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第14章 灘木くん、お風呂で癒される
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ラ・ヴィタ・ネラの寮浴場。
営業中のため誰もおらず、湯気の立ちのぼる広い湯船に、灘木はひとり肩まで浸かっていた。
日々の研修に疲れ切った身体を湯に沈め、灘木はゆっくりと目を閉じる。
Tバックの跡が微かに残る尻の付け根に湯がしみ、ズシリとした筋肉の疲労がじわじわと解けていく。
肩から背中、腰にかけて、うっすらと紅潮しながらも、灘木の鍛え上げられた肉体は静かに湯と同化していた。
腹部の起伏は微動だにせず、まるで湯船の中で呼吸する彫刻のようだった。
熱すぎず、ぬるすぎず、絶妙な温度の湯が、重くのしかかった一日の疲労を静かに溶かしてゆく。
「ふぅ……」
視線を落とせば、自分の胸から腹、そして太腿にかけて、あちこちに赤みと疲労の痕が浮かんでいる。
研修・ダンスレッスン・そして再び研修、、、全てが未体験で、全てが灘木の神経を削った。
天井を仰ぎ、目を閉じる。
何をやってるんだろう、、、俺、、、
フッと疑問が湧く。
気分が沈みかける。
いや、ダメだっ!
灘木は両手でお湯をすくい、顔にバシャバシャかける。
疑問を抱いちゃいけないっ!
これは、巨悪を暴く潜入捜査なのだっ!
己を鼓舞する。
俺は、その大任を任されて、一人ここにいるのだっ!
潜入捜査を成功させるためには、組織に馴染み、自分を仲間と信じさせなきゃいけないっ!
そのためなら屈辱を甘んじて受けなければっ!
その瞬間、頭の中でクラウディオの冷たい視線、エミリオのジトッとした目線、ミス・アキの甲高い言葉責めがフラッシュバックのように駆け巡る。
灘木は、思わず唇を噛み締め、無意識に湯の中で手を握り締めていた。
そのとき、、、
「おぉ、新人くん、入っていたか」
ガラリと引き戸が開き、ぬるりとした湯けむりの中から男の声がした。
真木だった。
いつもの控えめで人当たりのよい笑顔。
片手に連絡用か、スマホを持っている。
そして、灘木が一瞬目を向けたその身体は、完全に想定外だった。
「え?」
上着を脱ぎ、腰にタオルを巻いて入ってきた真木の身体は、灘木のそれにも劣らぬ、いや、それ以上に無駄のない鍛え上げられた筋肉で構成されていた。
服の上からは分からなかった肩幅、引き締まった広背筋、薄く隆起した腹筋。
そして何よりもその所作に隠された“自信”が、灘木には意外だった。
「真木さん……めっちゃ鍛えてたんですね……」
「ん? ま、昔ちょっとな」
そう言いながら、スマホを湯船の端に置き、ザッと湯をかぶると、湯船に入り、灘木の隣に腰を下ろす。
数秒の沈黙ののち、真木は優しい声で訊いた。
「どうだ? 初日、やってみて」
「もう、わけがわかんないですよ。ポーズとか、脱衣とか、ダンスまで……。何かにぶつかられてはじき返されてる感じです、ずっと」
「はは、まぁな……最初はみんなそうだよ。クラウディオもエミリオも、ミス・アキも、あれ“趣味”でやってる節あるからな……」
確かに、、、
灘木は吹き出しそうになるのをこらえながら、わずかに目を細めた。
誰かとこうして気楽に話すのは、今日初めてだった。
真木は意外に聞き上手で、灘木の愚痴を引き出しては、優しく相槌をうち、癒してくれる。
「ありがたいです。聞いてもらえるだけで、ちょっと楽になります」
灘木が礼を言うと、真木は黙ってうなずいた。
急に電子音が鳴る。
真木のスマホだ。
真木は、人差し指を唇にあて、黙っててと合図するとスマホを手に取る。
「もしもし。はい、、、はい、、、あぁ、今、混んでまして。手が空いているものは、、、ええ、、、あっ、ちょっとお待ちください、、、」
真木が、灘木を見る。
「試着するだけでよろしいんですよね、、、なら、一人おります、、、」
試着するだけ、、、?
一人、、、おります?
灘木は嫌な予感がする。
真木の目は灘木に向けられたままだ。
「少々、お待ちください、、、連れて参ります」
真木がスマホを耳から離す。
灘木の顔は強張っている。
「灘木くん、、、察したと思うけど、これからクラウディオのところに付き合ってくれ、、、」
ウグッ、、、
灘木は、キュッと喉を締められたような感覚になる。
クラウディオのところ、、、今日はもう解放されたと思ってたのに、、、
「俺が、、、ですか?」
「そう嫌な顔はするな、、、ボーイでもクラウディオの執務室に入れるなんて、滅多にないんだぞ。光栄だと思ってくれ」
ちょっと待て、、、
クラウディオの執務室、、、?
滅多に入れない?
