いと小さきものは月を見る

蒼衣翼

文字の大きさ
1 / 1

いと小さきものは月を見る

しおりを挟む
 ここは小さな世界。
 ここの外に別の世界があることを僕は知っている。
 だけど『外』の世界を僕は知らない。
 ここから出たことがないからだ。

 ここにいるみんなはさまざまな姿をしている。
 ふわふわだったりツルツルだったり、硬かったり柔らかだったり、大きかったり小さかったり。

「あ、月だ!」

 小さな穴。
 それが外の世界とつながる唯一の通路。
 小さな小さな空だけが見える。
 それが空であることも、そこに瞬くのが星であることも、白くて美しい輝きが月であることも僕は大きな仲間に教えてもらった。

 空や星はしょっちゅう見ることが出来るのだけど、月は滅多に見ることが出来ない。
 月は見るごとに姿を変えて現れる。
 その変化の見事さときたら! ああ、なんて美しいんだろう。
 月は僕の憧れだった。

「坊や」

 大きくてふわふわの仲間が僕を呼んだ。
 僕の呼び名はだいたい坊や。
 たまに坊主とか、ガキとか言う仲間もいるけどね。

「月が好きかい?」
「うん。いつまで見ていても飽きないよ」
「そうかい。外の世界に出ることが出来れば、いつまででも見ていられるんだけどね」

 ふわふわの仲間は申し訳なさそうに言った。
 そう……、月が穴から見えるのは、ほんのわずかな時間。
 しばらくするとどこかへと行ってしまって、長い間戻って来ない。

「いいよ。僕、ここが好きだよ」
「ンガガッ!」

 大きくて硬い仲間が怒ったように吠える。
 と言っても、僕に怒った訳じゃないんだよ。
 僕たちをここに閉じ込めた相手に、彼はずっと怒っているんだ。
 でも僕は『外』を知らないし、閉じ込められたときにはまだ生まれていなかったから、特に不満はない。
 仲間もいるしね。

「いや、外に出れらる日は近いぞ」

 小さくて熱い仲間が囁く。
 この仲間は、一時もとどまらずにあちこちを飛び回っている。
 僕たちのいる小さな世界のわずかな変化も見逃さない。

 だから、その言葉はかなり確かだ。ざわりと、眠っていた仲間たちが次々と起き上がった。

「それはまことか?」

 冷たくてツルツルしている仲間がシューシューと息を吐きながら言った。

「つなぎ目に風を感じた。何者かがこれをこじ開けようとしている」

 おおっ! と、歓声があがった。
 そんなモノ好きがいるなんて、『外』はきっと奇妙な世界なんだろうな。

「坊主、外に出たらやることは覚えているか?」
「うん。ええっと、まずみんなに名前を与える」

 ブブーッと、小さくて丸い仲間がダメ出しをした。

「それは最初の次だよ」

 言われて、僕は頭をひねった。
 あ、思い出した。ついやりたいことを最初に回してしまったらしい。

「だ、大丈夫、ちゃんと覚えているよ。ええっと、最初は召喚主の口を封じる。だったっけ?」

 ちなみに召喚主というのはこの小さな世界を壊すモノのことだ。
 そいつがこの世界を壊してしまうから僕たちは外に出るしかなくなる。
 迷惑だよね。

「そうそう、再び封じられてはたまらないからな」
「でも、口を封じるってよくわからないんだよね。……そういうときは全部壊せばいいんだっけ?」
「ええ。周囲にあるモノを全て壊してしまえば自動的に召喚主は滅びますからね」
「外に出たら宴じゃぞ!」
「宴なら、ここでいつだってやってるじゃないか」

 僕は笑った。
 まぁいいか。
 僕自身は別に『外』に憧れは感じないけど、月をずっと見ていられるのはいいなと思うから。

「外の者たちが忘れてしまった暗闇を、我らが取り戻すのです」
「おかしなことを言うね。暗闇はどこにだってあるだろ?」
「外では違うのですよ」
「それは……住みにくそうだね」
「だから住みやすくするのですよ。何もかも暴き立てる暴力的な光を隠し、癒し眠らせる暗闇の世界を広げる。坊やはその世界の主になるのです」
「ここと何も変わらないみたいだけど?」
「ちょっとだけ広いんですよ」
「そうか、ちょっとだけ広いのか」
「月も常にありますし」
「月が常にあるのか!」

 なんだかほんの少しだけ『外』にわくわくして来た。
 そうだ! 月にも別の名前をつけてあげてもいいんじゃないかな? いいよね?
 はぁ……召喚主、まだかなぁ。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

A・l・m
2020.04.21 A・l・m

『とりあえず全部壊す』
『えーっと、口を塞ぐんだっけ?』

 どちらでも面白そうですね。
もちろん『その他』でも良いのですけど。
物語は終わってしまったようですが、世界はまだまだ広がっていくようです。

 ま、他の作品を読みつつ、増えるのかそうではないのかをみていますね。

2020.04.22 蒼衣翼

いつも感想ありがとうございます!

この話は続きを想像して楽しんでもらおうと思って書いた話なので、いろいろ思い描いていただけたらうれしいです。
物語的には1話の前の0話という感じですね。

解除

あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話

といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。