769 / 885
第八章 真なる聖剣
874 精霊の道
しおりを挟む
さて、メンバーは決まったら次はルートだが、その辺りはメルリルがいるからほとんど考える必要がない。
個人的には、メルリルの精霊の道が便利すぎて、森歩きの方法を忘れてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。
余裕があるときに自分の足で森を歩く鍛錬をしておいたほうがいいだろう。
人の体というものは、より楽なほうに慣れるからな。
甘やかすと、すぐに使い物にならなくなる。
自分自身に対しては、常に厳しいぐらいの姿勢でいるべきだ。
「メルリル、すまないがまた頼む」
「同じパーティでいちいちそういう風に頼むのっておかしい」
「む、そうか? どうも俺は固定でパーティを組んだ経験がないから、仲間との距離感を推し量るのが下手かもしれないな」
「師匠みたいなのは不器用って言うんだ」
勇者がいらんことを言ったので殴っておいた。
「痛い! 今ゴツン! って凄い音がしたぞ!」
なんかわめいているが無視をする。
「えっと、じゃあまたあのボロい橋を渡って、メルリルのきれいな道を使って森を抜ける感じね。わかった」
モンクがうなずいた。
「あの道を使うと、嫌な虫が出ないから好きなんだよね」
「きれいで、芳しいですよね。わたくし、神の盟約の神々しさにはいつも感動していましたけど、精霊という存在もまた、とても美しいものだと思います」
モンクの言葉にうなずいて、聖女がメルリルの道を褒める。
まぁモンクの主張と、聖女の褒めポイントはちょっとズレているとは思うけどな。
メルリルがちょっと赤くなって照れている。
可愛い。
「精霊は、美しい一面も、怖い一面もありますけど、世界そのものの影のような存在なのです。だから精霊を美しいと感じるということは、世界をあるがままに受け入れているということでもあります。とても大切なことなのですよ」
メルリルはちょっと巫女モードに入って精霊について説明した。
秘密主義ということもないのだろうが、メルリルは自分からあまり巫女や精霊について語ることはない。
おそらくは、平野人との感覚の違いを考えて、あえて口にしたりはしないのだと思う。
だから、こういう一面を見せてくれるのは、新鮮で、嬉しい。
「前に、人によって見えるものは違うと言っていたな」
「うん。もし世界を憎んでいる人があの道を通ったら、怖ろしい場所に感じるんだと思う。まだ、そういう人に道を使わせたことがないからわからないけど」
「……それって、攻撃手段としても有効じゃないか?」
俺の言葉に、メルリルはうなずいた。
「実際、里に侵入しようとする悪人を里に近づけないために、里の周りに壁のように張り巡らせていた時期があると口伝で聞いた」
「あー、なるほどな」
もともとはそういう使い方だった訳か。
距離を縮めるということは、距離を広げることも出来る訳で、それこそ俺達が精霊の世界に迷い込んだときのように、永遠に精霊の道のなかを歩き続けるみたいなことに、意図的にすることも出来るということだ。
敵も味方も傷つかずに無力化出来るから、かなり強力な護りと言えるだろう。
しかも善意と悪意の自動判別付きか。
俺はまだまだ森人という種族を、ひいてはメルリルを過小評価していたようだ。
「あ、あの……」
メルリルが、何か焦ったように俺を見た。
「私が怖い?」
「えっ?」
何かの比喩的な表現かと思ったが、目を見ると、かなり不安の色が見える。
いきなりどうした?
「そんなこと、思ったこともないぞ。メルリルにはもちろん、精霊にも、出会えてよかったよ。俺の人生を豊かにしてくれてありがとう」
「はうっ、……そ、それならよかった」
今度は真っ赤になって照れ出した。
いかんな、俺は女心が全くわからないようだ。
メルリルが何を心配していて、今何に照れているのかさっぱりわからん。
「ふう。ダスターとメルリルを見ていると、天然って生涯治らない病みたいなものだなって思う」
なにやらモンクが失礼なことを言い始めた。
「俺は天然じゃないぞ」
「天然な人って、自分じゃ気づかないものだから」
「テスタ、師匠に失礼だぞ。誰だって気にしていることはあるんだ。師匠ののろけと髪の毛には触れてはダメなんだからな」
「アルフ、お前、出立前にちょっと魔力なしの組み手をやろうか? 何、ちょっと関節をきしませる程度だから安心しろ」
「えっ! それ、絶対痛いやつだろ、今から遠出するんだから、やめよう? 師匠」
「そうですね。若葉とのやりとりで思いましたが、魔力が減ったときに身を守る技の一つは持っていたほうがいいかもしれません」
「クルス、お前、何マジになってるんだ? 師匠はともかく、お前は手加減一切しないだろ? 絶対嫌だからな」
うんうん、聖騎士も乗り気だし、ちょっと魔力を封じて、身一つでどこまで出来るかやってみようか、勇者。
何、どんなに酷いことになっても、聖女がいるから、すぐに治してもらえるぞ?
