熱血警官・灘木雄馬の受難〜男娼館編

NAYUTA

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第16章 灘木くん、試着モデルとなる

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トントン

真木が静かにドアをノックする。

カチッと鍵の開く音がし、真木は、「失礼します」と声を掛けながら扉を開けた。

真木に続き、灘木も「失礼します」と言いながら部屋に入った。

灘木はその異様な空気に足を止めた。

冷たく反射するステンレス製のテーブル。

整然とした椅子の列。

壁際には、筋骨隆々の男性像がいくつも並ぶ。

「灘木くん、遅い時間によく来てくれた。その衣装を試着してくれ」

クラウディオが顎で示したのは、ビニールの小袋に入った、新品のTバック。

「え?これ、試着用、ですか?」

こ、この布切れが、衣装、、、

灘木は戸惑う。

「そう。新人用に発注していた“特注品”なんだが、、、どうにも布のズレが出やすいらしくてね。実際に履いてもらって、ポーズを取って支障がないか、確認しておきたい」

真木は壁に寄りかかりながら、あくまで他人事のように肩をすくめた。

「本当は他の子をあてがうつもりだったんだが、今、新人達は接客中でね、一人も手が空いてなくてな。たまたま灘木しか残ってなかったんだ」

「あ、ああ……なるほど……」

灘木は納得しかけながらも、どこか釈然としない感覚を抱いた。

だが、任務のためだ――クラウディオの部屋に入る好機など、そう何度もあるわけではない。

意を決し、灘木はTバックを手に取った。

「じゃあ、着替える場所は――」

「ここでいいよ」

「……ッ!」

 返答が早すぎる。

まるで、それを言うのを待ち構えていたかのようだった。

灘木は目をそらしながら、シャツを脱ぎ、

ズボンを下ろす。

冷たい空気が、肌に触れる。

「……くぅ……」

特注Tバックの布はやや厚手で、身体の動きに応じてわずかに布地がズレる。

それをクラウディオはじっと見つめていた。

「そこ、もう一歩前に出て。そう、今度は右脚を引いて。腰を落として――おや、そこで布が引っかかるな……ふむ、面白い」

その視線に耐えながらも、灘木の目は、静かに部屋の奥を探っていた。

(……この壁の彫像、どれも台座の高さが違う? いや……一体だけ、床と微妙に隙間がある。しかも、あの像の腕、手が何かを握るような形に……)

不自然な構造。

これは明らかに、仕掛けだ。

(隠し扉……?)

その瞬間、クラウディオが立ち上がった。

「どうかした? 妙に、そわそわしてるように見えるけど……」

「い、いえっ! その……ちょっと……恥ずかしいだけで!」

 「ふふ、そう。恥ずかしがる君も、また美しいよ、、、じゃあ、次は……そうだね。この姿勢をとってみて」

クラウディオが、部屋の片隅に置かれた大理石像のひとつを指差した。

彫像は、背筋を伸ばし片脚を上げた、優雅かつ挑発的なポージング。

明らかに灘木の柔軟性と羞恥心を試す構えだった。

「……こ、これ……無理じゃ……っ」

「できる範囲でいいよ。うん、ほら、腰をもう少し落として。手は頭の後ろ……そうそう、その顔、悪くない」

灘木の太腿が震え、背筋には冷たい汗が伝う。

Tバックの布地はポーズによってさらに食い込み、見ている者の視線を誘うように艶めいていた。

「ふふ……思っていたより、“使える”かもしれないな……」

 クラウディオは小さく呟き、椅子に身を沈めた。

言葉には出さなかったが、明日の接待――ドバイの富豪が来る夜に、この灘木をあてがう構想が、心中で固まりつつあった。

まだ未熟で、ぎこちない。

だが、だからこそ“初々しさ”を求めるあの富豪には、最適だ。

灘木は、その視線の意味に気づかぬまま、ようやくポーズを解き、息を整えた。

「よし。今日の確認はこれでいい。着替えて下がって構わないよ」

「は、はい……ありがとうございました……っ」

灘木が軽く礼をして退室すると、真木も後に続いた。

部屋に再び静寂が戻る。

クラウディオは、深く椅子に沈みながら、ふと手元のスマートフォンを取り出す。

数秒の沈黙の後、画面に指を滑らせ、通話を繋いだ。

「……あ、ミス・アキ? 頼みがあるんだ」

声は穏やかだったが、その奥に含まれる“演出家”としての熱を、ミス・アキは受話器越しに感じ取ったに違いない。

クラウディオの目が、彫像越しの扉の奥を、じっと見据えていた。
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