『Make the King Cry』《メイク・ザ・キング・クライ》  ──王者に涙を

NAYUTA

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再起の日

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第9章「逆転の胎動」

リングに再び王が立つ。その事実だけで、場内は熱を帯びていた。

「本日、魂のスパーリング再戦──“元王者”鷹城大牙 vs. “新星”三崎陸翔!」

実況の声が響き渡るなか、静かな闘志を纏って鷹城が入場する。その姿に、観客はしばし言葉を失った。
かつての威光とは違う。
今の彼から漂うのは、敗北と再生を刻み込んだ、“覚悟”そのものだった。

「……全身、締まったな。まるで、あの試合の直後とは別人だ」

リングサイドの解説者が呟く。

片や、三崎はいつものように自信に満ちた笑みを浮かべながら現れる。だがその瞳には、確かに尊敬にも似た警戒があった。
“この男は、戻ってきた”。

開始のゴングと同時に、火花が散った。

互いの掌が交錯する。鷹城の右ミドル、三崎がブロック。即座に返すローキックが鷹城の太腿を打ち抜き、打撃音が会場に響く。

「ッぐ……!」

顔をしかめながらも、鷹城はその脚を引かず、逆に踏み込む。拳が、肘が、肩が、幾度も交錯し、汗が飛び散るたび、観客席からどよめきが漏れる。

「お互い、一歩も引かないですね……!」

実況席の熱のこもった声がかすかに聞こえる。

鷹城は左腕で三崎のラリアットを受け止め、腕を巻き取るようにしてショートレンジのジャーマンを狙う。しかし、三崎は驚異的なバランスで耐え、そのまま後方回転して抜ける。

「動きが……読まれてる……!」

鷹城が呻く。

が、それでも動きを止めない。体が軋む音がするような速度で、再びタックルに入る。膝を折って腰を落とし、三崎の重心を崩す──が、そこに三崎の膝が鋭く突き上げられ、鷹城の顎をとらえた。

「ガッ……!」

ふらつく。リングが一瞬、遠のく。

その隙を見逃すことなく、三崎が走る──

──リング中央、華麗なジャンピングニー!

鷹城の額に炸裂した一撃に、観客席から悲鳴のような歓声が上がる。

が、倒れない。

顎を上げ、まるで獣のように荒く息をしながら、鷹城は立っていた。

「……やっぱり、すげえよ、鷹城さん……!」

三崎の口元が、ほんのわずか緩む。

一瞬のスキ。そこに、鷹城の右が炸裂する。

ストレートではない。フックでもない。

原始的な、魂のこもった、ぶん殴るという意志そのもの──。

三崎の顔が弾け、よろめく。

「まだだ……まだ終わらせねえ!」

リングが揺れるような咆哮。

鷹城はそのまま、脇腹へ、顎へ、腹部へと渾身のラッシュを叩き込む。三崎がガードを上げるも、その上から拳の雨が降る。

「いけぇぇぇぇぇっ、鷹城ぉぉぉぉぉッ!!」

客席が爆発する。団体ロゴ入りのタオルが振られ、野太い声援が飛ぶ。

が、三崎も折れない。腹筋に力を入れ、歯を食いしばりながら、鷹城の拳を受ける。そして──次の瞬間、鷹城の腕を取って投げる。

「ぐ……!」

鷹城、マットに叩きつけられた背中を震わせながらも、すぐに立ち上がる。

「……来いよ、三崎。もう逃げねえ……!」

三崎は微笑みながら、ゆっくりと構える。

「……いいですね。俺、今、めちゃくちゃワクワクしてますよ、鷹城さん」

汗まみれの二人が、再び中央でぶつかる。

拳と拳が交わるたびに、場内の熱が上がっていく。

ここにあるのは、もはや若手と元王者という肩書ではない。

ただの、闘う男と男。

ただの、誇りと誇りのぶつかり合い。

そして、リングは、その魂の激突を正面から受け止めていた──。

ふたりの身体がぶつかる音が、もはや爆発音のように響いている。

三崎が掌底を放つ。

鷹城がヘッドスリップでそれをかわすと、腰を落として組み付く。

「……ッ! 持ち上げたッ! まさか──!」

実況が叫ぶ。

リング中央、鷹城が振り絞るようにして──三崎を高々と持ち上げる!

「幻影式──スープレックス……ッ、からの──延長戦だッ!」

一度目のスープレックス。マットに響く衝撃。

だが、鷹城は離さない。

そのままロールするように体勢を組み直し──再び持ち上げる!

「ツイン! ……いや、トリプルか!?」

二度目、三度目と、極限の投げを繋げていく鷹城の姿に、観客は総立ちになった。

「ぐあ……!」

さすがの三崎も意識が飛びかけ、背中を押さえながら呻く。

だが、鷹城の表情も限界を物語っていた。  

目尻が裂け、口元から血がにじんでいる。

だが、視線だけは、昔と同じ光を取り戻していた。

「……もう一発だ。これで、ケリをつける」

歯を食いしばり、鷹城が三崎を引き起こす。

「正面……? いや、まさか──!」

観客が息を飲んだその瞬間、

──正面から、ぶち抜くように投げた。

幻影式スープレックスの“完全版”。

三崎の背中がリングに激突し、場内に衝撃音と共に、叫びが走る。

「カバーに入った……! 鷹城、カバーだッ!」

レフェリーがスライディングし、マットを叩く。

「ワン……!」

「ツー……!」

「──」

直前、三崎が肩を上げた。

「ッッくそ……!」

鷹城はマットを叩く。だが、そこに悔しさはなかった。

やりきった。

そう言わんばかりの、清々しい顔だった。

──ゴングが鳴る。

時間切れ引き分け。それでも、誰も不満など口にしなかった。

観客席が、爆発するように揺れた。

「今の……今の鷹城は……“戻ってきた”だけじゃない……!」

解説者が、涙ぐみながら語る。

「……一度、地に堕ちた男が……こんなにも、熱く立ち上がるなんて……!」

場内全体が立ち上がり、拍手と歓声が渦巻く。

三崎は、起き上がった鷹城に肩を貸しながら、言った。

「鷹城さん。俺、あんたとなら……組んでもいいっすよ」

「……は?」

「まだ、その気があるならね」

鷹城は口元で笑った。試合の激闘で、頬にひびが入りかけたようなその笑顔に、観客が再び歓声を送る。

「あるさ。……昔より、ずっとな」

二人が肩を並べてリングに立つ姿に、スポットライトが差し込んだ。

“再起不能”と呼ばれた男が、再び闘いの中心に立った瞬間だった。

──ここからが、本当の「逆転」だ。
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