30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

検証 8


「えい!」

 今度は中段に突きを放ってくると思いきや、突きの途中で木剣を斜め上に跳ね上げ剣先でこちらの胴を薙ぎにくる。

 面白い動きだが、動作が読みやすい。
 その木剣を左に捌き、身体を入れ替え三度対峙。

「……」

 今度はなかなか動かない。
 慎重に次の狙いを考えているようだ。
 その眼からは当初見られた苛立ちは消え、ただ剣のみに集中する気迫が感じられる。
 最初は、いきなりの稽古申し込みに心中穏やかじゃなかったんだろう。

 そりゃ、そうだよな。
 ギリオンさんも言っていたけど、この道場は基本的に来るもの拒まずで相手をしているようだし、最近はレイリュークさん目当てで、普段より来る剣士も多かったみたいだから。

 門弟にしてみたら有象無象の相手をするのは面倒だろう。
 俺もオルドウでは無名の剣士だから、最初の対応で門弟たちが煩わしいような雰囲気を出してたわ。

 でも、俺の動きを見て気持ちが切り替わったみたいだ。
 本気で剣を振るってくれるなら、こちらとしてもありがたい。

 カン、カン、カン!!

 幾度となく木剣を叩き合う音が道場に木霊する。
 壮年の剣士が本気になって打ち込んでくる木剣の動きは当初より随分と見るべきものがある。これがジルクール流剣術なんだなと感心させられる場面もあった。

 とはいえ……。

 これだけ打ち合うとさすがに明らかなのだが、率直に言って俺の相手ではない。
 最初に対峙した時点でもそう感じたのだが、ここは異世界。
 俺の知らないこと、分からないことだらけの世界。
 人の年齢さえ判別できないのに、一見しただけで剣を見切ったと言えるはずもない。

 ということで、もういいだろう。

 次の打ち込みに合わせ、こちらも前方に飛び込み木剣を一閃。

「そこまで」




 その後、もうひとりの門弟と立ち合ったのだが、こちらも同様に俺の相手ではなかった。この2人はギリオンさんの予想通り3番弟子と4番弟子とのこと。今道場には道場主も1番弟子も2番弟子もいないため、これ以上の立ち合いは遠慮することになった。

「コーキ殿の腕は素晴らしい。是非ともジルクール道場に入門して欲しいですな」

「ありがたいお誘いですが、オルドウには短期滞在の予定なのです。ですので、機会があればということで」

「それは残念ですな。コーキ殿ならジルクール流剣術を極めることも可能でしょうに」

「それは買い被りですよ。それに、今日はとても勉強になりましたし」

 これは本当の話。
 異世界の剣術の中には俺の知らない動きがいくつかあり、これはとても参考になった。
 それに、こと剣に関しては、この世界での俺の立ち位置が何となく分かった気がする。
 これはありがたい。
 うん、それなりにはやれるという自信がついたかな。

 まあ、あちらでは30年修行してきたし、それなりの実績も残してきたから、全く通用しないとは思っていなかったけど、それでも一安心だ。

「お世辞でも、そう言ってくださると我々としても嬉しい限りですな」

「いえ、本当です。未熟な私には良い勉強になりました」

「ご謙遜を。我ら相手には手を抜いても楽勝だったではないですか。とはいえ、次はそうはいきませんぞ。主もいますからな」

「はは……」

 まあ、手を抜いてるのは分かるよな。
 確かに、それも事実だけど。
 未熟だというのも事実だ。

 何より、俺には経験が足りていない。

「とにかく、オルドウ滞在中に時間があれば、またおいでいただきたい。当道場の主も喜ぶことでしょう」

「ええ、その際はよろしくお願いいたします」

「いやはや、貴殿のような強者と出会えるのだから、このような立ち合いも止められませんな」

 レイリュークさんと道場主とは立ち合いたい。
 また来るとしよう。
 そうそう、ギリオンさんとも立ち合いたい。

「では、お待ちしていますぞ」

「こちらこそ、次の機会を楽しみにしています」

 今日の道場訪問は本当に良い経験になった。
 そして、課題も浮き彫りになった。

 今日の立ち合いの中で、これが真剣だったらまずかったかもしれないという場面が2度ほどあった。もちろん、真剣であったとしても負けることはなかっただろうが、少しは怪我を負っていたはず。まさに、実戦経験不足ゆえの未熟さ。

 実戦経験。

 日本で修行してきた俺にはそれが決定的に足りていない。
 今後、この世界で活動していく中で、多くの実戦が必要となるだろうに。

 ……。

 この異世界での暮らしに戦いなど不要というのもひとつの考え方。
 実際、危険を犯さず異世界を楽しむ方法もあるだろう。

 それでも、俺はこの世界に遊びに来たわけじゃない。観光でもない、金儲けでもない。
 10歳の頃からずっと夢見てきた血沸き肉躍る冒険をするために来たんだ。

 40男が子供のようなことを言っているのは分かっている。
 それでも、俺はそのために生きてきた。
 そのために準備してきた。

 おそらく、今後は命を懸けた戦いが俺を待っているはず。
 もちろん、無闇に殺生をする気など微塵もないが。
 命のやり取りは避けられないだろう。

 ……。

 自分の剣術がある程度は通用するという自信。
 実戦経験の欠如に対する不安。

 この2つを強く自覚できたのが今日の収獲だ。


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