30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

序7


 石壁の右の方に飛んで行く魔球。
 魔球に集中していると、それがゆっくりと、まるで止まっているかのようにぼくの目に見えてきた。

 石の壁の真横。
 ここだ。

 魔球を変化させる。
 変化球のように。
 東京ガイアンツのあの桑山投手のカーブのように。

 まがれぇ、いけぇ!!

 ぼくの願いが詰まった魔球が、左にゆっくりと曲がり……。

 ポスン。

 小さな音を立てて、相手に当たる。

 当たった?
 当たったんだ!

 やったぞ!
 倒したんだ!!

「えっ!?」

「あいつ!!」

 ちゃんと曲がった。
 魔力を上手に使えたのかどうか分からないけど、曲がって当たったんだ。

「うぉ! すごいぞ! コーキ、よくやった!!」

「ホント、最後にやってくれたわね」

 やったぁ!
 リーナとオズも喜んでいる。

 よかった。
 勝ったんだ。
 ぼくの力で……。

 うれしい。
 うれしい、うれしい!!

 やっと役に立てた。
 優勝したんだ!

 喜んでいるぼくにオズが飛びついてきた。
 そのまま頭をグシャグシャとなでてくる。

「よくやったぞ!」

 うん、ありがとう。
 でも、ちょっと痛い。
 痛いから、やめて。

「素直にほめるのね」

「そりゃ、そうだろ。こいつは、それだけのことをやったからな」

「フフフ、あれだけ戦力外だと言っていたのにね」

「まあ、それは……悪かったな、コーキ」

 あのエラそうなオズがぼくにあやまった。
 それに、ほめてくれた。

 ……悪いやつじゃないのかも。

「過ちを認められるのはあなたの美徳よね。過ちは多いけど」

「それ、ほめてるのかよ」

「さあ、どうかしら」

「チェッ。ホント、いい性格してるよな。コーキもそう思うだろ」

「えっと」

 そういうこと聞かれると困るんだけど。

「それにしても、コーキ、よくやったわね。おめでとう。そして、ありがとう」

 リーナもぼくの目を真っ直ぐに見てほめてくれた。
 感謝の言葉も。
 それに、すごい笑顔だ。

 こんな笑顔を見せてくれるんだ。
 ずっとクールな感じだったのに。
 なんだか照れるな。

 でも、良かったよ。
 勝てて本当に良かった。

 リーナもオズも喜んでくれている。
 ぼくも、すごくうれしい。

 それに、楽しい。
 この世界、すごく楽しい。


 3人でしばらく喜びあったあと。

「表彰式が始まるみたいよ」

「そうみたいだな」

「行きましょ」

 3人で試合会場の中に歩いて行くと。

「リーナ、まずいぞ」

「えっ?」

「あそこを見てみろ」

「見つかったみたいね。どうするの?」

「そんなの決まっている。逃げるぞ!」

 えっ、何?

 急に走り出した2人につられて、ぼくも走り出す。
 何が起こったのか、まったく分からないけど。

「くそっ、さすがあいつら素早いな」

「そりゃ、そうよ。今まで見つからなかったのが不思議なくらいだわ」

「ここで捕まったら、もう自由に外に出れないだろうな」

「オルドウにいる間はそうでしょうね」

「仕方ない。ここで別れるぞ。それで、あいつらをまいたら、また広場に集合だ」

「分かったわ」

 リーナとオズが別々の方向に走り出した。
 ぼくは……ぼくも仕方ないので、2人とはちがう方向に走る。

「……」

 でも、ぼくが逃げる必要ってあるのかな?
 必要ない気がする。

 そう思うと、急に走る気がなくなってしまった。

 これから、どうしよ?

 ひとりで歩いていると、さっき通った場所に戻って来たみたい。
 ここの横にある小さな道からやって来たんだよなぁ。

 ついさっきのことなのに、懐かしい気がしてしまう。
 だから、思わずその道に入ってしまったんだ。

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