30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

夕連亭 16


<ベリル視点>




「よく見つけられたもんだな」

 深夜。
 ヨマリが宿を訪れたその夜。
 皆が寝静まった時間に私の部屋に顔を出した。

「予言があったからよ。それに、あの子、少し変な魔力を持っていたから」

「それも超越者の特徴だったか」

「そういうこと」

 予言の話をしたかったようだ。
 私も少し話しておきたかったから、丁度いい。

「しかし、予言には時刻までは記されていなかっただろうに」

「今日という日が分かっていれば何とでもなるわ。私にとっては楽な仕事よ」

「ヨマリなら、そうかもな」

 確かに、ヨマリなら問題ないのだろうな。

「私以外でも同じよ」

「俺は無理だぞ」

「あなたは例外でしょ、ベリル」

「フッ、そうだな」

「でも、本当にあの子が予言の子なのかしらね」

「『死ヲ超越セシモノ、漆黒ヲイタダキ、オルドウニオリタツ』だったか」

「ええ、そう。でも、漆黒ってあの髪色のことかしら?」

「それ以外に黒という色はないな」

「確かに、黒という髪色は珍しいけれど、漆黒をいただくという表現がねぇ」

「まあ、予言とはそういうものだ」

 予言とは総じて曖昧な表現が多いもの。

「そうね…」

「ああ」

 まだ何かを考えているようなヨマリの表情。

「どうした」

「死を超越……。あの子が死を超越しているのかしら。あなたも気になるでしょ」

 それは気になる。
 が、おそらく……。

「分からないわねぇ」

「それはそうだ。試してみなけりゃ分からんだろ」

「その通りだわ。殺してみる?」

「物騒だな」

「一族には必要なことよ」

「……」

 ヨマリなら、やりかねない。
 十分にそれが理解できる。

「でも、あの子のこと気に入っちゃったから、死んでほしくはないのよね」

「それなら、止めておけばいい」

「そうね……。今のところは様子見になるかしら」

「そうしておけ」

「ええ」




**********




「ふぅ、今回はすんなり戻ってくることができた」

 夕連亭の一室、俺が借りている部屋の中。
 オルドウの時間で3刻。
 事件が起こる日の早朝だ。

「3度目の朝だな」

 2度目のリセットの後、いったん日本に戻り休憩。
 ゆっくりと考えをまとめ、その後は前回とほぼ同じように行動し当日を迎えた。

「肉体的にも精神的にも問題ないはず」

 あのトラウマは乗り越えた…多分。

 ……。

 セーブがないのは正直言うと不安ではある。
 だからと言って、することに変わりはない。
 今回失敗したら次はないが、後戻りせず前だけ向いて進もう。




「コーキさん、おはようございます。お早いですねぇ、よく眠れましたか」

「おはようございます。おかげさまでよく眠れました」

 真実を知ってみると、ウィルさんは確かに女性だな。
 こんな美しい女性が男性であることに疑いを持たなかったなんて、自分の見る目の無さにあきれる。

 まあ、その服装や本人と周りの態度で、思い込んでしまったんだろうけど。

 ホント、ウィルさんのことといい、死への恐怖心といい、脳というのは厄介なもんだ。
 こっちが制御していると思っていたら、逆に制御されていたんだからな。

「そうでしょう、ウチの宿のベッドは寝心地が自慢なんですよ」

「良いベッドですね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ああ、朝食はもうすぐできますので、少し待っていてくださいね」

 いい笑顔だ。
 この笑顔を守らないとな。

 食堂の椅子に腰を掛け朝食を待っていると。

「おはようございます、コウキさん」

 ヨマリさん……。

 今は屈託のない微笑みを見せてくれる。
 この人が……。
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