だとしたら、何か掴めるかも、、、
「了解です。喜んでお供いたします」
「おお、ありがとう。新人のボーイをよこせと言われたんだが、店はちょうど混んでいてね。君がいて助かった。新人用に発注されてた“特注Tバック”の試作品が届いたらしいんだが、誰かに試着させて、布のズレとか、ポージングに支障がないか確認しておきたいらしい」
「げっ、、、」
クラウディオの執務室に潜入できるという希望に少しだけ影が差す。
「じゃ、行こうか、、、」
「お供します」
二人は湯船から立ち上がる。
立ち上がった灘木の背中から湯が滑り落ちる。
引き締まった尻と太腿、鍛えた背筋に一瞬だけ真木が目を細めたのには、灘木は気付かない。
営業中のため誰もおらず、湯気の立ちのぼる広い湯船に、灘木はひとり肩まで浸かっていた。
日々の研修に疲れ切った身体を湯に沈め、灘木はゆっくりと目を閉じる。
Tバックの跡が微かに残る尻の付け根に湯がしみ、ズシリとした筋肉の疲労がじわじわと解けていく。
肩から背中、腰にかけて、うっすらと紅潮しながらも、灘木の鍛え上げられた肉体は静かに湯と同化していた。
腹部の起伏は微動だにせず、まるで湯船の中で呼吸する彫刻のようだった。
熱すぎず、ぬるすぎず、絶妙な温度の湯が、重くのしかかった一日の疲労を静かに溶かしてゆく。
「ふぅ……」
視線を落とせば、自分の胸から腹、そして太腿にかけて、あちこちに赤みと疲労の痕が浮かんでいる。
研修・ダンスレッスン・そして再び研修、、、全てが未体験で、全てが灘木の神経を削った。
天井を仰ぎ、目を閉じる。
何をやってるんだろう、、、俺、、、
フッと疑問が湧く。
気分が沈みかける。
いや、ダメだっ!
灘木は両手でお湯をすくい、顔にバシャバシャかける。
疑問を抱いちゃいけないっ!
これは、巨悪を暴く潜入捜査なのだっ!
己を鼓舞する。
俺は、その大任を任されて、一人ここにいるのだっ!
潜入捜査を成功させるためには、組織に馴染み、自分を仲間と信じさせなきゃいけないっ!
そのためなら屈辱を甘んじて受けなければっ!
その瞬間、頭の中でクラウディオの冷たい視線、エミリオのジトッとした目線、ミス・アキの甲高い言葉責めがフラッシュバックのように駆け巡る。
灘木は、思わず唇を噛み締め、無意識に湯の中で手を握り締めていた。
そのとき、、、
「おぉ、新人くん、入っていたか」
ガラリと引き戸が開き、ぬるりとした湯けむりの中から男の声がした。
真木だった。
いつもの控えめで人当たりのよい笑顔。
片手に連絡用か、スマホを持っている。
そして、灘木が一瞬目を向けたその身体は、完全に想定外だった。
「え?」
上着を脱ぎ、腰にタオルを巻いて入ってきた真木の身体は、灘木のそれにも劣らぬ、いや、それ以上に無駄のない鍛え上げられた筋肉で構成されていた。
服の上からは分からなかった肩幅、引き締まった広背筋、薄く隆起した腹筋。
そして何よりもその所作に隠された“自信”が、灘木には意外だった。
「真木さん……めっちゃ鍛えてたんですね……」
「ん? ま、昔ちょっとな」
そう言いながら、スマホを湯船の端に置き、ザッと湯をかぶると、湯船に入り、灘木の隣に腰を下ろす。
数秒の沈黙ののち、真木は優しい声で訊いた。
「どうだ? 初日、やってみて」
「もう、わけがわかんないですよ。ポーズとか、脱衣とか、ダンスまで……。何かにぶつかられてはじき返されてる感じです、ずっと」
「はは、まぁな……最初はみんなそうだよ。クラウディオもエミリオも、ミス・アキも、あれ“趣味”でやってる節あるからな……」
確かに、、、
灘木は吹き出しそうになるのをこらえながら、わずかに目を細めた。
誰かとこうして気楽に話すのは、今日初めてだった。
真木は意外に聞き上手で、灘木の愚痴を引き出しては、優しく相槌をうち、癒してくれる。
「ありがたいです。聞いてもらえるだけで、ちょっと楽になります」
灘木が礼を言うと、真木は黙ってうなずいた。
急に電子音が鳴る。
真木のスマホだ。
真木は、人差し指を唇にあて、黙っててと合図するとスマホを手に取る。
「もしもし。はい、、、はい、、、あぁ、今、混んでまして。手が空いているものは、、、ええ、、、あっ、ちょっとお待ちください、、、」
真木が、灘木を見る。
「試着するだけでよろしいんですよね、、、なら、一人おります、、、」
試着するだけ、、、?
一人、、、おります?
灘木は嫌な予感がする。
真木の目は灘木に向けられたままだ。
「少々、お待ちください、、、連れて参ります」
真木がスマホを耳から離す。
灘木の顔は強張っている。
「灘木くん、、、察したと思うけど、これからクラウディオのところに付き合ってくれ、、、」
ウグッ、、、
灘木は、キュッと喉を締められたような感覚になる。
クラウディオのところ、、、今日はもう解放されたと思ってたのに、、、
「俺が、、、ですか?」
「そう嫌な顔はするな、、、ボーイでもクラウディオの執務室に入れるなんて、滅多にないんだぞ。光栄だと思ってくれ」
ちょっと待て、、、
クラウディオの執務室、、、?
滅多に入れない?
だとしたら、何か掴めるかも、、、
「了解です。喜んでお供いたします」
「おお、ありがとう。新人のボーイをよこせと言われたんだが、店はちょうど混んでいてね。君がいて助かった。新人用に発注されてた“特注Tバック”の試作品が届いたらしいんだが、誰かに試着させて、布のズレとか、ポージングに支障がないか確認しておきたいらしい」
「げっ、、、」
クラウディオの執務室に潜入できるという希望に少しだけ影が差す。
「じゃ、行こうか、、、」
「お供します」
二人は湯船から立ち上がる。
立ち上がった灘木の背中から湯が滑り落ちる。
引き締まった尻と太腿、鍛えた背筋に一瞬だけ真木が目を細めたのには、灘木は気付かない。
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