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タッグマッチ
しおりを挟む控え室のモニターに映るSNSのフィードは、嵐のように流れていた。
《まさかのタッグ結成──鷹城&三崎、時代の交錯》
《“絶対王者”復活の狼煙か?》
《魂が震えた……プロレスって、やっぱり凄い》
熱狂と嘲笑、期待と懐疑。
ありとあらゆる声が、言葉にならない感情ごと押し寄せてくる。
静まり返った控え室。
ロッカーの扉が軋む音すら、やけに耳に残る。
鷹城は汗の乾きかけたガウンを肩に掛け、ベンチに腰を下ろしていた。
傷だらけの手でペットボトルを握りしめる。
その中身は半分以上、試合中にこぼれて空になっている。
「なあ、三崎」
「はい」
「……本気で、俺と組むつもりか」
問いかける声に、疑念や照れはなかった。
ただ、確認するような静けさ。
三崎は答えず、ただ目を細めて笑った。
「自分の試合、観てたんですよ。……ちょっと前のやつ。勝ったのに、俺、全然楽しくなさそうで」
「……ああ」
「でも、鷹城さんとスパーやってる時の自分──あれ、めっちゃ楽しそうだった。……俺、ああいう顔、久しぶりにしたなって」
鷹城は黙って頷いた。
「だから組みます。俺と、鷹城さんで、“最強”を証明してやりましょうよ。……ただの思い出とか、伝説とかじゃなくて、今、“あんたが最強だ”って叫ばせるくらいのヤツを」
「……フッ、面倒くさいガキだな」
「はい。でも、俺に付き合ったの、あんたの方ですから」
軽口を交わす二人の空気には、張り詰めた緊張ではなく、戦友のような連帯感が生まれていた。
そのとき、控え室のドアがノックされる。
「次回大会のカード、正式決定です。対戦相手は──黒門&皇牙。メインイベント、タイトルマッチを含みます」
黒門。
かつて鷹城を育てた伝説的レスラー。
だが今は老いと傲慢に身を委ね、プロレスの神聖を商業主義に塗れさせた男。
「……黒門か。皮肉だな」
「因縁、ってやつですね。燃えますね」
鷹城はゆっくりと立ち上がる。
タオルで首元を拭いながら、天井を仰いだ。
「泣かせるぞ、三崎」
「ん?」
「黒門でも、観客でも……俺を見捨てた奴ら全部だ。リングの上で、俺の闘いで──心から泣かせてやる」
そう言って、鷹城は肩にガウンを羽織り直す。
あの日と同じ、赤のガウン。
だが、かつての王とは違う、今の王の覚悟がそこにあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、大会、タッグデビューの日がやってきた。
アリーナの照明が一斉に落ち、闇の中に重低音のビートが鳴り響く。
「さあ皆さま、お待たせしました……メインイベント、王の帰還──!」
リングアナウンサーの叫びに、観客がざわめき、興奮が膨れ上がっていく。
まずは、ヒールタッグ“黒門&皇牙”の登場する。
黒いガウンに身を包んだ黒門が、重たい足取りで花道を進む。
全盛期の面影はあるが、動きには鈍さが目立つ。
それでも、リングインするだけで空気が変わるのは、王者の記憶が残っているからだ。
皇牙は若手ながら粗暴なスタイルで鳴らし、鷹城に対してSNSで「もう老いぼれ」と挑発していた男だ。
そして、、、照明が一転した。
赤と白のスポットが交差し、爆音と共に入場曲が鳴り響く。
「入場です! “烈火の王者”鷹城大牙、“翔牙の新星”三崎陸翔ッ!!」
まず現れたのは三崎だ。
黒のロングタイツ、腰に鷹の羽を模した布飾りを下げ、鋭い目つきで観客を煽るように歩く。
だが、その口元には確かな笑みがある。
続いて鷹城が現れる。
赤いガウンを羽織り、リングに視線を送ったまま歩を進める。
リングサイドの観客が、息を呑む。
「……あれが、今の鷹城か」
「戻ってきた……いや、“進化してる”……!」
ガウンを脱いだ鷹城の肉体は、かつての王者時代とは違う。
研ぎ澄まされ、闘うためだけに鍛え上げられたような、純粋な“野生”を宿していた。
リングインすると、三崎と拳を合わせ、無言のまま背中を預ける。
ゴングが鳴り響く。
先発は三崎と皇牙の対戦。
序盤から、三崎がキレのあるムーヴで翻弄する。
ロープからのスライディングキック、旋回してのスイングDDT、さらに掌底の連打──!
「速い! 皇牙、全く追いつけない!」
だが、勢い余った隙に、皇牙のラリアットを喰らう。
「ぐっ……!」
「チッ……生意気なガキが!」
皇牙は三崎を抱え上げてコーナーに叩きつける。
連携で黒門が入ってくると、場内にどよめきが走る。
「おいでなすった……“悪の王”!」
黒門のストンピング、チョップ、エルボードロップ。
そのすべてが重く、三崎の体がマットを軋ませる。
観客から「タカジョウ!」のチャントが自然と湧き上がる。
そして──
三崎、這うようにしてコーナーへ。
「タッチしろ、三崎……!」
鷹城が腕を伸ばす。
三崎がその手に指を伸ばす。
「ッ、、、鷹城さんッ!!」
──タッチ。
鷹城がリングインした瞬間、場内の熱が一段階跳ね上がる。
「来たぞ、、、本物の“王”が!!」
次の瞬間、黒門の顔面に豪快なクローズラインが炸裂する。
そして、床を叩いて跳ね起きる皇牙に、ローリングエルボー。
「いけぇぇぇぇぇッ!!」
観客が叫ぶ。全身から力を絞るような、鷹城の咆哮が響いた。
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