勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

874 精霊の道

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 さて、メンバーは決まったら次はルートだが、その辺りはメルリルがいるからほとんど考える必要がない。
 個人的には、メルリルの精霊メイスの道が便利すぎて、森歩きの方法を忘れてしまうんじゃないかと心配になるほどだ。
 余裕があるときに自分の足で森を歩く鍛錬をしておいたほうがいいだろう。
 人の体というものは、より楽なほうに慣れるからな。
 甘やかすと、すぐに使い物にならなくなる。
 自分自身に対しては、常に厳しいぐらいの姿勢でいるべきだ。

「メルリル、すまないがまた頼む」
「同じパーティでいちいちそういう風に頼むのっておかしい」
「む、そうか? どうも俺は固定でパーティを組んだ経験がないから、仲間との距離感を推し量るのが下手かもしれないな」
「師匠みたいなのは不器用って言うんだ」

 勇者がいらんことを言ったので殴っておいた。

「痛い! 今ゴツン! って凄い音がしたぞ!」

 なんかわめいているが無視をする。

「えっと、じゃあまたあのボロい橋を渡って、メルリルのきれいな道を使って森を抜ける感じね。わかった」

 モンクがうなずいた。

「あの道を使うと、嫌な虫が出ないから好きなんだよね」
「きれいで、芳しいですよね。わたくし、神の盟約の神々しさにはいつも感動していましたけど、精霊という存在もまた、とても美しいものだと思います」

 モンクの言葉にうなずいて、聖女がメルリルの道を褒める。
 まぁモンクの主張と、聖女の褒めポイントはちょっとズレているとは思うけどな。
 メルリルがちょっと赤くなって照れている。
 可愛い。

精霊メイスは、美しい一面も、怖い一面もありますけど、世界そのものの影のような存在なのです。だから精霊メイスを美しいと感じるということは、世界をあるがままに受け入れているということでもあります。とても大切なことなのですよ」

 メルリルはちょっと巫女メッセリモードに入って精霊メイスについて説明した。
 秘密主義ということもないのだろうが、メルリルは自分からあまり巫女メッセリ精霊メイスについて語ることはない。
 おそらくは、平野人との感覚の違いを考えて、あえて口にしたりはしないのだと思う。
 だから、こういう一面を見せてくれるのは、新鮮で、嬉しい。

「前に、人によって見えるものは違うと言っていたな」
「うん。もし世界を憎んでいる人があの道を通ったら、怖ろしい場所に感じるんだと思う。まだ、そういう人に道を使わせたことがないからわからないけど」
「……それって、攻撃手段としても有効じゃないか?」

 俺の言葉に、メルリルはうなずいた。

「実際、里に侵入しようとする悪人を里に近づけないために、里の周りに壁のように張り巡らせていた時期があると口伝で聞いた」
「あー、なるほどな」

 もともとはそういう使い方だった訳か。
 距離を縮めるということは、距離を広げることも出来る訳で、それこそ俺達が精霊の世界に迷い込んだときのように、永遠に精霊メイスの道のなかを歩き続けるみたいなことに、意図的にすることも出来るということだ。
 敵も味方も傷つかずに無力化出来るから、かなり強力な護りと言えるだろう。
 しかも善意と悪意の自動判別付きか。
 俺はまだまだ森人という種族を、ひいてはメルリルを過小評価していたようだ。

「あ、あの……」

 メルリルが、何か焦ったように俺を見た。

「私が怖い?」
「えっ?」

 何かの比喩的な表現かと思ったが、目を見ると、かなり不安の色が見える。
 いきなりどうした?

「そんなこと、思ったこともないぞ。メルリルにはもちろん、精霊メイスにも、出会えてよかったよ。俺の人生を豊かにしてくれてありがとう」
「はうっ、……そ、それならよかった」

 今度は真っ赤になって照れ出した。
 いかんな、俺は女心が全くわからないようだ。
 メルリルが何を心配していて、今何に照れているのかさっぱりわからん。

「ふう。ダスターとメルリルを見ていると、天然って生涯治らない病みたいなものだなって思う」

 なにやらモンクが失礼なことを言い始めた。
 
「俺は天然じゃないぞ」
「天然な人って、自分じゃ気づかないものだから」
「テスタ、師匠に失礼だぞ。誰だって気にしていることはあるんだ。師匠ののろけと髪の毛には触れてはダメなんだからな」
「アルフ、お前、出立前にちょっと魔力なしの組み手をやろうか? 何、ちょっと関節をきしませる程度だから安心しろ」
「えっ! それ、絶対痛いやつだろ、今から遠出するんだから、やめよう? 師匠」
「そうですね。若葉とのやりとりで思いましたが、魔力が減ったときに身を守る技の一つは持っていたほうがいいかもしれません」
「クルス、お前、何マジになってるんだ? 師匠はともかく、お前は手加減一切しないだろ? 絶対嫌だからな」
 
 うんうん、聖騎士も乗り気だし、ちょっと魔力を封じて、身一つでどこまで出来るかやってみようか、勇者。
 何、どんなに酷いことになっても、聖女がいるから、すぐに治してもらえるぞ?
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