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いと小さきものは月を見る
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ここは小さな世界。
ここの外に別の世界があることを僕は知っている。
だけど『外』の世界を僕は知らない。
ここから出たことがないからだ。
ここにいるみんなはさまざまな姿をしている。
ふわふわだったりツルツルだったり、硬かったり柔らかだったり、大きかったり小さかったり。
「あ、月だ!」
小さな穴。
それが外の世界とつながる唯一の通路。
小さな小さな空だけが見える。
それが空であることも、そこに瞬くのが星であることも、白くて美しい輝きが月であることも僕は大きな仲間に教えてもらった。
空や星はしょっちゅう見ることが出来るのだけど、月は滅多に見ることが出来ない。
月は見るごとに姿を変えて現れる。
その変化の見事さときたら! ああ、なんて美しいんだろう。
月は僕の憧れだった。
「坊や」
大きくてふわふわの仲間が僕を呼んだ。
僕の呼び名はだいたい坊や。
たまに坊主とか、ガキとか言う仲間もいるけどね。
「月が好きかい?」
「うん。いつまで見ていても飽きないよ」
「そうかい。外の世界に出ることが出来れば、いつまででも見ていられるんだけどね」
ふわふわの仲間は申し訳なさそうに言った。
そう……、月が穴から見えるのは、ほんのわずかな時間。
しばらくするとどこかへと行ってしまって、長い間戻って来ない。
「いいよ。僕、ここが好きだよ」
「ンガガッ!」
大きくて硬い仲間が怒ったように吠える。
と言っても、僕に怒った訳じゃないんだよ。
僕たちをここに閉じ込めた相手に、彼はずっと怒っているんだ。
でも僕は『外』を知らないし、閉じ込められたときにはまだ生まれていなかったから、特に不満はない。
仲間もいるしね。
「いや、外に出れらる日は近いぞ」
小さくて熱い仲間が囁く。
この仲間は、一時もとどまらずにあちこちを飛び回っている。
僕たちのいる小さな世界のわずかな変化も見逃さない。
だから、その言葉はかなり確かだ。ざわりと、眠っていた仲間たちが次々と起き上がった。
「それはまことか?」
冷たくてツルツルしている仲間がシューシューと息を吐きながら言った。
「つなぎ目に風を感じた。何者かがこれをこじ開けようとしている」
おおっ! と、歓声があがった。
そんなモノ好きがいるなんて、『外』はきっと奇妙な世界なんだろうな。
「坊主、外に出たらやることは覚えているか?」
「うん。ええっと、まずみんなに名前を与える」
ブブーッと、小さくて丸い仲間がダメ出しをした。
「それは最初の次だよ」
言われて、僕は頭をひねった。
あ、思い出した。ついやりたいことを最初に回してしまったらしい。
「だ、大丈夫、ちゃんと覚えているよ。ええっと、最初は召喚主の口を封じる。だったっけ?」
ちなみに召喚主というのはこの小さな世界を壊すモノのことだ。
そいつがこの世界を壊してしまうから僕たちは外に出るしかなくなる。
迷惑だよね。
「そうそう、再び封じられてはたまらないからな」
「でも、口を封じるってよくわからないんだよね。……そういうときは全部壊せばいいんだっけ?」
「ええ。周囲にあるモノを全て壊してしまえば自動的に召喚主は滅びますからね」
「外に出たら宴じゃぞ!」
「宴なら、ここでいつだってやってるじゃないか」
僕は笑った。
まぁいいか。
僕自身は別に『外』に憧れは感じないけど、月をずっと見ていられるのはいいなと思うから。
「外の者たちが忘れてしまった暗闇を、我らが取り戻すのです」
「おかしなことを言うね。暗闇はどこにだってあるだろ?」
「外では違うのですよ」
「それは……住みにくそうだね」
「だから住みやすくするのですよ。何もかも暴き立てる暴力的な光を隠し、癒し眠らせる暗闇の世界を広げる。坊やはその世界の主になるのです」
「ここと何も変わらないみたいだけど?」
「ちょっとだけ広いんですよ」
「そうか、ちょっとだけ広いのか」
「月も常にありますし」
「月が常にあるのか!」
なんだかほんの少しだけ『外』にわくわくして来た。
そうだ! 月にも別の名前をつけてあげてもいいんじゃないかな? いいよね?
