30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

夕連亭 14

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「おふたりとも、大丈夫ですか?」

「え、ええ、私は」

「私も大丈夫です」

 ロープで拘束している間、俺のことを黙然と見つめていた2人。
 そろそろ、話ができる状態に戻ったかな。

「どうしてコウキさんがここにいたのですか?」

「ウィルさんが襲われるという話を偶然耳にしたもので、助けるためにここで待っていました」

 あらかじめ用意していた作り話。
 ちょっと無理があるけど、許してほしい。

「……」

「そんなことが……」

 黙り込むヨマリさん。
 あらぬ場所を見つめながら呟くウィルさん。

「とりあえず、これで一安心です」

 詳細は語らず、流しておこう。

「あの、コウキさん?」

「はい」

 困惑の表情がとけないヨマリさん。
 何か失敗したかな?

「いえ……あの、ウィルを助けてくださり、ありがとうございました」

 少し表情が和らいだ。

「ありがとうございました」

 ふたりともに、深々と頭を下げての感謝の言葉。

 色々と事情がありそうだから、俺のとった行動が今後にどういう影響を与えるのか分からない。
 それでも、今回はウィルさんを助けることができたし、俺の命も無事だった。

「ウィルさんを助けることができて良かったです」

 本当に良かった。
 ここに戻って来て良かった。

「コーキさん。知り合ったばかりなのに、ここまでしてもらうなんて。本当にありがとうございました」

「まあ、その、成り行きですから」

 とはいえ、これが俺の異世界での第一歩。
 ウィルさんを見捨てて、この先異世界の道を胸を張って歩いていけるなんて思えない。
 成り行きでも重要な一歩だ。

 まあ、自己満足の偽善とも言えるけれど。
 命を懸けた偽善かな……。

「そんなこと……。コーキさん、この御恩は決して忘れません」

 また、深く頭を下げてくれる。

「感謝の言葉は充分いただきましたから、もういいですよ」

 ホントにもう充分だ。

「コーキさん」

 ウィルさん……。

 こうして見ると確かに女性に見える、かな。
 やっぱり、女性なんだろうな。

 ウィルさんの横顔を眺め、そんなことを考えていると。

「コウキさん?」

 ヨマリさんが、不安げな表情で横から近づいて来る。

「どうしました」

 ちょっと、近くないか。
 俺の肩にヨマリさんの肩が当たりそうだ。

「この2人は生きているのですか?」

「え、ええ、気絶しているだけです。こちらの2人のことは……ヨマリさんに任せた方がいいですよね」

 肩をずらしてヨマリさんから、少しだけ離れる。

「気を失っているのですね」

「そうです」

 部外者の俺はあまり口を出さない方がいい。

 ウィルさんを助けることができ、自分もこうして生きている。
 俺としては、それだけで充分だ。
 詳しい事情を聞くつもりもない。

 姉の娘を養女として育て、男として宿屋で働かせている。
 一族の問題も色々と抱えているように見える。

 そんな複雑な家と一族の事情を余所者に知られたくないだろうしな。

 それに、ここから先は異世界初心者の俺には手に余りそうな案件だ。

 まあ、多少は知ってしまったけど、それは成り行きというもの。
 見逃してもらいたい。

「その、拘束が解けないか心配で」

 再び近づいてきたヨマリさんの息が俺の頬をなでる。

「まあ、大丈夫だとは思いますが……」

 身を屈め、確認のため床に倒れた2人を拘束するロープを手に取る。

 問題ない。
 しっかりと拘束されている。

「問題な……」

 と、背後から顔を覗かせたヨマリさんの頬が俺の頬に触れそうになる。

 だから、近いって!
 もう少し離れてくれ。

「ちょうど良かったわ。試したかったの」

 何を?
 そう思い、ヨマリさんから離れるために立ち上がろうとする。

 と……。


 えっ!?

 首に衝撃!

 えっ?

 何だ?

 熱い!?

 これは……?

 振り向いた先には……ナイフを構えたヨマリさん!?

「ごめんね、コウキさん。でも、ちょうど良かったのよ」

「なっ、どうして、母さん!!」

 何を言ってるんだ?

 熱い……。

 首に手をあてると。

 血……。

 溢れている。

 ……。

 何だよ、それ!?
 何なんだよ!!

 どうして……。

 前回のことが頭を過ぎる。

「はあ、はあ」

「コーキさん、コーキさん、しっかりして。すぐ薬を」

「はあ、はあ……」

 前回と同じことが……。

「コーキさん!」

「何事だ、これは!?」

 誰かが入ってきた。

「ベリルさん、母さんがコーキさんを! 薬を!」

「ウィル、何を言っているんだ。落ち着いて話しなさい」

「はやく、早く薬を!」

「ヨマリ、これは?」

「今さら来ても遅いわよ、ベリル」

「はあ、はあ、はあ」

 ああ、まずい。

 くそっ!
 またしても!

「カハッ……」

 手足から力が抜け、目がかすむ。
 さむい……。

「ああ、死んでしまうのね」

 さむい、さむい……あたたかい?
 ぼやけていく視界の中、体を抱えられている感触だけが伝わってくる。

 これは……ウィルさん?

「コーキさん! コーキさん! コーキさん!!」

 ありが、と、ウィルさ……。

「やっぱり、マチガイ・・・・ね」

 何を言って……。

 ああ……。

 ……。

 ……。


『…………リセット』




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