個人的には、メルリルの精霊の道が便利すぎて、森歩きの方法を忘れてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。
余裕があるときに自分の足で森を歩く鍛錬をしておいたほうがいいだろう。
人の体というものは、より楽なほうに慣れるからな。
甘やかすと、すぐに使い物にならなくなる。
自分自身に対しては、常に厳しいぐらいの姿勢でいるべきだ。
「メルリル、すまないがまた頼む」
「同じパーティでいちいちそういう風に頼むのっておかしい」
「む、そうか? どうも俺は固定でパーティを組んだ経験がないから、仲間との距離感を推し量るのが下手かもしれないな」
「師匠みたいなのは不器用って言うんだ」
勇者がいらんことを言ったので殴っておいた。
「痛い! 今ゴツン! って凄い音がしたぞ!」
なんかわめいているが無視をする。
「えっと、じゃあまたあのボロい橋を渡って、メルリルのきれいな道を使って森を抜ける感じね。わかった」
モンクがうなずいた。
「あの道を使うと、嫌な虫が出ないから好きなんだよね」
「きれいで、芳しいですよね。わたくし、神の盟約の神々しさにはいつも感動していましたけど、精霊という存在もまた、とても美しいものだと思います」
モンクの言葉にうなずいて、聖女がメルリルの道を褒める。
まぁモンクの主張と、聖女の褒めポイントはちょっとズレているとは思うけどな。
メルリルがちょっと赤くなって照れている。
可愛い。
「精霊は、美しい一面も、怖い一面もありますけど、世界そのものの影のような存在なのです。だから精霊を美しいと感じるということは、世界をあるがままに受け入れているということでもあります。とても大切なことなのですよ」
メルリルはちょっと巫女モードに入って精霊について説明した。
秘密主義ということもないのだろうが、メルリルは自分からあまり巫女や精霊について語ることはない。
おそらくは、平野人との感覚の違いを考えて、あえて口にしたりはしないのだと思う。
だから、こういう一面を見せてくれるのは、新鮮で、嬉しい。
「前に、人によって見えるものは違うと言っていたな」
「うん。もし世界を憎んでいる人があの道を通ったら、怖ろしい場所に感じるんだと思う。まだ、そういう人に道を使わせたことがないからわからないけど」
「……それって、攻撃手段としても有効じゃないか?」
俺の言葉に、メルリルはうなずいた。
「実際、里に侵入しようとする悪人を里に近づけないために、里の周りに壁のように張り巡らせていた時期があると口伝で聞いた」
「あー、なるほどな」
もともとはそういう使い方だった訳か。
距離を縮めるということは、距離を広げることも出来る訳で、それこそ俺達が精霊の世界に迷い込んだときのように、永遠に精霊の道のなかを歩き続けるみたいなことに、意図的にすることも出来るということだ。
敵も味方も傷つかずに無力化出来るから、かなり強力な護りと言えるだろう。
しかも善意と悪意の自動判別付きか。
俺はまだまだ森人という種族を、ひいてはメルリルを過小評価していたようだ。
「あ、あの……」
メルリルが、何か焦ったように俺を見た。
「私が怖い?」
「えっ?」
何かの比喩的な表現かと思ったが、目を見ると、かなり不安の色が見える。
いきなりどうした?
「そんなこと、思ったこともないぞ。メルリルにはもちろん、精霊にも、出会えてよかったよ。俺の人生を豊かにしてくれてありがとう」
「はうっ、……そ、それならよかった」
今度は真っ赤になって照れ出した。
いかんな、俺は女心が全くわからないようだ。
メルリルが何を心配していて、今何に照れているのかさっぱりわからん。
「ふう。ダスターとメルリルを見ていると、天然って生涯治らない病みたいなものだなって思う」
なにやらモンクが失礼なことを言い始めた。
「俺は天然じゃないぞ」
「天然な人って、自分じゃ気づかないものだから」
「テスタ、師匠に失礼だぞ。誰だって気にしていることはあるんだ。師匠ののろけと髪の毛には触れてはダメなんだからな」
「アルフ、お前、出立前にちょっと魔力なしの組み手をやろうか? 何、ちょっと関節をきしませる程度だから安心しろ」
「えっ! それ、絶対痛いやつだろ、今から遠出するんだから、やめよう? 師匠」
「そうですね。若葉とのやりとりで思いましたが、魔力が減ったときに身を守る技の一つは持っていたほうがいいかもしれません」
「クルス、お前、何マジになってるんだ? 師匠はともかく、お前は手加減一切しないだろ? 絶対嫌だからな」
うんうん、聖騎士も乗り気だし、ちょっと魔力を封じて、身一つでどこまで出来るかやってみようか、勇者。
何、どんなに酷いことになっても、聖女がいるから、すぐに治してもらえるぞ?
22
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。