30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

夕連亭 3

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「うん?」

 興奮のため眠りが浅かったわけではないだろうが、夜中に目が覚めてしまった。
 階下から物音が聞こえたような、そんな気がしたからだ。

 腕時計を見てみると、こちらの時間で午前2時。
 まだまだ起きる時間じゃない。
 もうひと眠りしようとするが、トイレに行きたくなってきた。
 昨夜は結構な量のお酒を飲んだからな。

 眼をこすりながら部屋を出て階下へ。
 この宿の難点は風呂とトイレが部屋にないことなんだよな。
 まっ、そもそも風呂そのものがこの宿にはないんだけど。

 そんなわけで階下へ足を運んでいるのだが、トイレのためにわざわざ1階に行くのは面倒だ。

「ふぁ~」

 あくびが出てしまう。
 トイレは食堂の手前だったな。

 深夜なので、足音を立てないように歩く。

 うん?

 食堂への扉が開いている
 うっすらと明かりも灯っている。
 誰かいるのか?

 食堂内に一歩足を踏み入れると。

 何か違和感が……。
 空気が変わったというか何というか説明できないが、変な感じがするのは確かだ。

「……」

 とりあえず、中に入ろう。
 歩きながら、寝ぼけ眼で食堂内を眺めていると。

 ……あれは?

 倒れている?
 誰かが倒れているぞ!

 さっきの物音はこの人が倒れた音だったのか。
 眠気が急激に覚めてくる。

「大丈夫ですか?」

 薄暗い食堂に入り、うつ伏せに倒れているその人を肩を揺するも反応がない。
 脳の問題か、心臓か?

 これはまずいんじゃないか。

 ゆっくりと抱え、仰向けにする。

「なっ!?」

 ウィルさん!

「ウィルさん、どうしました、ウィルさ……!!」

 倒れていたのはウィルさん。
 その胸からとんでもない量の出血!!

「えっ??」

 脈と息を確認する。

「……」

 いや、そんなはずは!
 もう一度確認だ。

 もう一度……。

「……」

 ……脈も呼吸も確認できない。

 なんだそれ?
 どういうことだよ。

 ……。

 まだ覚醒しきっていない頭が混乱する。

 ウィルさんが?
 そんなバカな。

 さっきまであんなに元気だったのに。

「うっ……」

 胸から込み上げるものを感じ、思わず床に手をついてしまう。
 飲み過ぎていたアルコールが逆流する。

「はぁ、はぁ」

 何なんだよ……。

 頭が回らない。
 気持ちが悪い。

 息が荒くなってしまう。

 けど……。

 今はウィルさんを何とかしないと。
 何とかって、何を?

 何でもいい。

 そうだ。
 魔法だ。

 治癒魔法は得意じゃないが、使えないことはない。
 この状態で効果があるかは分からないが、試してみないと。

 出血しているウィルさんの胸に手を近づけ。

 と?

 ……。

 えっ!?

 背後から衝撃。

「!?」

 首に熱いものが走る。

 何が?

 誰かいたのか?
 あんなに修行をしていたのに、背後の気配に気づかないなんて。

 床に膝をついたまま振り返る。

「……?」

 誰だ?
 よく見えない。

 詰問しようとするも、

「カハッ?」

 むせる。

 えっ?
 何?
 声が出ない?

 熱い?
 首が?

 首に手をやると。

 ……。

「えっ?」

 血!?

「カッ、カハッ」

 えっ?

 急速に手足の力が抜け始める。

 えっ??

 膝が崩れる。

 えっ???

 床に倒れてしまう。

「ハァ、ハッ、カハッ」

 うまく息ができない!?
 目がかすむ!?

 ???

 混乱した頭の中に疑問だけが回り続ける。

 どうして??

 さ、寒い!?

 今まで感じたことのないような寒さに震えが止まらない。
 いや、震えているのかもよく分からない。

 かすむ目の前に誰かの足?
 誰かが俺を見下ろしている。

「&%#$&$」

 何か言ってる?
 よく聞こえない!?

 聞こえない!
 見えない!
 寒い!

 まずい、まずい!!

 焦っているのに、頭はまわらない。

 さむい……。

 これは……もう……。

 もう……。

 ……。


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