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第1章 オルドウ編
夕連亭 20
しおりを挟む見事な体捌きで俺の掌底の衝撃を逃がしたオルセー。
敵ながら感心してしまう。
「やりますねぇ」
「そっちこそな」
それでも……。
その動き、その顔つき。
少しは効いているのか。
「どうやら、油断はできないようですね」
「……」
「……」
沈黙したまま対峙する。
その静寂を破るように。
「コーキさん、すごい」
意識を取り戻したウィルさんの声が俺の耳に届く。
身体に異状がないか確認したいところだが、オルセーの前でそういう姿を見せたくはない。
ウィルさんを人質にでもされたら厄介だからな。
とにかく、オルセーが人質を考える前に、やつが余裕のある内に倒さないとな。
ゆっくりと体重を前に移す。
「アイスウォール、アイスウォール」
すると、オルセーも魔法を発動。
先程よりやや大きな氷の壁が俺の背後に2つ出現。
『く』の字を描くようにして後ろを遮っている。
「もう逃げ場はないですよ」
確かに、魔力を使えない今は後ろに回避することは不可能だ。
「覚悟してください」
今まで以上の速度で強烈な突きが真正面から向かってくる。
背後には跳び退く空間はない。
なら、前に出るのみ。
中段に構えた剣をそのまま真っ直ぐに突き出す。
突きと突き。
俺の剣か、やつの剣か。
勝負だ!
共にお互いの心臓に狙いを定めた一撃。
平行に進んだ2本の剣がすれ違い白光が飛ぶ!
その瞬間。
両手突きの体勢から右手一本に持ち替え、左の身体を開くようにして右手をさらに突き出す。
もらった!
オルセーの剣が俺の服を掠めていく。
そして、俺の剣がオルセーの左胸に突き刺さった!
「ウグッ!」
狙い違わずオルセーの胸に突き刺さった剣。
ゆっくりと抜き去り、一振り。
血を払う。
力無く膝をつくオルセー。
「コーキさん!」
「オルセーを倒したの!」
「……」
捕らえるつもりだったが、仕方ない。
と、その瞬間。
パリーン!
甲高い音と共にわずかに光を帯びた薄靄のようなものがオルセーを包み込む。
「あれは!?」
ウィルさんの声が響く。
なんだ?
氷の壁とオルセーの両方から距離をとる。
魔法の一種だろうか靄はすぐに晴れていく。
そこには……。
ゆっくりとこちらに顔を向けるオルセー。
しっかりと眼を開いている。
その眼は力に満ちており、苦悶の表情など微塵もない。
何が起こったんだ?
先程の一撃、心臓を突き刺したはず。
確かに手応えはあった。
オルセーの服の左胸の部分も破れている。
俺の剣が通った痕だ。
やつの胸元には……。
血が止まっている。
「……」
「フフフ、ハハハハハ」
さっきまでの剣撃が嘘のように静まり返っていた夕連亭の食堂内に、オルセーのくぐもった様な気味の悪い嗤い声が響き渡る。
嗤いながら立ち上がり、こちらに歩を進めるオルセー。
その姿には、致命傷どころか些少な傷さえも受けた様子がない。
やはり無傷ということか。
本当に意味が分からない。
この夕連亭に来てからというもの、理解できないことが多すぎる。
「どういうことだ?」
「フッ、ハハハハハ」
こいつの嗤い。
相変わらず神経を逆なでしてくれるな。
が、今はそんなことより。
「何をした?」
「コーキさん、ベリニュモナの護宝です」
ウィルさんの声が届く。
ベリニュ……。
何だそれ?
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