はぁ……召喚主、まだかなぁ。
ここの外に別の世界があることを僕は知っている。
だけど『外』の世界を僕は知らない。
ここから出たことがないからだ。
ここにいるみんなはさまざまな姿をしている。
ふわふわだったりツルツルだったり、硬かったり柔らかだったり、大きかったり小さかったり。
「あ、月だ!」
小さな穴。
それが外の世界とつながる唯一の通路。
小さな小さな空だけが見える。
それが空であることも、そこに瞬くのが星であることも、白くて美しい輝きが月であることも僕は大きな仲間に教えてもらった。
空や星はしょっちゅう見ることが出来るのだけど、月は滅多に見ることが出来ない。
月は見るごとに姿を変えて現れる。
その変化の見事さときたら! ああ、なんて美しいんだろう。
月は僕の憧れだった。
「坊や」
大きくてふわふわの仲間が僕を呼んだ。
僕の呼び名はだいたい坊や。
たまに坊主とか、ガキとか言う仲間もいるけどね。
「月が好きかい?」
「うん。いつまで見ていても飽きないよ」
「そうかい。外の世界に出ることが出来れば、いつまででも見ていられるんだけどね」
ふわふわの仲間は申し訳なさそうに言った。
そう……、月が穴から見えるのは、ほんのわずかな時間。
しばらくするとどこかへと行ってしまって、長い間戻って来ない。
「いいよ。僕、ここが好きだよ」
「ンガガッ!」
大きくて硬い仲間が怒ったように吠える。
と言っても、僕に怒った訳じゃないんだよ。
僕たちをここに閉じ込めた相手に、彼はずっと怒っているんだ。
でも僕は『外』を知らないし、閉じ込められたときにはまだ生まれていなかったから、特に不満はない。
仲間もいるしね。
「いや、外に出れらる日は近いぞ」
小さくて熱い仲間が囁く。
この仲間は、一時もとどまらずにあちこちを飛び回っている。
僕たちのいる小さな世界のわずかな変化も見逃さない。
だから、その言葉はかなり確かだ。ざわりと、眠っていた仲間たちが次々と起き上がった。
「それはまことか?」
冷たくてツルツルしている仲間がシューシューと息を吐きながら言った。
「つなぎ目に風を感じた。何者かがこれをこじ開けようとしている」
おおっ! と、歓声があがった。
そんなモノ好きがいるなんて、『外』はきっと奇妙な世界なんだろうな。
「坊主、外に出たらやることは覚えているか?」
「うん。ええっと、まずみんなに名前を与える」
ブブーッと、小さくて丸い仲間がダメ出しをした。
「それは最初の次だよ」
言われて、僕は頭をひねった。
あ、思い出した。ついやりたいことを最初に回してしまったらしい。
「だ、大丈夫、ちゃんと覚えているよ。ええっと、最初は召喚主の口を封じる。だったっけ?」
ちなみに召喚主というのはこの小さな世界を壊すモノのことだ。
そいつがこの世界を壊してしまうから僕たちは外に出るしかなくなる。
迷惑だよね。
「そうそう、再び封じられてはたまらないからな」
「でも、口を封じるってよくわからないんだよね。……そういうときは全部壊せばいいんだっけ?」
「ええ。周囲にあるモノを全て壊してしまえば自動的に召喚主は滅びますからね」
「外に出たら宴じゃぞ!」
「宴なら、ここでいつだってやってるじゃないか」
僕は笑った。
まぁいいか。
僕自身は別に『外』に憧れは感じないけど、月をずっと見ていられるのはいいなと思うから。
「外の者たちが忘れてしまった暗闇を、我らが取り戻すのです」
「おかしなことを言うね。暗闇はどこにだってあるだろ?」
「外では違うのですよ」
「それは……住みにくそうだね」
「だから住みやすくするのですよ。何もかも暴き立てる暴力的な光を隠し、癒し眠らせる暗闇の世界を広げる。坊やはその世界の主になるのです」
「ここと何も変わらないみたいだけど?」
「ちょっとだけ広いんですよ」
「そうか、ちょっとだけ広いのか」
「月も常にありますし」
「月が常にあるのか!」
なんだかほんの少しだけ『外』にわくわくして来た。
そうだ! 月にも別の名前をつけてあげてもいいんじゃないかな? いいよね?
はぁ……召喚主、まだかなぁ。
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