『Make the King Cry』《メイク・ザ・キング・クライ》  ──王者に涙を

NAYUTA

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タイトルマッチ PART2 組み合う二つの筋肉

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両者がリング中央に歩み出る。

レフェリーが両者のグローブ、パッド、ブーツを丁寧にチェックする。

その間、顔を近づけるほどの距離で対峙する二人――

挑戦者・三崎 陸翔は、微かに口元を歪めるように笑っていた。

王者・鷹城 大牙は、それを一瞥し、唇を真一文字に結ぶ。

「お互いに一言も発さず、視線だけで火花が散っているッ! これは……会場の空気が凍りつくほどの睨み合いです!」

リングアナウンサーが絶叫する中、レフェリーは間に入り、最後の確認を行う。

「両選手、準備はいいか……? ルールは確認済みだな?」

二人は無言で頷く。

レフェリーがリング中央から退いた――

次の瞬間、ゴングが鳴り響く。

──カァァァンッ!!

「始まったァァァァアアッ!! 遂にこの時が来たッ! 若き黒豹・三崎! 王者・鷹城との頂上決戦ッ!」

観客席が一斉に総立ちになる。

地鳴りのような歓声がリングを包み込む。

「行けェェェェ三崎ィィ!!」

「鷹城さん絶対勝てぇぇぇッ!」

「潰せ! 王者ッ! 叩き潰せェッ!」

照明がリング中央に絞られ、二人の影が交錯する。

身体をわずかに屈めながら、じり、じりと間合いを詰める。

三崎の肉体が緊張により微かに震える。

その肩、広背筋、太腿に刻まれた筋線維が、まるで獣の如き静かな蠢動を見せていた。

対する鷹城も、胸板を大きく上下させながら、脚を固め、瞬時に動ける体勢を取っている。

大胸筋と腹筋の境に浮かぶ汗が、照明の光を反射し、玉のように美しかった。

「見てください! どちらも全身に神経を張り巡らせ、まさに一挙手一投足で相手を測っています! これは、いつ飛びかかってもおかしくないッ!」

そのとき――三崎がわずかにフェイントを入れた。

鷹城は即座に反応するが、三崎は仕掛けず、余裕の笑みを浮かべる。

「おっと、三崎が揺さぶりをかけた! これは精神戦かァ!?」

そして、ついに――

「組んだァァァァァッ!!」

二人の肉体が正面から激突するように、組み合った。

胸と胸がぶつかり、肩と肩がせめぎ合い、脚と脚が絡みつく。

鍛え抜かれた肉体同士が、まるで重戦車のように押し合い、会場が揺れたかのような錯覚が広がる。

「これは……凄まじいっ! 圧力と圧力のぶつかり合いッ! どちらが先に優位を取るのかッッ!」

観客席からは割れんばかりの叫び声が響く。

二人の猛者が中央でぶつかり合っている。

はじめに仕掛けたのは三崎だった。

低い体勢から滑り込むようにして足元に潜り込み、すかさず右足を旋回させる。

「いったぁあッ! 三崎、開幕一発目は――レッグスイープ!」

鋭い足払いが、大牙の左足首をえぐるように切り裂いた。

重心を奪われ、膝を割られた王者の巨躯が、ぐらりと揺れる。

咄嗟に踏みとどまろうとする大牙の太腿がきしみ、広背筋が硬く張るが――

「っぐ……!」

耐えきれず、片膝をマットに突いた。

「おぉっと! 鷹城が、早くも崩れたぞ! この立ち上がりは予想外だ!」

観客のどよめきが、波のように会場を包んでいく。

続けざまに、三崎が跳ねるように立ち上がり、その背後に回る。

一拍の間すら許さず、腰を取りに行った。

「うおおおおっ! 三崎、そこから一気に――!」

大牙の体が、鮮やかに宙を舞った。

「バックドロォオオオップ!!」

広い背中を反らせた三崎が、フルパワーで投げ上げた。

大牙の体はアーチを描いて逆さに落ち、リングに背中から激突する。

鈍い衝撃音が、マイクを通さずに観客席へと届いた。

「ぅぐっ……! が、っ……!」

仰向けに転がった王者が、眉をしかめながらも両腕を開き、呼吸を整えようとする。

腹が波打ち、胸筋がわずかに痙攣していた。

だが、三崎の動きは止まらない。

彼はゆっくりと立ち上がると、観客席へと顔を向け、リングの中央に仁王立ちする。

その肩は余裕に満ち、艶やかに汗を照らす照明が、黒いマントのような筋肉を際立たせる。

「ぉお……三崎が完全に試合を支配しているぞ……!」

実況席から、抑えきれない声が漏れた。

鷹城はすぐに立ち上がる。だが、その足取りは、明らかに重い。

ふらつきながら立ち上がるその姿は、かつての「絶対王者」の威厳を失いかけていた。

それを見た三崎は、にやりと笑って――

「鷹城さん、まさか、もうキツいんですか?」

わざと一歩、二歩と後退し、鷹城との距離をとった。

そのまま両手を広げ、回るようにリング中央をゆっくり歩く。

「……立てますよね? 王者なんだから」

観客が、どよめき始める。

鷹城の表情に苦悶が浮かぶ。額には汗。だが、彼は歯を食いしばって立ち上がる。

――そのとき。

三崎が、突然、リングの隅に走った。

「何をする!? 三崎、攻めずに逃げたのか!? いや違う、これは……!」

ロープに背を向けたかと思うと、三崎は反動をつけて戻ってくる。 

そして、鷹城が構えを取る直前――

鋭い右手が、真横から鷹城の頬を撃ち抜いた。

「ビンタだァァァッ!? なんという挑発! 鷹城の意識を――いや、これで戻った!?」

確かに、その瞬間、鷹城の目に火が灯る。

しかし、それこそが三崎の狙いだった。

――“ここで決めてしまうのは、まだ早い”。

彼は、勝つだけでは満足しない。

王者・鷹城を、皆の前で“見せて倒す”。それこそが三崎陸翔の戦いの信念だった。

「何故決めない!? これは三崎が遊んでいるのか!?」

実況席の声すら困惑に満ちていた。

観客の様子も、徐々に変化していく。

「おい、王者がやられてるぞ……!」 

「三崎って、こんなに強かったか?」

「今のビンタ、ヤバすぎるだろ……」

「完全に遊ばれてんじゃん……」

どよめき、ざわめき、そして熱狂。

一瞬たりとも、視線が外せない。

すでに、このリングの主導権は――完全に三崎の手の内だった。
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