいてやったら安心すると思うのですが……」
「それは本当かね? そりゃあ心細いだろうな。わかった。ご領主さまが、お客人のおられる部屋へ参られるまで時間がある。控えの部屋へ入れてあげるから、こっそり子どもを連れ出すといい」
「ありがたい。恩に着ます」
「なに。ご領主さまも、少々お嬢さまの件で感情が落ち着かないだけで、根はいいお方だ。心配するようなことはないだろう。だが、子どもなら、何もなくとも、偉い方と一緒だと気疲れするだろうからな」
そう言って、使用人用の通路を使って、応接間の控室まで案内してくれた。
控室にはドアはなく、壁掛けに見せかけたカーテンによって入口が仕切られている。
隙間からそっと応接間の様子を窺う。
使用人の男性が言っていたように、まだ辺境伯は来てないようだ。
ルフが、聖女の隣で居心地悪そうに座っている。
あ、勇者と聖騎士がこっちを見た。
勇者がうなずいて、ルフを立たせてこちらへと行くように言ってくれたようだ。
ルフが泣きそうな顔で小走りにやって来る。
こういう優しさを、もっと他人に示せばいいのにな。
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